おべんとうバス
- 作・絵:
- 真珠 まりこ
- 出版社:
- ひさかたチャイルド
春の日差しが心地よくなってきました。おでかけ日和におすすめなのが、真珠まりこさんの絵本『おべんとうバス』(ひさかたチャイルド)です。「ハンバーグくーん」「はーい」、「えびフライちゃん」「はーい」、「たまごやきさーん」「はい」。食べ物たちが返事をして、次々と真っ赤なバスに乗り込んでいきます。みんながそろって行く先は……? 読めばきっとお弁当を持っておでかけしたくなるはず。朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」より、真珠さんのインタビューをご紹介します。
(インタビュアー:澤田聡子、写真:有村蓮)
───子どもたちの大好きな「おべんとう」と「バス」をドッキングさせた人気の絵本『おべんとうバス』は、2006年に出版されてから版を重ね、『もったいないばあさん』シリーズ(講談社)と肩を並べる真珠さんの代表作となっています。絵本が生まれたきっかけを教えてください。
『おべんとうバス』を描いたのは、まだ絵本作家としては駆け出しのころ。当時4歳だった息子が喜ぶような絵本を作りたいと思ったのがきっかけです。「お弁当」をテーマにしたい、というのはあったんですけど、最初からバスにするとは決めていなくて、「おべんとうえん」「おべんとううんどうかい」など様々なパターンを考えた末、語呂もいい『おべんとうバス』になりました。
バスに乗り込むのはハンバーグに、えびフライ、たまごやき、プロッコリー、プチトマト、おにぎり。そして最後に登場するのは、デザートのみかんちゃん。彩りと子どもの好きなおかずを考えて、選びました。私の作る絵本には食べ物がよく出てくるんです。子どものころから食べ物の絵本が大好きで、覚えているのは食べ物のシーンばかりなんですよね(笑)。だから、親子で「おいしそう!」って思いながら読んでくれるとうれしい。
みどころ
まだ誰も乗っていない真っ赤なバスが止まっています。
「バスに のってください」
「ハンバーグくーん」
「はーい」
「えびフライちゃん」
「はーい」
そこへ次々に登場するのはハンバーグくんやえびフライちゃん、たまごやきさんなど、お弁当の定番おかずやおにぎりさんたち。みんな元気に「はーい」と返事をしてバスに乗り込んでいきます。野菜とフルーツも一緒に、さあ、しゅっぱーつ!
ビビッドな色づかいで描かれたかわいらしい絵と、リズミカルにくりかえされる会話は、あかちゃんの頃から楽しめそうな絵本です。「はーい」という声にあわせて小さな手をあげる微笑ましい姿が目に浮かびますよね。乗り物が好きな子は、からっぽのバスの姿だけでぐっと興味をひかれそうです。
少し大きくなってきたら、どこに行くのかな、誰と行くのかな、次のピクニックはどこにいこうか、お弁当は何を持っていこうか。そんな話をしながら読み進めても。お弁当箱をバスに見立てたら、目的地までの道のりもこんなにウキウキするんですね。
最後はもちろん「いただきます!」。一緒にお弁当の絵をつまんで、おいしく食べちゃってください。本棚から「これ、食べよう」って持ってくる、くいしんぼうさんもいそうですね。
(三木文 絵本ナビライター)
この人にインタビューしました
神戸生まれ。神戸女学院大学卒業後、大阪総合デザイン専門学校の絵本科及びニューヨークのパーソンズデザイン学校で絵本制作を学ぶ。アメリカで出版されたはじめての絵本"A Pumpkin Story" は、後に『かぼちゃものがたり』(学習研究社)として日本でも出版された。絵本「もったいないばあさん」(講談社)シリーズで、第15,16,18回けんぶち絵本の里大賞及び第20回けんぶち絵本の里びばからす賞受賞。現在、「もったいないばあさんのワールドレポート展」を開催、現在、環境省・地球生きもの応援団メンバー。作品は、他に『おべんとうバス』『おでんのゆ』(共にひさかたチャイルド)、『ハートリペアショップ』(岩崎書店)『チョコだるま』(ほるぷ出版)など。
───太くて柔らかな描線も、真珠さんの絵本ならではです。実はこの線には並々ならぬこだわりがあるそうですね。
『おべんとうバス』は、黒の輪郭線と色の部分を別々に描いていて、2つの版を重ね合わせて印刷しています。『おべんとうバス』を作っていたころは、線の太さやにじみ具合を試行錯誤していた時期。色の部分はクレヨンタッチのマーカーで描いていますが、黒い線は、柔らかく味のある線を目指してコピー機で縮小と拡大を繰り返し、ようやく納得のいく描線にたどり着きました。うちにコピー機がなくてコンビニに通っていたんですが、コピーしながらいつも「今、私がここで絵本の原画を作っているとは誰も思わないだろうなあ」なんて思っていました(笑)。
───読み手と聞き手が絵本を介して、コミュニケーションできるのも『おべんとうバス』の魅力の一つです。幼稚園や保育園、おはなし会などでは、「子どもたちも一緒に参加できる」絵本として引っ張りだこになっています。
イベントで読み聞かせすることも多いんですけど、子どもたちに「ハンバーグくんのお返事してくれる人!」「えびフライちゃんがやりたい人!」って、読む前に役を決めてもらうんです。「私がお名前を読んだら、はーい!って元気にお返事してね」って。そうすると、お話を聞いている子どもたち全員がいきいきと参加してくれてすごく楽しい。
幼稚園や保育園では、絵本を元にした手遊びやごっこ遊びで盛り上がってもらったり、エプロンシアター(胸当てエプロンに人形を貼り付けて演じる人形劇)やペープサート(紙人形)劇の題材になったり。正直、こんなに絵本の世界から広がってゆくとは出版した当初は思っていませんでした。
もっと子どもたちに楽しんでほしいという思いから、2017年に『おべんとうバスのうた』を作ってケロポンズさんに歌ってもらい、シナリオや衣装の型紙も付いた『0・1・2歳児のための おべんとうバス 劇あそびブック』(チャイルド本社)を出しました。こうしていろいろ展開できたのも、読者の子どもたちに支えられて、コツコツと版を重ねてきたからこそだと思います。
───絵本の良さはどんなところにあるとお考えですか。
『おべんとうバス』を読む年齢のお子さんだと、お膝に乗せて絵本を読み聞かせしたりしますよね。それってとってもかけがえのない時間だと思うんです。うちの息子はもう大学生ですが、今思い返せば、親子で絵本を読むのはまるで宝物のように幸せな時間でした。
絵本の良さは、心を育んでくれること。読者はページを開くことで違う世界へ入り、描かれていない部分を想像します。想像力があれば、人の気持ちが分かるやさしい人になれるし、自分で道を切り開く強い人にもなれると思うんです。つらいことがあったり、希望が持てないようなときにも、ひととき、それを忘れて物語の世界で遊ぶことができる───子どもたちが大人になっても覚えていてくれるような、心に残る作品を作りたいといつも思っています。