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インタビュー

2026.03.11

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荒井良二さんの絵本『あさになったのでまどをあけますよ』 2011年の奥付に思いを込めて<from好書好日>

東日本大震災から15年となる2026年。あのとき抱いた感情や記憶を揺さぶる絵本があります。2011年12月に刊行された、荒井良二さんの絵本『あさになったのでまどをあけますよ』です。いろんな場所に住む子どもたちが朝になると窓を開け、そこから見える景色を慈しみながら新しい一日を迎える様子を描いた本作。「どうしても2011年中に出版したかった」と語る荒井さんのインタビューを、朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」より、紹介します。
(インタビュー:岩本恵美、写真:有村蓮)

この人にインタビューしました

荒井 良二

荒井 良二 (あらいりょうじ)

1956年山形県生まれ 日本大学芸術学部芸術学科卒業。 イラストレーションでは1986年玄光社主催の第4回チョイスに入選。1990年に処女作「MELODY」を発表し、絵本を作り始める。1991年に、世界的な絵本の新人賞である「キーツ賞」に『ユックリとジョジョニ』を日本代表として出展。1997年に『うそつきのつき』で第46回小学館児童出版文化賞を受賞、1999年に『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞を受賞、『森の絵本』で講談社出版文化賞絵本賞を受賞。90年代を代表する絵本作家といわれる。そのほか 絵本の作品に『はじまりはじまり』(ブロンズ新社)『スースーとネルネル』(偕成社)『そのつもり』(講談社)『ルフランルフラン』(プチグラパブリッシング)などがある。2005年には、スウェーデンの児童少年文学賞である「アストリッド・リンドグレーン記念文学賞」を、2006年に「スキマの国のポルタ」で文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。

――『あさになったのでまどをあけますよ』は、どんな経緯で生まれた絵本なのでしょうか。

もともとは、風景を扱った絵本を作るということで進行していた作品でした。風景を見たりスケッチしたりするのは日常的に行っていたことだったので、そこから何か絵本にできないかなと思っていたんです。

その制作中に震災が起こって、どうしても2011年中に出したいという気持ちが強くなっていったんですよね。2011年の奥付が欲しかったんです。作り手側からすると奥付っていうのは大事な記録。それと、奥付に気が付いた人たちが「この絵本は2011年に作られたのか」と思うことで、あの時感じていたものや思い出されるものなどが絵本に関係なく引き出されれば、なおいいなと思って、そこはこだわりました。

東京・原宿にある絵本カフェ「CAFE SEE MORE GLASS」にて。お店の看板の絵は荒井さんが手掛けた

――震災後、荒井さんは何度も被災地へと足を運び、故郷である山形の東北芸術工科大学の教師と学生らと共にボランティアでワークショップを開催されています。絵本のアイデアも、そうしたワークショップの中から生まれたそうですね。

ワークショップの度に反省会ってわけじゃないんですけど、振り返りのディスカッションがあるんです。そこで「荒井さん、どうだった?」って聞かれて、「俺たちがやることって、せいぜい朝になったらカーテンを開けたりする役目だよね」って答えたのを覚えていたんですよね。僕らは毛布を提供するわけでもないし、水や食料を持っていくわけでもない。目に見えないものを共有しようとしているから、即効性ははっきりいってない。でも、阪神淡路の時もそうだったけど、震災の心の問題とかは、数年経っても癒えないどころか、ますます増大していく。

毎回、ワークショップでやっぱり落ち込むわけですよ。こっちは普通のワークショップをやりに行くんだって日常性を持って臨んでも、あっちには日常っていうものがないじゃないかって……。でも、だからこそ、続けるってことに意義があると思って。僕らの役目って、朝になったらカーテンを開けたり、ちょっと寒いなってなったらドアを閉めたり、日常の感覚を少しずつ呼び戻すことかなと思うんです。それで、それがそのままタイトルになるのがいいんじゃないかなと考えました。

――ふだんから、荒井さんの絵本づくりはタイトルを決めるところから始まるのでしょうか。

そうですね。どの絵本でもそうなんですけど、タイトルができた時は、絵本の半分はできたなっていう気がします。タイトルがないと進まないんですよ。灯台の明かりみたいな感じ。山の頂上とでもいうか。山のふもとでいくら迷ってもいいけど、お前が行くところはあそこだよって示してくれるのがタイトル。それが視界に入っているということが大事かなと思っています。

――タイトルの次は?

