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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  本を読むこと、書くことの楽しさを伝える絵本!「としょかんねずみ」シリーズ 渡辺鉄太さんインタビュー

───子どもたちをすっかり虜にしてしまう、主人公のねずみ、サム。 図書館に住みながら、夜はこっそりといろいろな本を読んでいて、実は小説家でもある! サムは、どんなキャラクターなのでしょうか。



読書好きな人なら、きっと共感出来るキャラクターです。図書館が好きな人もサムの気持ちがよく分かるでしょう。密かに作家になりたがっている人も、「わかる、わかる」と思うでしょうね。サムのような内気な人って、いろいろ大変なんだと思うんですよ。ねずみじゃなくたってね(笑)。

───そうかもしれません(笑)。引っ込み思案な子どもたちもその部分にとても共感しているみたいですね。

僕は、そんなに内気じゃないし、ねずみでもないけど、やっぱり何か新しい事をするときとか、人前で何かするときって、勇気がいりますよ。でも、 そういう内気な人や、子ども達なんかがときに勇気を出して、人前で話をしたり、コンサートで楽器を演奏したり、本を書いて世に出したりするのを見ていると、本当にすばらしいなって感動するんです。そういう姿を見てると、生きる力をもらえるんです。まさにそんな感じです。サムには、そんな勇気をもらっています。

───本当ですね。なぜか絵本を読み終わると、やる気がもりもり湧いています! サム以外の登場人物も個性的ですよね。特に、3巻目から登場するねずみのサラは、お転婆で、しかもかなりお洒落!とても現代的です。


初登場シーンもかっこいい探検家のサラ

サムのガールフレンド(?)のサラはやっぱりおもしろいですよね。こういう男勝り(古い言葉!)の女の子って、もう珍しくないですけど。性別が逆なだけでなく、サムとまるで逆の性格。こういう人って一人で何でもできちゃうみたいだけど、案外寂しがり屋だったりしてね。それから、ちゃんと計画性を持たずに行動してしまうから、やっぱり、サムみたいな慎重な人がそばにいてあげないとダメだったりして。サムとサラの関係って、友情のありがたさを感じさせてくれます。

─── 一見、サラがサムを引っ張っているようですけど、実際はそうではないのかもしれないです。渡辺さんは、どちらかというとサムでしょうか。それとも冒険家のサラ?


僕は両方です。
サムでもあるし、サラでもあります。
サムのように図書館が大好きだし、本も好きだし、物語も書くけど、人付き合いが面倒なこともある。でも、一方で、サムみたいにあまり家にこもっているのは好きじゃありません。 できれば、外に出て山を歩いたり、自転車で走ったり、キャンプをしたり、海でボートに乗ったりするのが好き。冒険が大好きだし、冒険物語を読むのも大好きです。

───4巻目では、そんな内気なサムもサラに連れられて、とうとう図書館の外へ出ます。そして、人間やネズミではない動物との、新しい出会いもありますよね。


特別展示室を案内する蝶ネクタイのモグラさん

猫の絵描きさんやモグラの美術館員とかも好きです。こういう脇役って大事なんですよ。なぜかと言うと、脇役って一見どうでも良さそうなんだけど、ちゃんと考えて配置したり、性格付けをしないと、物語が生き生きしてこなくて、つまらなくなっちゃうんですよね。モグラや猫だけじゃなくて、「としょかんねずみ」シリーズにたくさん登場する人間の子ども達も、台詞はあまりないけど、それぞれの姿がイラストにしっかり描かれています。そうしないと、絵本の中のリアリティが薄れてしまって、つまらなくなるんですよね。


大きな本棚をネズミ目線で見ると・・・

───絵本を読み終わると、図書館の壁に穴があいてないか、サムの本が本棚にないか探しに行く子もいるくらい!ダニエル・カークさんの絵は想像力をかきたてます。日本の絵本に比べると、かなり印象が違う気もするのですが・・・。

カークさんの絵は、最初はすごく「濃い」感じがして違和感があったんですよね。でも、構図はしっかりしているし、アングルは面白いし、段々好きになりました。それに、僕はオーストラリアに住んでいるので、こういう色や線がしっかりしていて、写実的なイラストは見慣れているかもしれません。 カークさんの絵は、色が鮮やかで、登場人物がアニメや映画みたいに、上や下やいろいろな角度から描かれているし、躍動感があって面白いです。


───確かに、すごく奥行きを感じます。おっしゃるとおり、映画みたいですね。


図書館をいろいろな角度から見れるのもお楽しみ!

