●「はまらなさ」がかわいらしく、自然に描かれています。
───独立心旺盛で元気いっぱいのまめまめくん。ちっちゃいけれど、大人になったらちゃんとぴったりの仕事を見つけている。ハッピーエンドです。でも『まめまめくん』には、一抹の“切なさ”のようなものが入っているのではないかと……。
入っていますよね。それが『まめまめくん』のよさだと思います。
そういう文をデヴィッド・カリは書く人なのかもしれないですね。
私はカタリーナ・ヴァルクス(オランダの絵本作家。著書に「ハムスターのビリー」シリーズなど)のへんてこな絵本が大好きなのですが、彼女に以前インタビューしたとき、「絵本を通じてこの世界を好きになってほしい」と言っていたのが印象的でした(→カタリーナ・ヴァルクス作品についてのインタビュー記事はこちら)。
「この世界は生きる価値があると子どもに思ってほしい」「子どもはこれから世界を発見していく人たちだから」と。
現実世界には、不条理なことも困ったこともあるけど、解決して次にすすむ作品を彼女は描きたいんだと思います。それは本当に同感。その気持ちはすごくわかります。
───問題を解決して次にすすむ力。それは、世界と自分とのちょっとした「ずれ」を乗り越えていく力でしょうか?
『まめまめくん』にも共通するものを感じます。
そうですね。でも、「みんなとちがっててもいいんだぜ!」と声高に言い過ぎているわけでもないですよね。すごく自然。
『まめまめくん』には「はまらなさ」みたいなものがかわいらしく描かれています。
───『まめまめくん』を読んでいると、世界の見え方がどんどん変わっていくのを感じます。新鮮な気分がして「いいなあ」と思うんです。
ふしみさんが「いいな」と思ったのはどこですか?
淡々としたところと、いたずらっぽいところです。作者がちょっとウィンクしているみたいな感じ。きっと作者はこのお話をさらっと書いたんだろうなと感じました。
───“軽さ”が魅力なのでしょうか?
そう。軽いですよね。軽やかでいることは、意外とむずかしいです。とくに日本人はなまけちゃいけない、ってがんばるから。
『まめまめくん』はみんなとちょっとちがう子に軽くウィンクするみたいに、勇気づけてくれるかわいいお話です。
もし私が、現実にぶつかっている子どもだったら……「そのままでいいんだよ!」とただ強く応援されても「ほっといてくれよ」と言いたくなっちゃうかもしれない。最近は“声高に強く言ったほうが勝ち”みたいな雰囲気もありますけど、そうじゃないほうが私は好きですね。
最後に出てくる「まめまめくんの仕事」ですが、まめまめくんが描いているものは誰かにつながっていくものです。
誰かに送られる、そのために作られるもの。ちっちゃいまめまめくんが描いたものが、いろんなところへ、遠くへ行く。まめまめくんのまわりにあるちっちゃいものもいっしょに遠くへ行ける。そんな仕事ですよね。
───いいなあ、そんな仕事……。
ふしみみさをさんの仕事も、遠い国の言葉を翻訳して、もうひとつの遠い国へ届けるという意味では、同じですね!
そう言われると嬉しいです。たしかに絵本の翻訳はだれかに届いて、みなさんに読んでもらってはじめて完結すると思っていますから。『まめまめくん』、ぜひ読んでみてくださいね。
───これからも外国の素敵な絵本をたくさん教えてください!
きょうはありがとうございました。

最後に……
♪ ふしみみさをさんに もうちょっとだけ 質問 ♪
───『まめまめくん』はいつ頃、どこで訳しましたか?
夏です。ちょうどフランスのマルセイユに滞在していたときでした。家の電気が暗くて、夕方になって日が陰ってくると仕事ができないので、もうやめにして、シャーッと自転車をこいで、天気がいいと毎日海に泳ぎに行っていました。小学生の夏休みみたい(笑)。
───「まめまめくん」みたいに小さくなったら何をしたいですか?
隙間に入って人をおどかしたいです。「ワァ!」と(笑)。あとは……動物の治療をしてあげたいかな。ふつうの人間の手の大きさでは、手が入りにくいところにも、手が届いて、何とかうまく治療できるかもしれない。手先がもっと器用ならいいんですけど(笑)。
───『まめまめくん』を誰に読んでほしいですか?
子どもももちろんですが、意外と、会社に勤めている大人にも読んでもらえたらいいなと思います。会社でいつも居心地のわるい思いをしている大人の方(笑)。ぜひ読んでみてください。
───子どもの頃好きだった本で、最近読み返した本はありますか?
『ドリトル先生アフリカゆき』(岩波書店)です。「私、まだこの本好きなのかなあ」とドキドキしながら読み返しました。昔好きだったことだけ覚えていて、中身はほとんど忘れちゃっていたんですよ。読んでみたらおもしろかったです!「よかった〜」と安心しました(笑)。
子どもの本は大人になって読み返せるのがいいですよね。小さい頃と今との、感じ方のギャップを楽しんでください。

インタビュー・文: 大和田佳世(絵本ナビ ライター)
撮影: 所靖子