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インタビュー

2023.02.06

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画家・大社玲子さんの絵本『こねこのチョコレート』 主人公の心理の移ろいにミステリアスな味わいを

もうすぐバレンタインデーです。店先でおいしそうなチョコレートを見かけることが多くなりました。

画家・大社(おおこそ)玲子さんの絵本『こねこのチョコレート』は、弟の誕生日プレゼントに買ったチョコレートが気になって眠れなくなってしまう4歳の女の子のおはなし。食べたいけれど、食べてはいけない……。甘い誘惑と自制心との間で葛藤する気持ちに共感する人は多いのではないでしょうか。朝日新聞の本の情報サイト「好書好日」から、大社さんのインタビュー記事をご紹介します。
(インタビュアー:根津香菜子、写真:斉藤順子)

  • こねこのチョコレート

    みどころ

    ジェニーは4才の女の子。明日は3才になる弟クリストファーの誕生日です。プレゼントを買いに、おかあさんとお買い物に行ったジェニーは、自分のおこずかいひゃくえんで素敵な箱に入ったこねこのチョコレートを買います。

    プレゼントを自分の部屋のタンスに隠すジェニー。ところが夜ベットに入っても寝付けないジェニー。タンスの中のチョコレートが気になって仕方ないのです。

    「ひとつなくなってもクリストファーは気がつかないわ。」

    口に入れてみると……なんて甘くておいしいのでしょう!ベットに戻っても頭にこねこのチョコレートが浮かんできます。もうひとつ、もうひとつと食べているうちに……。どうする、ジェニー?

    ひとつ食べる事に葛藤し、結局食べ過ぎて気持ち悪くなってしまい、次の日は落ち込むジェシー。とても子どもらしい失敗。だけど、読んでいても他人事とは思えませんよね。絵本では、家族がそんなジェニーを温かい愛情で包み込み、ほっと幸せな気持ちで読み終わることができます。

    「わかる、わかる!」

    そんな言葉を発しながら、チョコレートが大好きな子ども達、そしてチョコレートに目がない大人達も、一緒になって手に汗握りながら楽しんでくださいね。

この書籍を作った人

大社 玲子

大社 玲子

山口県生まれ。松岡享子氏との仕事に「みしのたくかにと」(福音館書店)、「なぞなぞのすきな女の子」(学研)などがある。ドイツ語の翻訳で「くろて団は名探偵」(岩波少年文庫)がある。書籍の挿絵多数。

きっかけは友人への誕生日カード

ーー大社さんが子どもの本に関わるきっかけを教えてください。

大学では英米文学専攻でしたが、仏語講読の『星の王子さま』がいちばん強く印象に残っています。その同じクラスに、子どもの頃好きだった童話が共通して親しくなった友人が出来ました。その友人の誕生日に贈ったカードに描いた絵が、思いがけず彼女の大叔母さんにあたる児童文学者の石井桃子先生のお目に止まったらしいのです。「この人に挿絵を描いてもらったらいいんじゃない」と、当時児童書の出版事業を始めたばかりの「子ども文庫の会」をご紹介くださり、『ルーシーのぼうけん』の挿絵を描いたのが大学3年生の時でした。それから「おはなしのろうそく」シリーズなど、子どもの本の絵を描くお仕事をするようになったのです。授業中のいたずら書きとかは好きだったけど、その時は挿絵や絵本を描くなんて思っていませんでしたね。

「おはなしのろうそく 20」の冒頭には、絵本には載っていない挿絵が描かれている

――『こねこのチョコレート』の初出は小冊子「おはなしのろうそく」シリーズ(東京こども図書館編)の第20集(1993年刊)で、以後おはなし会で長く語られてきました。作品の大ファンだった当時の編集者が「耳で聞くだけでもおもしろいおはなしだから、絵本にしてもっと多くの子どもたちと出会ってほしい」と、絵本化を提案されたそうですね。

『おはなしのろうそく』で、初めてこの物語のカットを描いた時点では特に惹かれることもなかったので、絵本の企画をうかがってちょっと驚いたくらいでした。「女の子がチョコレートに惑わされるだけのおはなしなのに、それ以外の空白をぜんぶ絵に任されては、一体どうすればいいの?」と迷い、読者を意識してというよりは、まず私自身の制作欲をいかに掻き立てられるかが問題でした。そうこうするうち、絵本のページを繰るごとの場面展開によって、主人公の心理の移ろいをミステリアスな味わいも加えて描ければ、ごく単純なストーリーを終わりまで引っ張れるかもしれないと思いついたのです。

画材は水彩を使い、温かみがありながらも鮮やかな彩色が施されている

おはなしのろうそくシリーズ

誘惑に負けて後悔するまでの気持ちを丁寧に描く

――物語は「弟のために買ったんだから、食べちゃだめ!」という自制心と、「ひとつくらいなら食べてもいいよね……?」という悪魔の誘いと戦うジェニーの心理描写が丁寧に描かれ、子どもだけでなく、大人の共感も呼ぶストーリーになっています。チョコレートのことが気になって眠れなくなるシーンにページを多く割き、葛藤によって徐々に変化していくジェニーの表情に共感しました。

人物のモデルを使うことはほとんどありません。頭の中に自然と浮かんだイメージを鉛筆で何度も描いているうちに、段々と紙の上の人物が生きてくるというか、勝手に動き出すんです。夜中にジェニーがベッドを抜け出して、忍び足でチョコレートの箱まで歩いていくところは描いていて楽しかったですね。

私もお菓子は好きですが、どちらかというと自制心が強い方なのでジェニーのような失敗は経験がないんです(笑)。でも、この本を読まれるお子さんが少しでも感情移入しやすいように、チョコレートを食べてしまったことを後悔するまでのジェニーの気持ちの流れを絵でも丁寧に描きたいと思いました。寝ても醒めても頭に浮かぶこねこのチョコレートの幻想をそのまま画面に映したくて、一所懸命でしたね。

大社さんのアトリエで見せていただいた原画の中には、こねこの表情や色の違いが、より明瞭な一枚も

――こねこのチョコレートが空中浮揚していたり、8個あるチョコレートはひとつずつ微妙に形が違ったり。ジェニーが頭から離れなくなってしまうほど魅力的なチョコレートは、細部の描き方も工夫されていますね。

チョコレートが宙に浮かんでいるイメージは、最初のラフの段階からありました。こねこの形も、どうせなら1匹ずつ違った方がかわいいでしょう? それから、光線に語ってもらうよう試みました。暗い室内でジェニーが箱を開ける度、顔に反射する光により、チョコレートに心を奪われてしまう心理状態を視覚的に表せれば良いなと思いました。

――ジェニーとチョコレートの行方はどうなるの? とドキドキしながらも、弟の誕生日は家族全員の笑顔で幕を閉じます。

ずっとミッションスクールに通っていたので、寛容の精神は培われたと思います。やってしまった失敗や罪も、最後には赦しがあり、救われることをさりげなく伝えているこの作品に共感して、絵を描き上げました。

最初の『おはなしのろうそく 20』では冒頭1カットだけでしたが、物語すべてに絵がつき一冊の絵本になった時は嬉しかったですね。いつの間にか長い年月児童書に関わってきましたが、この作品と向き合って、画家として小さなステップですが、階段を一段上ったように思います。

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