───絵本の中の子どもたちのように、子どものころ図書館によく行かれましたか。
図書館はよく行きましたね。もっとも、ものごころがついた最初の頃は、まだ僕が住んでいた町にはちゃんとした図書館がなかったんです。でも、小学校の2、3年生ごろだったかな、新しい図書館ができて、その後はよく行きました。大人になった今も週に二回は行きます。本を借りる用事がなくても、トイレを借りたりして!
───気軽に図書館に行くことができたらいいですよね。
図書館に行くと良いことは、座り心地の良い椅子があって、そこに坐って読める本がたくさんあること。それから、トイレも水飲み場もあるし、友達に会えるってこともありますよね。良いことだらけ。僕がオーストラリアで暮らしている町にも素敵な図書館があって、そこは景色の良い窓があるので、そこに坐って、近くの森や遠くに光る海を見ながら本を読むのが大好きです。
───大好きな絵本や児童書はずっと覚えていますか。お子さんが夢中になっていた日本の児童書や絵本にはどんなものがありましたか。

弟の光哉さん(左)茂男さん(中央)
鉄太さん(右)1972年撮影
覚えています。今でも、昔読んだ本は大事に持っています。オーストラリアの我が家にも、2500冊くらい児童書があります。大学生の娘が赤ちゃんのとき、最初に読んだのは、ブルーナーの「うさこちゃん」シリーズでした。それからは、本当にたくさん。何百冊、何千冊も読んだと思う。これが一番というのはありません。うちの父の絵本(渡辺茂男)もたくさん読みました。
───お父様は、児童文学者でもあり絵本の作者でもある故渡辺茂男さん。『エルマーのぼうけん』、『どろんこハリー』の翻訳や『もりのへなそうる』、『しょうぼうじどうしゃじぷた』の作者で、生涯300冊もの子どもの本を出版されています。子どものころから、絵本はとても身近な存在でしたか。
本は、身近でした。たくさんうちにありましたし、父も母もよく読んでくれましたから。実際、父も母も、若い頃は両方とも図書館員だったことがあるので、図書館も身近な存在でした。父の本に、自分と同名の主人公が登場するのはちょっと恥ずかしかったですが。(『もりのへなそうる』、『てつたくんのじどうしゃ』)
───渡辺さんは、1996年からご家族とオーストラリアで生活されていますよね。先ほどもサラのように活動的でアウトドアがお好きというお話もでましたが、普段はどのような生活を送られてますか。
当たり前ですが、子ども達は毎日学校に行きます。子どもたちを送り出すと、昼間は、特に午前中は仕事をします。ただ、私は普段家にいるので、朝は近所を散歩したり、午後は近所の湖でカヤックに乗ったりして運動するようにしています。 食事も毎日作っています。それから、いろいろなものを工作するのが趣味なので、車庫で木を切ったり、ドリルで穴をあけたりしている時間も多いです。今は息子と本物の モーターボートを作っています。庭仕事もよく しますね。
海でカヤックに乗っている笑顔の渡辺さん
息子さんと製作中の手作りボート!

