《スペシャルコンテンツ》インタビュー

●「わが子と一緒に絵本が読みたい！」その思いから走り続けた「てんやく絵本」の32年間

───「点字つき絵本の出版と普及を考える会」の発足やこれまでの活動の根底にはやはり、岩田美津子さんの30年以上に渡る活動があると思います。岩田さんがこれまでの活動をはじめるきっかけを教えていただけますか？

岩田：きっかけはやはり、わが子の誕生です。私は先天性の視覚障がい者ですから、わが子に絵本を読んであげるという感覚がまずありませんでした。でも、おもちゃを与える感覚で子どもに絵本を渡したとき、息子は私に「絵本を読んで」と言うんですね。そこではじめて、子どもは母親に絵本を読んでもらいたいんだということを知りました。

───そのとき、手元に岩田さんが読んであげられる絵本はあったのですか？

岩田：見えない子どもたち用の、手作りの「さわる絵本」や「布絵本」は少しずつ世に出ていたと思います。実際にボランティアの方が作っている絵本を利用したこともありました。でも、目の見える子どもが普通に楽しんでいる絵本で、私が読んであげられる絵本はありませんでした。そこで、何とかしてわが子に絵本を読むことができないかと考えるようになったのです。

「NPO法人てんやく絵本ふれあい文庫」設立者の岩田美津子さん

───具体的にどんなことをして、岩田さんが読めるようにしたのですか？

岩田：まず、知り合いと一緒に絵本に点字を打つにはどうしたらいいかを考えました。ネームテープと呼ばれるカラーのテープを貼るなどして、いろいろ試しましたがうまくいきません。最終的に、現在のてんやく絵本の主流となっている透明なシートを貼ることにたどり着くまで、約3年かかりました。

───3年！　それほど長い時間をかけて てんやく絵本のベースを作っていかれたのですね。最初に完成した絵本を覚えていますか？

岩田：文章を点訳して、絵の形に透明なシートをきちんと貼って、子どもと一緒に楽しめる形になった第一作は『しろくまちゃんのほっとけーき』でした。

───お子さんにはじめて絵本を読んだときの反応はいかがでしたか？

岩田：『しろくまちゃんのほっとけーき』ができたとき、長男は4，5歳になっていたと思いますが、それはそれは喜びました。物心もついて、「点字＝お母さんの字」だというふうに認識しています。表紙を見てすぐに「お母さんの字がついてる絵本！　読んで、読んで！」となったわけです(笑)。そんな息子の姿を見て、子どもはやっぱり、お母さんに絵本を読んでほしいという思いを、ある種本能のように持っているんだと気づきました。一度読んでも、「もう一回読んで、もう一回！」と何度もリクエストがあって……。それまで、読んであげたくても読んであげられないという思いがあったので、ようやく子どもの希望に応えることができて、感無量でした。

───その後も、ぞくぞくとてんやく絵本を作っていったのですか？

岩田：ボランティアの皆さんの力をお借りして、少しずつですが作品を増やしていきました。てんやく絵本を1冊作るのに、大体3か月くらいかかります。点字を貼って、絵の部分にもシートを貼って、目の見えない方が読んで内容が分かるかどうか、私が直接確認をします。さらに、作者さんが伝えたい意図を壊していないかも確認し、1冊ができあがるのです。その後もてんやく絵本を作る作業を続けていき、約3年で、100冊近いてんやく絵本が誕生しました。そして、長男も次男もそろそろ絵本を卒業するかというときに、友達から言われたんです。「ほかの目の見えない人にも貸してあげたら？」と。

───それが「ふれあい文庫」のはじまりですね。

岩田：はい。3年かけて作ってきたてんやく絵本は、たくさんのボランティアの方の協力があって生まれました。それを、私たち親子だけで留めておくのはもったいない……と気づき、てんやく絵本の貸し出しをしようと思いました。最初はまったく利用者は来ませんでしたが、身近にいる目の見えない母親仲間やボランティアさんたちの口コミで少しずつ広まっていき、いろいろな方のお力添えもあって、徐々に利用者も増えていきました。

───それから30余年。いまでは蔵書も10000冊を超え、貸出数は延べ13万冊にも及ぶそうで、岩田さんの活動のすごさを感じます。