絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  『ティニー ふうせんいぬのものがたり』川村元気さん、佐野研二郎さんインタビュー

───トークショー&サイン会、お疲れ様でした。とても軽妙なやり取りで、ぐいぐいと引き込まれました。お二人は絵本を作る前から面識があったのですか?

佐野:もちろん、川村さんのことは作品を通して知ってはいたのですが、今まで接点がなくて、お会いしたのは絵本を作ることが決まってからなんです。

川村:ぼくは担当編集者から「佐野さんは日本のディック・ブルーナだ」と聞かされていて、お会いできるのを本当に楽しみにしていました(笑)。

佐野:ぼくも川村さんもディック・ブルーナが大好きだというところが共通点なんです。

───トークショーの中で、30年前から『ティニー ふうせんいぬの ものがたり』の構想があったとおっしゃっていましたが、佐野さんとタッグを組んで作られることで変わっていった部分などありますか?

川村:ぼくは何かを得ることと喪失することがセットになっている話が好きなんです。童話や絵本でいうと『ないたあかおに』(作:浜田廣介)や『100万回生きたねこ』(作:佐野 洋子  出版社:講談社)のような…。なので、自分が作る作品もどこか「ただ幸せなだけでは終われない」と思ってしまうんです。

───『ティニー ふうせんいぬの ものがたり』も家に帰ることとラビィとの別れがセットになっているお話ですよね。

川村:でも、佐野さんが絵を描くとウェットな感じではなく、切ないシーンもさわやかに見えます。打ち合わせしているときから感じていましたが、外国人と一緒に作っているような気分なんです。

佐野:ぼくは自称ローマ人なので(笑)。

川村:そうなんですか(笑)、初めて聞きましたよ。

───作品に出てくる「ふうせんのたき」やドーナツ型をした「バルンおうこく」など、絵を見るとすごいカラフルで楽しい感じが伝わってくるのですが、文章のみで表現されたものを絵に起こすのは大変ではありませんでしたか?

佐野:最初はどんな絵にしようかと悩むことも多かったです。でも、川村さんの文章には「ばいん ばいん」や「ぷうか ぷうか」という音が印象的な表現がたくさん出てくるんですよ。その音にひっぱられる感じでイメージが出てきたので、すごく苦労して描いた部分は、ひとつもないんです。

川村:佐野さんの絵を見て、ぼくの方でも文章をブラッシュアップしていくことができて、本当の意味でいいキャッチボールができたと思います。こんなに楽しい共作ってあるんだな…とやり取りをしながら毎回驚きの連続でした。

───『ティニー ふうせんいぬの ものがたり』は『Casa BRUTUS』での連載からはじまったお話だということは、トークショーでもお話されていましたが、絵本にすることは最初から決まっていたのですか?

川村:最終的に絵本にしたいとは思っていました。でも、連載中はどんな形の絵本になるのか、ページ数はどのくらいか…など細かいところはまったく決まっていませんでした。ぼくも佐野さんも絵本は初めてだったので、連載としてスタートすることでキャラクターの造形や色、文章と絵の関係性などを読者の反応を見ながら作り上げていくことができた。絵本の連載というのは珍しいし、非常に面白い企画だったと思いますね。

───絵本が出来上がるまでの過程を読者が見ることはほとんどないので、すごく斬新な試みだなと思いました。対談の中で「らいおんのリオン」は、とある編集者をイメージして作ったキャラクターだと伺いましたが、ご自身がもし、ふうせんどうぶつだったら、誰に似ていると思いますか?

川村:ぼくがティニーで佐野さんがラビィだと思います。ぼくは周囲をきょろきょろしながら客観的にみるクセがあるのですが、ティニーもだいたい一歩引いた目線で周りを見ているキャラクターなんですよね。

佐野:ラビィはティニーの名前をいつまでも覚えられない、忘れん坊キャラ。ぼくも打ち合わせの内容をすぐに忘れたり、メモを取っていないところがある(笑)。そんなところから川村さんはラビィを思い浮かんだんだと思います。

川村:意外とラビィみたいなやつの方が、真理をついていることってあるじゃないですか。最後に名前をちゃんと覚えてくれているところとか。感動しますよね。

佐野:ティニーとラビィは一見、でこぼこコンビなんだけど、お互いがいるので成り立っているような感じがしますよね。作品を作りながら、ぼくと川村さんの中でもそういう関係性が出来上がってきたという感じはありましたね。

───巻末のプロフィールに書いてある、おふたりのふうせんの色ともぴったりきていますね!





絵本大好きパパが共通点の2人

───絵本を作っていく中で、様々な発見を繰り返して楽しまれながら進めている感じがすごく伝わってきました。お二人は普段から絵本に触れる機会はありますか?

川村:ぼくも佐野さんも、そして編集者の奥村さんも絵本大好き。それに子ども達の年齢もお互い近いので、普段から絵本には触れる機会が多かったんです。

佐野:読み聞かせもよくやっていますよ。『ティニー』は完成直前に子どもに読んだんですが、1回でキャラクターの名前を覚えたり、「大きくなったらティニーの友達をつくりたい」と言ってくれて…嬉しかったですね。絵本を作ることになって、我が子に読ませなきゃいけない、喜ぶものを作らなければいけないというのが最大のプレッシャーだったので…(笑)。

───子どもは素直だから、反応が一番よく分かって…そこが怖いですよね。絵本を描いたことで周りの変化などを感じたことはありますか?

