今なお演奏会の人気プログラムのひとつであり続ける〈未完成〉にまつわる謎は、大きく二つある。なぜ作曲家はこの曲を2楽章で完結させたのか? なぜ初演が作曲家の死後、1865年まで持ち越されたのか? 気鋭の音楽学者として注目される解説者は、近年の研究成果を踏まえつつ、独自の視点に立ち、この曲の成立事情、中期の到達点としての位置付け、作品伝承と作曲者自身の評価、多様な出版譜の問題、等を周到に論じたうえで、楽章ごとに精緻な分析と大胆な解釈を展開する。本解説の、今までにない特色は、膨大な歌曲群を含む自作からのエコーや援用の指摘であり、かつ、次に続くロマン派作品への影響の言及である。
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