●“好き力”――「ワンワン記録ノート」が絵本の原点
───スギヤマカナヨさんは、小さい頃から絵本は好きでしたか。

好きなものの一つでしたけど、育ったのが田舎だったから野山をかけまわったり、犬が好きだったり、ずっと剣道ばかりやっていたり、“本にどっぷり”でもなかったです。
もともと、小学生くらいのときから将来は犬の訓練士になろうと思っていたんです。犬が好きで好きで。「刑事犬カール」というテレビドラマが好きで。将来訓練士になるなら、犬のことを知らなければ、と、犬ノートを作っていました。
───すごい! 何年生のときですか?
小学4年生、5年生頃でしょうかね。好きだから勝手にやっていただけで、両親はこのノートのことは知らなかったと思います。子どもの本だけじゃなく一般書も読みあさって、犬について調べました。

高校生のとき、進路指導の先生に、警察犬の訓練士になろうと思うので訓練学校にいきますと言いました。そしたら親も先生も大学にいってからでも遅くないんじゃない、と。じゃあ他に好きなのは絵かなと思って「美大にいきます」と言ったら、全く美術に携わったことのない私を心配した先生が、学芸大学に美術科があるよと探してきてくれました。
美術の先生になるための科だったんですけどね(笑)、いい先生たちに恵まれて、教育実習もとても楽しかった。
教材を工夫して作って生徒に喜ばれたのが嬉しかったんですよ。手作りで、分数の授業用のケーキを工作したり、指さし棒を作ったり。作ったもので喜んでもらえるのはいいな、どうしたらこの感覚を生かした職業につけるだろうと考えました。
手紙を書くためのレターセットを作るのもいいなあと考えて、ステーショナリーの会社に就職することになりました。
でもその頃ちょうど大学の卒業制作が出版されることになった。『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』です。
───『ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑』は、もともと卒業制作のために描かれたものだったのですか? ということは描いたのは20歳代はじめ頃?
はい。ずっと後になって、女優の東ちづるさんが「作者は初老の外国のおじいさんだと思っていました!」とおっしゃっていましたね。ご結婚前のダンナさまからこの本をプレゼントされて、気に入ってくださっていたみたいで。
───私も、はじめて見たとき、本の作者はおじいさんだと思っていました!
当時、各美大の代表の、卒業制作の展示が、銀座の「伊東屋」であったんですね。そのとき出した「ノーダリニッチ島 K・スギャーマ博士の動物図鑑」にたくさんのお便りをいただいて、「絵本っておもしろい」と思ったのはそのときです。
展示を見たアーティスト二人組が出版社さんに売り込んでくれて、正式に絵本として出版されることになりました。
───最初は、本に著者プロフィールが書かれていなかったんですよね。
ええ。私は「ドリトル先生」シリーズが好きで、本を閉じたとき、表紙の作者の名前が、スタビンズ君でもジョン・ドリトルでもなくヒュー・ロフティングだと思うとさみしかった。フィクションなんだと。だから読んだ方に想像の世界にどっぷりひたってほしいなと考えました。出版社の社長さんがおもしろがってくださって、本名と著者プロフィールは伏せました。
でもそのうち私も他に絵本を描くようになり・・・他の作品と同じ作者だとわからないので、途中からプロフィールを公開したんですけどね。
───K・スギャーマ博士とスギヤマカナヨさんが同一人物だったと知ったときの驚き。いまでも覚えています!
ノートを見せていただいて思うのですが、これがスギヤマさんの絵本制作の原点にあるのではないでしょうか。
このノート、小学生向けのワークショップでよく見せるんです。自分はただ犬が好きで、犬の訓練士になりたい一心で、新聞をくまなく読み、切り抜き、はじめて一眼レフを手にとり、「刑事犬カール」の最終回をしないでくださいとテレビ局へ電報を打った。小学生がお小遣いにぎりしめて、町まで歩いておりていって、郵便局ではじめて電報を打ったんです。
これは「好き力」なんだよと。サッカーの三浦和良(カズ)選手だって高校を中退して単身ブラジルにいって、ポルトガル語がぺらぺらのプロサッカー選手になれたのは、努力家で才能があったこともあるけど、とにかくひたすらサッカーが好きだったことからの「好き力」だと思うよと。「好き」をつきつめていくといろんなことにつながっていくんだよと。
出版社おすすめ
-
星の子ども
出版社:
冨山房
グリム童話「星の銀貨」の世界をバーナデット・ワッツが描きだす。色彩豊かな美しい絵が名作童話の魅力をひ