●節分エンタメ絵本! 『まめまきバス』はこうやってできました
───いただきバス」シリーズに新作が加わると聞いて、きょうはお話をうかがうのを楽しみにしていました。よろしくお願いします! 最新作『まめまきバス』は節分のお話ですよね。

そうですね。季節は、風邪が流行ってきて、町にマスク姿が増えるちょうど今ごろ。
ねずみくんの町にとんでもない出来事が起き、そのピンチをバスとみんなの力を合わせて乗り越える節分エンターテインメント絵本です。
───節分エンタメ絵本! 行事絵本だけど、何か事件が起こるドキドキ絵本ですね(笑)。
シリーズ4作目となりますが、これ1冊の制作にはどれくらいの期間かかっているのですか? 1年くらい?
いや、けっこうかかっているんですよね。3、4年はかかってるかな。ほらこれは2012年の絵コンテでしょ。2013年、2014年……。

小さな絵コンテ3つ。制作年月が記してあります。
───わーっ、かわいいですね! ちょっと見せていただいてもいいですか?
初期絵コンテ。「ボク オニはにがてでございバス」マスクをしたバスくん、元気がありません。
同じく初期の絵コンテ。かぜおにが豆を取り囲んじゃってる。どうしたら豆にたどりつけるかな?
みんなでバスをおどろかしました。わーっ。
そしたら・・・・・・ぴゅーん! 豆の上に到着!

───あれ? 怪獣がいない……。
(編集者) 最初の頃は、怪獣はいなかったんです。途中で突然「かぜおに」が合体した「かいじゅうおに」が出てきてびっくりしました(笑)。
これがウワサの「かいじゅうおに」。合体している絵が衝撃です。
───えっ、そうだったんですか!?
うん。最初はただ町のみんなにツノがはえて、「かぜおに」になっちゃって、ゾンビみたいにどんどん仲間を増やしていっちゃうから、バスくんやみんなが豆まきをしたら、豆があたって、元にもどってめでたしめでたし、という話だったんだよね。でも編集者さんと「ちょっと物足りないよね」という話になったんだ。
怪獣がくずれていく場面。おにはーそと! ふくはーうち! 豆が飛び交います。ツノがはえたねずみくんが次々くっついて1つになり、崩れていく。実際に見るとぞわっとするくらい迫力があるんです。
───いったい「かいじゅうおに」のアイディアはどこから出てきたんですか?
う〜ん、忘れちゃいました。アイディアがどこから来たかはわからないけど、やっぱりもっと派手じゃないとなあって悩んだことは覚えています。
バスからたくさん手が出てまめまきをしている場面がありますよね、こちらのアイディアの元は千手観音像です。
旅先で千手観音像を見たとき「あっ、豆まいてる!」と思ったの。
2014年9月のコンテ。夏の旅行後に描いたんだよね、と藤本さん。
完成作品では、こうなりました!
───こっちのノートには「鬼が島」が描かれている……?

初期ラフノート。バスが海をわたって鬼が島へ!?
「かいじゅうおに」が出てくるまでの試行錯誤では、鬼が島が出てくるラフ案も描きました。バスくんが、鬼が島のオニに豆を届けるんだけど、ただ届けるんじゃ普通すぎるよねえと。バスくんの破天荒さがこのシリーズの魅力ですから。
───ラフや絵コンテを本当にいくつも描いているんですね。どんどん内容が変わっていく様子が興味深いです。
そして完成した『まめまきバス』、 最後は恒例「いただきバース!!」ですね。年齢の数だけみんなで豆を食べて……いつもどおり「ごちそうさま」で終わるんでしょうか。
豆だけじゃありませんよ。「たすけてもらったおれいです」「えー、いいの?」「なになに? なんでございバスか?」・・・で出てきたのがでっかい恵方巻き!
節分だもの。最後はみんなでおいしくいただくのが「いただきバス」シリーズの本筋ですから、やっぱり食べたいよね。
この恵方巻き、大きいでしょ? でもねずみくんのサイズからすればあながちウソじゃないわけですよ。いや、ちょっと大きいかな(笑)。
───おいしそう(笑)。恵方巻きを食べたくなります〜〜!
●シリーズ誕生!「これ……コントなのかもしれない」
───「いただきバス」シリーズはとにかく人気で、読み聞かせでも、子ども同士で読むのも盛り上がるみたいです。 やっぱりダジャレのおかげでしょうか(笑)。
この絵本って……ちょっと“コント”みたいなのかもしれない。
今のちっちゃい子たち、お笑いやギャグが好きじゃない? コントって舞台の中でしかできないことなんだけど、絵本の中だとなんでもできる。ボケられるし、ツッコミも入れられる。なにせ最初からボケをかましていますからね。バスくんが「おはようございバス」ですから。

