かいじゅうは、ひとりぼっちで森の奥深くで暮らしていました。まっくろなからだ、ぼっさぼっさのたてがみ、六本の大きな足。森に住む動物や鳥たちは、「へんないきもの!」「こっちにこないで」と言って、逃げていってしまいます。
かいじゅうは悲しくて、いつも泣いてばかりいました。そんなかいじゅうの涙で芽を出すことができた小さな木。かいじゅうと小さな木は友だちになりました。かいじゅうに守られて、小さかった木はずんずん大きくなっていきました。そしてある日、ひどいあらしが森を襲ったのです……。
表紙に描かれた、ユーモラスでありながら、なんとも奇妙な、かいじゅうの姿に惹かれる方も多いのではないでしょうか。
横長の判型をめいっぱいに使った大きな広がりと奥行のある絵が、かいじゅうが暮らす世界へと誘ってくれます。緑の地平線、はてしなく続く空、きらめく星、どっしりした大木。うわあ! って声を出して寝ころがりたくなるような、気持ちのいい空間がそこに広がっています。
さびしいな、と思って泣いてばかりいたかいじゅうが、思いがけないかたちで「ありがとう」と言われたことをきっかけに変わっていくのが印象的です。決して劇的に変わるわけではないけれど、ゆっくり、確実に。友だちのために自分ができることをやり、自分の居場所を見つけていくのです。
読んでいるうちに、「大丈夫、大丈夫。そのままの自分でゆっくり生きていていいんだよ」と優しく背中を押してもらったような気持ちになりました。
絵本の中にゆったり流れる時間と、のびやかで壮大な世界観を、ぜひ味わってみてください。
(光森優子 編集者・ライター)
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