阪神淡路大震災を扱っているだけに軽いコメントはいけないと思いますが、この絵本を見ていせひでこさんの絵本の中には音楽があったのだと得心しました。
その中でこの絵本はまさに音楽の世界を絵に変えたようなお話です。
あの大震災を経て生き残った人たち。
復興のチャリティとしてのコンサート、心の支えとしての音楽。
チェロを奏でる多くの人たちが集まり、風になるという素晴らしいお話。
現実にあったことを絵本の世界に見事にまとめていると思います。
震災で犬を失った少年の奏でる音。小鳥たちを思う少女の音。そして、亡くした友人の形見のチェロで追悼する音。
1000の思いが音になって、風を起こします。
この絵本でいせさんの絵は風のように透けています。
まさに音が聞こえるような絵本でした。
ところで、何故チェロなのでしょう。
バイオリンでもベースでもなく、管楽器でもなく弦楽器。
しかも、持ち運びには多少つらい大きさ。
そう考えると、チェロでなくてはいけない意味が浮かんできました。
音域が一番人間の近くにいる楽器であり、人間に近い大きさと重量感のある楽器だからです。
その音の重厚感と心に響く安らぎはいせさんの描く絵の世界そのものです。
チェロ奏者であるからこそ、いせさんは人間の心を透明感のある画質で表現しつづけているのだと思いました。