『ウィンターのほん』表紙
オーストラリアの作家といっしょに仕事をする機会もあって、昨年2014年11月には『ウィンターのほん』(キャメロン・ホワイト作、加藤チャコ画、渡辺鉄太訳、サンドイッチプレス)という絵本をメルボルンで出すことができました。これは、英語と日本語のバイリンガルの絵本なんです。妻の加藤チャコが絵を描きました。(日本では、クレヨンハウスで発売しています。>>>)
───オーストラリアならでの雰囲気がありますね。日本では見慣れない景色や動物も登場していそうです。オーストラリアというと、身近な動物では、どんな生き物がいるのでしょうか。
うちは、メルボルン郊外のダンデノン山という山にあるので、森にいろいろな鳥がたくさんいます。オウムのようなロゼラとかコカトゥーとか。それから、有袋類のポッサムがうちの木にも住んでいます。ポッサムは、うちのような田舎じゃなくても街中にもたくさんいますけど。夜行性なので、夜になると木から降りて来て、屋根をどすどす歩きます。このポッサムの絵本も書きました。(『ポッサムおちた』加藤チャコ画、こどものとも、福音館書店)。カンガルーやウォンバットもよく見かけます。ウォンバットも夜行性です。それから、オーストラリアの原生の植物、樹木、花や草にも珍しい物がたくさんあります。
───見たことも聞いたこともない動物ばかり!自然もたくさんあるんですね。 とてもうらやましいです。
自然はとても豊かです。この自然は本当に世界の宝だと思います。オーストラリアに来たら、シドニーとかメルボルンなどの都会に行くよりも田舎に行って、海や砂漠や広い大地で時間を過ごすことを勧めます。
───自然がこれほど身近にあるというのは、子育てには本当に素晴らしい環境ですね。同じように、読み聞かせを通じて、家族とすごすことが大切な時間なのだと思います。先ほどお子さんに何百冊、何千冊読まれたというお話もありました。お子さんが小さい頃は、どのようなことを心がけて読み聞かせの時間をつくっていましたか。
子ども達が小さい時は、読み聞かせの時間は四六時中でした。うちはテレビも見ないし、子どもが小さい時はパソコンなどの電子機器にも触らせなかったので、家の中では絵本が一番の娯楽でした。娘は10歳まで、息子は12歳まで 本を読んでやっていました。
───お子さんは、「としょかんねずみ」は読まれましたか?
今、娘が大学生で息子が小学6年生 ですが、それでも「としょかんねずみ」シリーズは大好きです。大学生の娘も、このネズミかわいいねって、言ってました。
───読み聞かせをするときに大切なことってなんでしょう。
読み聞かせのアドバイスは、たくさんありますが、本は、親がちゃんと選んで渡すうちに、子どもも自分で選べるようになるのだと思います。だから、小さい時はちゃんと良い本を選んでやる事が大事かも。食べ物だって、季節の物で、美味しくて、安全で栄養のあるものを選びますよね。本も同じ。何が良い本なのか、それは親がちゃんと勉強しないといけません(笑)。まあ、一番は親自身が良いと思う本かな。
───たた、単純に絵本を子どものために読んであげるというより、まずは親が楽しまないといけないですね。
物語と言うのは、単なる架空の世界じゃなくて、子どもにとってはリアリティーのある世界ですから、本で読んだ物語を、できるだけ実生活に関連づける工夫や発想も大事かも。本を読んだら、今度は外に出ていろいろ経験し、感じること!絵本の世界を単なる疑似体験で終わらせずに、自分たちでも実践する事がとても大事。そうすると、驚く程生活が豊かになるし、子どもにはそういう幼児体験が本当に大切ですよね。パソコンやインターネットなんかよりも、そういうリアルな体験が必要なんです。
───まさに「としょかんねずみ」と一緒ですね!
先ほど、ご自宅には2500冊ほど絵本や児童書があるとお聞きしましたけど、すごい本の数ですよね。

メルボルンこども文庫で読み聞かせ
うちはオーストラリアに暮らしているので、日本語の絵本を読み聞かせる機会を他の日系人家族にも持ってもらう為に、「メルボルンこども文庫」をもう15年以上もやっています。たくさんの友達と絵本を共有出来て、とても楽しいですよ。
(渡辺鉄太さん主催の「メルボルンこども文庫」)
───最後になりますが、「としょかんねずみ」シリーズを手に取る絵本ナビユーザーには、現在子育て中のママパパや絵本が大好きな大人の方もいます。どのように絵本を楽しめばよいでしょうか。メッセージをいただけますか。
本を読みに図書館に行くこと。それを習慣にすること。美術館に行ったり、こどもと発見の外出や遠出をすることも大事です。絵本も、外へ持って行って、いろいろな場所で読むと新鮮な気持ちになりますよ。
───図書館に行きたくなりました。早速、晴れた日に外で絵本を読んでみようと思います。
貴重なおはなし、ありがとうございました!

【おまけ】 シリーズ最終巻『としょかんねずみ5』 最新情報!
最後のページまで読んでくださったみなさんに、少しだけ最新情報をご紹介します。9月発売予定の待望の日本語版最新刊ですが、海外版の表紙をチラッとお見せしちゃいます。
英語のタイトルは、"LIBRARY MOUSE Home Sweet Home"です。日本語の書名でいうと、『としょかんねずみ5 すてきな わがや』(仮題)とのこと。
今回のおはなしも、サラが登場(?)するみたいですね。二人でお城のようなものを組み立てているような・・・?サムは、1巻目で使っていた手作りの短剣を腰にさしていて、何か読んでいるようにも見えます。
新作がますます気になってしまったところで、是非、「としょかんねずみ」シリーズを1巻から読んでみてください。きっと新しい発見があると思います。そして、最終巻で、成長したサムとサラに再会できる日を楽しみにしていてくださいね。

取材・構成: 富田直美(絵本ナビ編集部)