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岩崎書店 えほんができるまで 作家インタビュー

岩崎書店様

2018/01/18

【連載】『たかのびょういんのでんちゃん』菅野博子さん、高野己保さんインタビュー

【連載】『たかのびょういんのでんちゃん』菅野博子さん、高野己保さんインタビュー

今なお、人々の中に強烈な記憶を残す「東日本大震災」。「あの日の記憶を風化させてはいけない」その思いは、被災地の人々だけでなく、日本に暮らす多くの人々の心に宿っているのではないでしょうか。
2018年1月、東日本大震災の記憶を後世に残す、新たな絵本が出版されました。
たかのびょういんのでんちゃん』。
主人公の「でんちゃん」は、福島第一原発からわずか22kmの場所にある、小さな病院に置かれていた、一台の自家発電機です。

たかのびょういんのでんちゃん たかのびょういんのでんちゃん」 原案:高野己保
作・絵:菅野 博子
出版社:岩崎書店

30年前に病院にやってきたディーゼル発電機、でんちゃん。
地震と津波、停電の危機のなか、でんちゃんは旧型の体にむちうって、5日間発電し続けた。
実話を元にした絵本。

自家発電機とは、停電などで電気の供給が止まったときに、自動的に稼働し、作り出した電気を建物などに供給する機械のこと。
しかし、非常時でもない限り、でんちゃんが稼働する機会はめったにやってきません。
でんちゃんも30年もの間、とてもたいくつに過ごしていました。

しかし、そのときは突然やってきます。
「ぐらぐらぐら」と体が揺れる大地震。山のような大きな津波。
そして訪れる、停電。

でんちゃんは、はじめて力いっぱい稼働することになりました。

病院に再び電気が通るまでの5日間、発電をし続けたでんちゃん。
自家発電機という、機械を通して語られることで、震災の惨状、悲壮感が抑えられ、でんちゃんの頑張りを応援し、病院で働く人々との交流に心がポッと温まるような本作。
この作品の誕生には、高野病院の現理事長・高野己保さんの強い思いがありました。
高野:でんちゃんのはなしは、私が地元紙「福島民報」の「民報サロン」のコラムを担当していた、2014年5月から8月に書いた「でんちゃん物語」が初出でした。 友人をはじめ、多くの方から大変ご好評をいただいたこともあり、絵本化の夢を持たせていただきました。しかし、素人が簡単に絵本を作れるわけもなく、知り合いに勧められた出版社などに問い合わせなどもしてみたのですが、やはり現実は厳しかったのです。
そんな高野さんの思いが、実を結んだのは、2015年6月のことだったそうです。
高野:仙台で開催された「看護師の採用と定着を考える会」で登壇する機会があり、そこで出会った方を通じて、岩崎書店さんに、ご相談させていただきました。そして、2016年7月に、正式に出版が決まりましたとご連絡をいただいたのです。
自分が子どものころはもちろん、現在、中学2年生の双子の娘たちも小さいころからずっと岩崎書店さんの絵本には親しんできておりましたので、「えーそんなりっぱな会社から!!」と、絵本になるという喜びよりも、驚きが先に立ちました。
高野病院の理事長であり、絵本の原案を担当した高野己保さん。
しかし、企画だけではもちろん絵本はできません。岩崎書店の編集者さんは、福島県いわき市在住の絵本作家・菅野博子さんに、「でんちゃん」の物語を絵本にしてほしいと依頼します。
菅野さんはそのときのことを、こう語ってくれました。
菅野:高野病院は、「震災のときに避難せず患者を守った病院」として新聞などにも紹介されていたこともあり、以前から聞いていました。岩崎書店の編集者さんから、絵本の資料として「福島民報」に掲載された「でんちゃん物語」をいただき、それを読み、震災時のでんちゃんと病院の方々の緊迫感をひしひしと感じました。ぜひ、でんちゃんをモデルに絵本を作りたいと思いました。
「でんちゃん」のおはなしを絵本にした、絵本作家の菅野博子さん。
菅野さんは、1年間をかけ、でんちゃんの物語を絵本にするべく、作品をまとめていきました。その中で、高野病院にも足を運び、高野己保さんからでんちゃんのことを聞いたそうです。
高野:菅野さんとは、2016年9月に病院でお会いしました。初対面だったのですが、共通の知り合いがいたり、卒業の学校が同じだったりと、初対面から一気に距離が近くなりました。
お会いしたときは、でんちゃんがいた部屋や病院の写真なども撮影され、私の「でんちゃん物語」の絵本化に対する思いや、でんちゃんのイメージを聞いてくれました。その後、岩崎書店の担当の方を通して、絵本の発売が2018年になるということを聞きました。聞いたときは、絵本作りにそれほど時間がかかることにびっくりしましたが、それだけ時間をかけて、流行りではなく、読み続けられる、しっかりとしたものを作っていくという真摯な気持ちが伝わり、そのなかにでんちゃんを入れていただけることにとても感謝しました。
菅野:私が取材に伺ったとき、でんちゃんの部屋には、でんちゃんからその仕事を引き継いだ「おでんちゃん」がいました。
本物のでんちゃんの姿は、写真でしか見ていないのですが、高野さんから、でんちゃんのイメージを「やんちゃなでんちゃん」と伺っていたので、とにかくいつも元気で明るく素直なでんちゃんを表現したいと思いました。
最初に編集者さんに見てもらったラフスケッチでは、でんちゃんに手を描いていたんです。しかし、編集者さんから「手は、ない方がよいと思います」とアドバイスいただき、なくすことにしました。
そのため、目と口だけで、でんちゃんの感情を表現しなければならないのは大変でしたが、より、本物のでんちゃんに近づくことができたのではないかと思っています。