佐野:ぼくは子どもの通っている保育園に寄贈したんですが、すごくみんなが喜んでくれて。絵本を描いたことでいきなりステータスが上がった感じがしました。「絵本描いているんですか!」ってすごく親しげに話しかけてくれる方が増えて…。今まで、何の仕事をしているのか保育士さんや周りの親御さんたちは疑問に感じていたみたいですね…(笑)。

川村:絵本は独特で、子どもたちにとっては宝物のようなものですからね。ぼくもパパとして少しは尊敬されるようになったかも(笑)。

───川村さんは映画プロデューサーとして、佐野さんはアートディレクターとして、それぞれ第一線で活躍されていますが、絵本を作ることは今までと違った緊張があったのですね。

川村:ぼくも佐野さんも絵本が大好きなので、「別業界から来ました」という軽い気持ちで絵本に入っていくのは失礼だと思ったんです。だから、絵本の歴史を徹底的に調べて、とにかくたくさん読んで、絵本について真剣に向き合うことからはじめました。その上で、古典のよさを取り入れつつ、現代的な視点をどう入れるか…という部分にチャレンジしました。

佐野:ぼくも普段は広告業界で仕事をしているので、絵本を手掛けることにかなり緊張していました。でも、レオ・レオニやディック・ブルーナも、一流のグラフィックデザイナーで、自分の息子や娘の為に絵本を描き始めたと知って、「ぼくと同じだ!」と勇気をもらって絵本づくりをスタートさせました。

───『ティニー』はジェリービーンズのようなカラフルなタッチで描かれていながら、おはなしの内容はすごくオーソドックスですよね。絵本の古典と新しさがうまく合わさっていると感じました。

川村:そこは今の子ども達に合うようにかなり意識した部分ですね。今の子ども達は「カーズ」や「モンスターズインク」などCGを使った動きのあるアニメ映画を普通に見て育っています。その子たちに、これはクラシックでいい絵本だからと薦めても、なかなか楽しんでもらえないという不安がありました。『ティニー』はカラフルでポップな絵で、今の子ども達が好きな要素をふんだんに取り入れつつも、描かれていることはレオ・レオニやディック・ブルーナが伝えたかったことに近い。日本のディック・ブルーナといわれる佐野さんと組んで、現代の子ども達に手渡す絵本なら…と考えて作った作品なんです。

佐野:川村さんと仕事をしてぼくがビックリしたのは、川村さんがまだ完成していないティニーのデザインをキャラクターデザインのプロの方などいろんな方に見せて意見を聞いていたことなんです。自分の作品について多くの人の意見を聞くことって怖いじゃないですか。でも、川村さんのような一流の映画プロデューサーが、進んで意見を求めに行っていたんです。表紙のデザインについては、みんなで表参道のクレヨンハウスに行って、名だたる絵本の表紙と並べて比べたりしてましたよね。

川村:ぼくが仕事をしている映画業界は、公開されたときにはすでに多くの作品と比べられているジャンルなんです。シネコンなどの場所でぼくの作った映画とスピルバーグの映画が一緒に並んで戦わなくてはならないことだってあります。そういうジャンルだからか、絵本でも発売前にできること、聞けることは全部やって納得してから発表したいと思ったんですね。
文章を書いているときは、書店で一流の絵本の横に並ぶ気持ちで『スイミー』を横に置いてました。あまりにもずっと身近に置きすぎて、その後仕事で谷川俊太郎さんにお会いしたとき、初対面という感じが全くしませんでした(笑)。

今、あなたにオススメ

出版社おすすめ



児童書出版社さん、周年おめでとう! 記念連載
可愛い限定商品、ゾクゾク♪

川村 元気(かわむらげんき)

  • 1979年横浜生まれ。東宝にて『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』などの映画を製作。
    2010年に米ハリウッド・レポート誌の「Next Generation Asia 2010」に選出され、2011年には優れた映画製作者に贈られる「藤本賞」を史上最年少で受賞。
    2012年には小説『世界から猫が消えなたら』を発表。

佐野 研二郎(さのけんじろう)

  • 1972年東京生まれ。 アートディレクターとして数々のTVCMや グラフィックデザインを手がける。
    トヨタ自動車「ReBORN」、サントリー「BOSS」「南アルプスの天然水」「グリーンダカラちゃん」、au「LISMO!」、日光江戸村「ニャンまげ」、 TBS「TブーS! 」、ミツカン「金のつぶ・とろっ豆」、ベネッセ「三歳児教材ほっぷ」などのデザインを手がける。

作品紹介

ティニー ふうせんいぬのものがたり
ティニー ふうせんいぬのものがたりの試し読みができます!
作:かわむら げんき
絵:さの けんじろう
出版社:マガジンハウス
全ページためしよみ
年齢別絵本セット