文章。そして構成を考えます。文章は必ず声に出して読むのが習慣ですね。自分が書いた文って、やっぱり声に出して反復することで「あ、この文はいらないな」とか「この文が足りないな」とか、「この文は次のページに回した方がいいな」とか分かりますよね。音の感覚で心地いいかを確かめたい。お風呂場でけっこうやりますね(笑)。メモは持ち込まずに、頭の中も素っ裸状態でお風呂に入って、思い出しながら声に出します。だから、お風呂から出てすぐ直したりすることもありますね。次の朝起きたら、「やっぱりこの文はいるな」とか、行ったり来たり。でも、だから面白いんです。

それまでモノクロの線画だったラフだが、無意識のうちに色鉛筆で色をつけていた

――意外にも絵が最後なんですね。『あさになったのでまどをあけますよ』では、さまざまな街の風景に海や山々と、「どこかで見たことがある」と思える景色が広がっています。

誰しもやっぱり映像の記憶をたくさん持っているんですよ。たとえば、「大都会」っていうと、ニューヨークの摩天楼みたいなイメージを思い浮かべる。特別に何か資料を見て描くのではなくて、ここでもありそうで、あそこでもあるなという感じで絵にしていきました。すごくおしゃれな大都会かと思えば、何となく田舎くさい。ダブルイメージ、トリプルイメージを重ねてコントロールしながら描きましたね。でも、絵本の絵は流れの中の一場面として見せなくちゃいけないから、少し情報量は抑えるようにしていました。やっぱり絵本の絵というのが終着点ですからね。

被災地でワークショップをすると、水が怖い、暗いのが怖いっていう子どもたちがいたんですよね。だから、夜ではなく、朝の連なりみたいなものを描こうと思いました。海を描くことに後ろめたさみたいなものはありましたけど、海って人間が生まれる前からあるものだから、それはあえて風景の一つとして描きました。震災のことは人間としては揺れ動いているんだけれども、この絵本を作るにあたっては「震災」をビジュアルに出してしまってはよくないと、肝に銘じていましたね。やっぱり、長い間読み継がれるものにしたいし、長く愛されるものでなければ2011年という奥付の意味も効いてこないですから。

――5年後、『きょうはそらにまるいつき』では夜を描いています。『あさになったのでまどをあけますよ』とはまるで対になるかのような絵本です。

最初はそのつもりはなかったんですけど、作っているうちに『あさになったのでまどをあけますよ』とつながっているなということに気が付きました。

夜は必ずくるもの。子どもたちは暗い夜が怖いと言っていたけど、朝がくる前の段階だと考えれば違って見えてくる。そのためには、夜も必要だってことに慣れないといけないと思ったんです。だから、夜を描いて、みんなが共通して見上げるお月さんの絵本を作りました。

絵本って、必ずしも子どもだけのものではないですよね。人生のエッセンスが実は入っている。50年前に作られた絵本でもすごくいい絵本っていうのは、絵は少し古くても言っていることは少しも古めいていない。絵本のよさってそこにあるなと思っています。

「好書好日」で読む

  • あさになったので まどをあけますよ

    みどころ

    「あさになったので まどをあけますよ」

    子どもたちが、部屋の窓をあけます。
    新しい一日を迎えるために、毎朝、窓辺に立つのです。

    「やまは やっぱり そこにいて
     きは やっぱり ここにいる」

    そこから見えるのは、いつもと変わらない風景。

    もちろん、窓を開けてそこにあるのは山ばかりではなく。
    にぎやかな街が見える窓だって、のんびりと流れる川が見える窓だって。
    たくさんのお花が目に飛び込んでくる窓や、風が気持ちのいい窓だってあります。
    どこかの知らない国に住む、あの子の窓辺はどんな景色だろう。

    そこには、いつもと変わらない景色がある。
    だから、ここが好きなのです。

    晴れている街もあれば、雨がふっている場所もあるでしょう。
    君のところはどう……?


    何気ない日々の繰り返し、毎日変わらずにある景色の中にいる自分。そこにこそ、その中にこそ、生きることの喜びがある。そんな強い思いが込められた、荒井良二さんのこの絵本に登場する景色には、すべてに明るい朝の陽ざしがふりそそぎ、とても清々しく、読む人の心をまっさらにしてくれます。

    「ああ、今日もまた新しい一日がはじまる。」

    そう思えることの幸せ。
    私たちは、絵本を開くたびに味わうことができるのです。

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