菅野さんは、取材後も高野さんにメールで連絡を取り、でんちゃんについていろいろ質問をされたそうです。
震災当時のでんちゃんのこと、病院に避難していた人々のことを、真剣に感じ取ろうとする、菅野さん。その熱意に感動した高野さんとのやり取りは、何度も続いたと言います。
高野:絵本の制作が始まってからは、もう私は「一読者」と「でんちゃんの母」の気分でした。編集の方からレイアウトなどが届くたびに「わぁ〜すごぉ〜い!!」と感動してばかり(笑)。なかでも、絵本の中に私をモデルにした「みおちゃん」をはじめ、院長や他の人が描かれていることに感動しました。「あのとき、あの場所に、菅野さんもいたの??」と思うくらい、みんなそっくりで、さすがプロの力はすごいなぁと感動しました。
絵本の中には、高野さんや当時の院長など、高野病院にいた人々が描かれています。
『たかのびょういんのでんちゃん』が絵本になるという情報は、地元誌「福島民報」などを通じて、早くから話題となりました。高野さん、菅野さんの元にも、絵本を読んだ方からの感想がたくさん寄せられているそうです。
高野:絵本に登場する、中学のときの「みおちゃん」が、私の双子の次女にそっくりで、絵本を読んだ娘も嬉しそうでした。
周りの方々が、「発売が楽しみだぁ!!」「子どもの保育園に贈ります」「宣伝する!!」と、言ってくださっていて、その気持ちが、何よりもありがたく、「でんちゃん、愛されているね」と嬉しく思いました。
菅野:高野病院のことは、テレビや新聞などに何度も紹介されていたので、福島県以外でも知っている方がたくさんいて、絵本のことをお伝えすると、「あの高野病院の話だね。」と反応があったことが嬉しかったです。
今はその役目を終えて、2代目「おでんちゃん」にバトンタッチをしたでんちゃん。
しかし、高野さんをはじめ、地元の多くの方から愛されている様子が絵本を読むと感じることができます。
絵本の最後には、高野さんからでんちゃんへのメッセージも掲載されています。

菅野:7年が経とうとする今でも、震災のことを思うと胸が痛みます。しかし、この絵本を開けば、ひたむきにがんばって患者さんの命を助けたでんちゃんに会える。
読者の方にも、でんちゃんの頑張りを感じていただけたら嬉しいです。
高野: 震災での体験は、今の私たちが、長期間電気がないだけでどれだけ心が疲弊するか、身をもって体験することとなりました。その中で、でんちゃんがつくり続けてくれた電気は、患者さんの命だけつないでくれただけでなく、私たちの心も支えてくれたのです。
私が、でんちゃんを広く皆さんに知ってもらいたいと思ったのは、「震災のとき、高野病院のスタッフや患者さんだけでなく、本当に頑張って電気を作り続けてくれた「機械」もあったんだよ!」ということを伝えたいという気持ちでした。
生きることを諦めない人間、その人間を生かそうとしてくれた機械。震災は多くのものを奪っていきましたが、それでも諦めなかった私たちの物語を知ってほしい。
震災から7年たって、震災を知らない子どもたちがこれからも増えていく中で、絵本を手にする子どもたちが、よく分からなくてもいいので、「でんちゃん」だけでもを覚えていてくれたら。
そして、その子が大きくなって、またこの絵本を手に取ったとき、「あ、でんちゃんって、こういうおはなしだったんだ」って、思ってもらいたい。それをまた次の世代へつなげていただければ、これほど嬉しいことはありません。 震災を知らない子どもたちも、震災の記憶がないままに大人になってしまった人たちにも、改めて、でんちゃんが震災を語ってくれるのではないかと思っています。そういう存在に、でんちゃんがなってもらえたらと心から願っています。
もうすぐ、7回目の3月11日がやってきます。
今年はこの絵本を手に、震災のこと、当時、たった一台で、病院に電気と生きる力を与え続けた、でんちゃんのことを思ってはいかがでしょうか。
絵本のモデルになった「でんちゃん」。




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※掲載されている情報は公開当時のものです。

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