俯瞰から足元のクローズアップまでダイナミックな構図

マンガやアニメにも共通しているかもしれないけど、そういうメディアとかなり違うのは、登場人物の表情は意外にあっさりと描かれていて、読者が自分の心で登場人物の気持ちや考えを想像できるようになっているところですね。表情をストーリーから読み取らなくてはいけないようになっているんです。

───それは絵本ならではの、大きな違いかもしれないですよね。読んでる自分も積極的に参加していかないと感じられないですもの。

それに、当たり前だけど、絵本にはバックミュージックもないし、台詞の調子やテンポも読者が自分の頭の中で考えなくちゃいけないようになっている。そこはちゃんと押さえたイラストだと思うんです。
それからページを繰っていて楽しいのは、各ページの細かい書き込みですね。本の背表紙とか、図書館の細部とか、大変芸が細かい。読者は、本を開くたびに発見があるでしょう。


よく知ってる絵本の登場に子どもたちも夢中!

本棚は必ずチェック!サムがいるかしれませんよ。

───こんなところにサムが!知ってる絵本がある!と何度読んでも発見があるのが楽しいです。まだ気づいてない人に、「ねぇ、知ってる?」とついつい自慢したくなります。特別にお気に入りのシーンなどはありますか。

「としょかんねずみ」で一番好きなシーンのひとつは、3巻目の「サムとサラのせかいたんけん」で、二人が図書館に展示してあったおもちゃの飛行機に飛び乗って飛ぶところです。僕は、飛行機が大好きなので、飛行機が出てくるだけで興奮しちゃう。それから、どこかで模型飛行機をみると、本当に飛ぶのかな?っていつも思ってしまうので、こうやって模型飛行機が本当に飛んでしまうっていう話は大好きです。


どれを読んでみたい?サムの名作

───サム自身が、絵本の中で書いているおはなしも子どもたちは興味津々みたいなのですが、渡辺さんはどのおはなしが気になりますか。絵本の中ではそのおはなしを読むことができないのですが面白そうなおはなしばかりですよね。


『さびしがりやのチーズくん』が一番気になっています。自分でこのお話を書いちゃおうかなって思うくらい。チーズも大好きなものですから。


───渡辺鉄太さん作の『さびしがりやのチーズくん』も読んでみたいです!(笑)

───図書館の世界からサムとサラが飛び出した4巻の「はくぶつかんのひみつ」では、絵本の中にある本物の絵画や展示物に目が釘付けになりました。

絵描きさんは、絵本の絵を描く時、お話にあったスタイルを選んで絵を描きます。この本の作者のダニエル・カークさんも本当はもっといろいろな手法で絵が描けるだろうし、いろいろな技をもっているはず。でも、絵描きさんは一冊の本で全てのテクニックは使わないし、必要最小限のぎりぎりのところで描いて、無駄は削っているはず(文章も同じです)。でも、こういうお話の中の「美術館」で劇中劇みたいにいろいろな技を披露してみせて、自分の技を見せるって言うよりは、実は美術というのはすごく奥行きや幅があるんだよって伝えたいんじゃないでしょうか。

───絵でそれを表現されているんですね。

美術って言うのは、ただ見たものをそのまま写しとるんじゃなくて、自分の言いたいことや気持ちや主張を、自由な形で表現することだっていうことも言いたいのではと思います。その中で大事なのは、普段の自分の視点をちょっとずらしてみるってこともあります。だから、ネズミの姿を名画の中に書き込んでいるのは、読者の視点を、人間からネズミに移しかえて見える為の仕組み。そういういろいろな美術的な仕組みが、実は絵本の中で使われていると言えます。

