アグラ山のふもと、小さな池のほとりに暮らすキダマッチ先生は、あらゆる生きものたちのどんな病気やケガも直してくれる評判のお医者さん。
ある日の明け方。パサパサ、パサ……空から何かが降りてくる音が。病院のドアを開けおそるおそる外に出ると、巨大な鳥が立っていました。
「南の島からお迎えにきた、アホウドリです」
一度は断るものの、聞けば長老の孫娘が病気で、診てもらえなければ死んでしまうかもしれないと言うのです。そう言われたら放ってはおけないのがキダマッチ先生。往診かばんを手に、アホウドリの案内で山や海を越え、患者のもとに向かいますーー。
診療に訪れるさまざまな生きものたちとの、ちょっと不思議なやりとりが楽しい「キダマッチ先生!」シリーズの8作目。今回はずいぶんと遠く南の島まで出張です。
魚がとれなくなり長く何も食べていないアホウドリの女の子は、力なくうずくまっているのに、なぜかまるまると太っている。アホウドリ特有のあるクセが要因だと踏んだキダマッチ先生がかばんから取り出したのは……あっと目を見張る治療に、思わず浮き輪を思い浮かべてしまいました!
アホウドリのくちばしの先につままれて大海原を渡るキダマッチ先生の様子や(なんとスリリング!)、風をとらえ海面をすべるように飛行するアホウドリの姿や、悠々と壮大で迫力ある挿絵もみどころ。個人的にはひと仕事を終えたキダマッチ先生が崖に腰かけ夕日を眺めるシーンも好きです。心底ホッとしたような背中、細める目の先に見えるもの、先生は何を思っているのでしょう……。
そうそう、今作ではキダマッチ先生を「パパ」と呼ぶ、どうやら先生の娘らしき女の子も登場! 幼い頃に別れた父に一目会いたいと訪ねてきた、わけではなく、無茶なリクエストをぶつけてはまたもや先生の頭を悩ますのですが……辟易しながらもちゃんとお父さんの目をしたキダマッチ先生にも、ご注目です。
(竹原雅子 絵本ナビライター)
続きを読む