
わたしは、カモメ。そう聞くと、みんなわらう。なんたって、わたしはねこだから。港町・ラーラにひとつしかない病院ののきしたでひろわれたわたしは、フジ診療所の飼いねこになった。これから話すのは、わたしがそこで、見聞きしたこと。 ある夜、はげしく噴きあがる炎につつまれて、一艘の船が港にたどりついた。そこで助けだされた赤ん坊は、いずれ、シアン、と呼ばれることになる。左のにぎりこぶしが、おなじ名前の巻貝のかたちに、そっくりだったから。にぎりしめられたまま、けっしてひらくことのないその左手には、ふしぎな力があったんだ。
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