───なるほど。そう考えてみると、本当にいろいろな要素が盛り込まれているのですね。視点をずらして何度も読み直してみたいです。

───最初に「としょかんねずみ」を読んだときはどう思われましたか。

ストーリーが面白かった。それから、場所が図書館で、主人公がネズミって言うのも良かった。 僕は、図書館とネズミというつながりをぜんぜん考えた事がなかったから。でも、考えてみると、ネズミって図書館にぴったりですよね。だから、けっこう良い組合わせだなって思いました。


毎晩、図書館の本を読むサム。本好きにはたまらない夢のような生活!

───翻訳をするときに、どんなところを工夫されましたか。


自宅のサンルームでお仕事中の様子

絵本は、読み聞かせすることを考えますから、読んですっきりしていて、滑らかに流れるように言葉を選びます。特に、ページをめくって場面が変わった時も、文章の流れがとぎれないように注意するのも難しいですね。編集担当の方にも、何度も実際に音読してもらって流れや言葉の響きなんかも確認します。原文の英語のシャレやユーモアは、正直言って日本語とはかなり違っています。やっぱり、英語と日本語とでは、ユーモアやシャレが違うので、直訳は難しいです。だから、絵本の全体のトーンを考えて、原文からあまり離れない程度に、自分なりのシャレや語呂合わせなんかを入れます。

───絵本の中の文章だけではなく、図書館の本やサムの絵本や手紙まで日本語に翻訳されていますよね。ご苦労されたことはありましたか。

イラストにある図書館に並んでいる本の背表紙が、実際に存在する本だったりして、その日本語のタイトルを調べたりするのが大変でした。編集担当の方がくわしく調べてくださったり。日本語訳のタイトルがない場合は、適当に考えたり。こういうことは、編集担当者や本のデザイン担当の方と共同作業ですることがあります。


ご自宅の書斎にて

───翻訳するときに、いつも気をつけていること、心がけていることはなんでしょうか。

自分も読者の子どもになったつもりで、楽しんでやること!
文章はなるべく簡潔にと心がけています。同じことを言うなら、短く、分かりやすい言葉で。でも、それなりに個性のある表現も使いたいから、そのバランスが難しいです。

───文章を書くことや本を読むのが苦手と感じていたのに、「としょかんねずみ」を読んだあと、目を輝かせて自分でも物語を書いてみたいと自発的に挑戦する子がたくさんいます。 「としょかんねずみ」シリーズを通して、渡辺さんが伝えたい思いがありましたら教えてください。

ぜひ面白い話をたくさん書いてください。子ども達が日常的に見た事や経験した事、思った事を描いたお話って、本当に楽しいですから。


次のページでは、渡辺鉄太さんのオーストラリアでの生活、読み聞かせのコツなどお聞きしています。>>>

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渡辺 鉄太(ワタナベテツタ)

  • 1962年東京生まれ。大学勤務を経て、子どもの本、ことばや文化についての著述と翻訳に専念している。異文化社会での子育てについて『緑の森のバイリンガル』(三修社)、児童文学の翻訳には『クマと仙人』(父・渡辺茂男と共訳、のら書店)、「としょかんねずみ」シリーズ(1から5巻、瑞雲舎)、 『まきばののうふ』(福音館書店)、創作絵本には『やぎのアシヌーラどこいった』、『ポッサムおちた』、『コアラのクリスマス』(いずれも加藤チャコ画、福音館書店)などがある。「メルボルンこども文庫」主宰。妻の加藤チャコとの間には一女一男がある。オーストラリア・メルボルン近郊のダンデノン山在住。

ダニエル・カーク

  • 1952年アメリカ・オハイオ州生まれ。現在はニュージャージー州グレン・リッジに妻と末の息子(大きな息子2人は、世界探検中)、それからサムとサラのように冒険好きなウサギといっしょに住んでいる。
    『としょかんねずみ』シリーズは世界中で大人気。
    書評やブックリストで”傑作”と評されました。

作品紹介

としょかんねずみ
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