●建築的絵本を作っていきたい。
───『ウラオモテヤマネコ』は、少女の願いによって表の世界から裏の世界へと多くの人間がやってくることで、裏の世界の持つ美しさがどんどん失われてしまい、いつしか裏と表が入れ替わってしまう、というおはなしですが、裏の世界が変わっていくことを飄々と受け入れているウラオモテヤマネコの姿がとても印象的でした。

ウラオモテヤマネコは何万年も生きている中で、裏と表の入れ替わりを何百回と経験してきているんです。だから、裏の世界を恋しがって泣く女の子に「裏の世界からみれば 表が裏で裏は表なのだから」とこともなげにいえる。人間が一方の世界を埋め尽くすことで、もう一方の世界が再生されるわけだから、裏の世界が失われても問題ない。ウラオモテヤマネコはそう考えているんだと思います。
───人間がいなくなれば地球は再生する。なんだか、今の世界にも当てはまりそうで、切なくなりますね。そういう考えは以前からお持ちだったんですか?
そうですね、ずっと心の中にあったように思います。さらに建築について学んだことで、その思いはより具体的になりました。
───建築を学んでですか?
建築学科では、建物を設計する方法・技術だけを勉強するわけではなく、建物が環境とどう関わっていくか、環境を生かしていくためにはどういうシステムが必要なのかも学びます。自然との関わりについて考えさせられる絵本を私は、「建築的絵本」だと捉えているんですが、そういう作品をこれからも作っていきたいと思っています。
───前作の『さいごのぞう』(キーステージ21)も建築的な思いから作られた作品なのですか?
『さいごのぞう』もそうですね。この絵本によって、ゾウが絶滅の危機に瀕していることを多くの人が知り、現状を変えていく方向へ向うことができればいいなと思います。
───『さいごのぞう』のようにメッセージが込められた作品と小さい頃に出会えることも、絵本のよさだと思います。井上さんご自身は、子どもの頃どのような絵本と出会いましたか?
両親がギャラリーをやっていたので、芸術作品に触れる機会は多くあったのですが、特別絵本が好きというわけではありませんでした。子どもの頃はよく母が好きな寺山修司さんの詩集を読み聞かせてもらっていて、そこに描かれた宇野亜喜良さんの絵がとても美しくて、今でも大切にしている一冊です。
───詩集の読み聞かせなんて、すごく芸術的ですね。絵本作家になりたいと思ったのはいつくらいからですか?
実は今でも「絵本作家」という感覚はなくて、『さいごのぞう』を描こうと思ったとき、表現方法のひとつとして絵本を作ろうと思ったんです。制作したい題材に合わせて、絵画や映像、立体など表現を変える、そのひとつに絵本があるという感覚です。
───なるほど……。では、絵本を描くぞ! という気負いなどはあまり感じなかったですか?

そうですね。世界観を持ちながら何枚も絵を描いていく大変さは感じましたが、気負いはありませんでした。
─── 『ウラオモテヤマネコ』を描いて、絵本に対して改めて感じたことはありますか?
先ほども建築のはなしをしましたが、絵本も建築も世代を超えて受けついでもらえる「普遍性」を感じています。自分の表現手法のひとつとして魅力を感じているので、今後も絵本を作りつづけていきたいと思います。
───これからも井上さんの描く作品をたくさん見ることができそうで、ワクワクします。最後に井上さん、小林さんお二人から絵本ナビのユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。
井上:装丁を見ると大人っぽい印象を受けられる方が多いかもしれませんがまずは何の先入観もなく手にとって頂きたいですね。そして中には「うちの子にはまだ早いかも」と躊躇する人もいるかもしれませんが、小さい子はその子なりの感じかたをしてくれます。子どもと一緒に読み進めながらいろいろなことを共に感じられる1冊にしてもらえたら嬉しいです。

編集の小林えみさん(左)と2ショット。
───ありがとうございました。私も友達にさっそくプレゼントしてみようと思います。

●井上奈奈さんの作品と出会える展覧会情報
■〜注目作家による〜「私の中の宮澤賢治」展
編集後記

今回、おはなしを伺い、鋭い感性と読者に伝えたい明確なメッセージを持って作品を描いている印象がより感じられた井上奈奈さん。インタビュー後、そんな井上さんから大切な相棒・カノンのお写真が送られてきました。そして堀之内出版さんからは、広報部長ヒロイ氏のお写真も!
この2匹がいなければ、『ウラオモテヤマネコ』は誕生しなかったかも……? しれないですね(笑)。











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