南の島に一人の鬼が流れ着いた。村の子どもたちの焚くたき火に近づいていくと、子どもたちがケンムンの噂をしていた。「あんれ、くせえぞ。だれか、へーこいたやつがおるな。」「おれじゃねえ。」「おれじゃねえ。」「それじゃおおかた、ケンムンどんだろうよ。」 すると、どこからともなく甲高い声が響いた。「うそだ! おら、へーなんかこいてねえど。」 それを聞いた子どもたちは一目散に逃げ出した…。
『島ひきおに』の続編です。一人ぼっちの鬼が、ケンムンという化け物と知り合い、友だちになります。ガジュマルの木の上で一緒に暮らし始めた二人は、楽しく幸せな日々を送りますが、やがてケンムンとの別れの日がやってきます。『島ひきおに』同様、哀愁の漂うおはなしです。ケンムンを失い、怒りと悲しみに満ちた鬼が村を荒らすシーンは、気持ちがわかるだけにやり切れない思いでした。そうして再び一人になった鬼が、ガジュマルを背負って暗い海を行く姿は、一人で島を引いて旅する前作以上に寂しさが伝わってきました。ガジュマルに羽を休める渡り鳥の存在が、そんな寂しさにポッと明かりを灯しているようで、救われました。鬼は今も一人で海をさすらい続けているのでしょうか…読み終わってなお行方が気にかかり…切なくなります。