───1作目が最初に月刊絵本として出版されたのは2004年。もう10年以上前ですね。
その後単行本化され、ずっと増刷を続けていますが、そもそも『いただきバス』誕生のきっかけは何だったのですか?
それは悪ふざけ以外の何者でもありませんよ(笑)。子どもたちは乗り物好きだから、乗り物の絵本を作りたいなと思っていて、「バス」ならみんなで乗れるし、移動ができるしいいなと思いました。バスってなんか楽しいでしょ。でもただのバスじゃつまらない。
「う〜ん……」と考えていたら、「いただきます」の「ます」と「バス」が自然につながって、ストーリーよりも先に「いただきバス」のタイトルのほうが先に誕生したような気がしますね。
いただきバスくんはいただくんだからきっと何かを食べにいくんだろうなと。
何を食べにいったらいいのかな? りんごをみんなで食べにいくのは楽しいな。
りんご狩りなんてどうだろう。そしたら語尾に全部「バス」がつきますでしょうと。
「ます」が「バス」になりますでしょうと(笑)。
───はい、もうダジャレのオンパレードですね。「いいところを知ってバスよ」「それならぼくをくすぐってくださいバスか」「(くすぐって)いいの?」「うん、いいのよ」やりとりのテンポも最高です(笑)。
子どもたちはふざけた言い回しが大好きです。大人がへんなことをすると「え、いいの? そんなことしていいの?」って言いますよね。「いいのよ〜〜」って、言ってあげたい(笑)。「やればいいじゃん」と背中を押したいという気持ちはあるかもしれません。そうすると……喜んで図に乗るからね!(笑)
───「いいの?」って大人に聞くとき、期待でいっぱいのいい顔をしますよね。
図に乗らせてしまっていいんでしょうか(笑)。
もう、絵本全体で挑発しているでしょう。「おとなしく読まなくていいからね!」って。
ぼくがあちこちで読み聞かせするときも、見ていると『いただきバス』のくすぐる場面はみんな自然に「こちょこちょこちょ!」って隣にいる子をくすぐってるもんね(笑)。ぼくの絵本はどんどん遊びながら読んでもらいたいです。

こちょこちょ! このあとバスが「びろ〜〜〜ん」
───まさに! 思わず体がうずうず動きだしちゃうんです。
「この場面はくすぐりあいっこになるだろうな」と最初に描いたときからイメージしていましたか?
いや、それは考えていなかったです。
じつは、ぼくは大学卒業後は教育委員会に勤める職員だったんですが、29歳のときそんな日々にふと疑問を感じて、「本当はおれは何をやりたいんだろう?」と考えました。
自分にできるのは絵を描くことで子どもを笑わせること。マンガも好きだけどぼくはマンガじゃないなと。大学のときから好きだった絵本をやっぱりやってみたいなと思って、その年のすべての絵本賞に応募しようと決めました。
運よく講談社絵本賞の佳作に入り、翌年には新人賞を受賞することができました。
そしたらさ……勘違いしちゃったんだよね。もうこれで絵本作家だと(笑)。でも世間は冷たかったね(笑)。
新人賞をとってデビューしたって、その絵本は3か月間本屋の棚に置かれておしまい。いつのまにか消えちゃうんですよね。審査員の方々には「おもしろかったよ」と言っていただいてすごく励みになったけれど、それだけじゃダメだなと。
1991年に絵本をはじめて出版したあと、10年くらいは二足のわらじで、平日は仕事をしながら土日だけの作家活動をつづけました。
39歳のときにやっぱりもう一度自分がどうしたいかを考えました。それで、2000年に教育委員会の仕事をやめることにしたんです。
そのとき、交流のあった世田谷区の保育園から声をかけてもらったんですよね。「週4日くらい、うちにこない?」って。
───それは保育士さんとしてですか?
いいえ、造形遊びの非常勤講師みたいな形でね。現場の保育士さんの造形遊びや保育遊びのスキルアップも兼ねて、先生たちのサポートも兼ねて、朝9時から夕方5時まで保育園で一緒に過ごさせてもらうことになりました。
40歳にして保育園に飛び込み、登園してきた子たちと絵を描いたり段ボールで何か作ったり、外遊びに行ったり、おむつを替えたり絵本を読んだりする中で、だんだん見えてきたものがありました。
実際子どもたちを見ていて、ああ、お昼寝前のこういうときに一人で本棚からひっぱりだして見たり、先生たちが読み聞かせをしたりしているんだ、園で絵本はこんなふうに読まれているんだとわかりました。
ぼくの制作は、あの頃にちょっと変化したと思います。『いただきバス』は2〜3年保育園でそんな生活をした経験のあとに生まれた絵本です。
───変化というと、どんなふうに?
ぼくはとにかくおもしろい絵本を作りたかったから、それを目の前にいる子どもたちに向けてやるんだったらどんな方向性かなと考えるようになりました。
ぼくはもともと絵本が好きで、大学時代に文京区の小石川図書館でアルバイトをしていました。「児童図書室」の担当だったときは当時の絵本を「あ」の作家から順に片端から読みました。
絵本って、ぼくにとっては一人で楽しむもの、作者と読者が一対一で世界を共有できるパーソナルなものだというイメージでした。だけど保育園で子どもたちと生活をともにするようになって、それだけじゃないんだなと。一人で楽しめる絵本はもちろんいいけど、みんなで楽しめたらもっといいよね、と思うようになりました。
それで『いただきバス』を作ってみたら、子どもたちの反応を見て手ごたえを感じました。「いいじゃん、どんどんやっちゃおう!」という気持ちになりました。その気持ちに乗っかって作ったのが『いもほりバス』です。
バスくんのおしりをつんつんする場面なんて、みんなやる気マンマンだよね。ぼくが読み聞かせをするとき「準備はいいかな? せーの!」って声かけたりしますけど、声かけなくても勝手に横の子を「つんつん!」ってやってる(笑)。
ぼくにそんな変化を経験させてくれたのは保育園の子たち。週に何度か園に通う生活は、もう15年くらいつづいています。