●わが子が色弱で悩みを抱える親御さんへのアドバイス満載!
───『色弱の子どもがわかる本』を読んで、「色弱」とはどういうものか、日常生活の中でどのような困ったことがあるのか、詳しく知ることができたように思います。どのような経緯で、この本を作ることになったのですか?
岡部:そのことをお話しするには、まず「カラーユニバーサルデザイン機構」についてお伝えできればと思います。カラーユニバーサルデザイン機構は、2004年にNPO法人として設立しました。設立の目的としては、社会の色彩環境を、多様な色覚を持つさまざまな人々にとって使いやすいものに改善してゆくことで、「人にやさしい社会づくり」を目指しています。例えば、テレビのリモコン。赤や緑のボタンがついているのが多いと思いますが、色弱の人たちにはその色の差がわからないないものもありました。そういったときに僕たちが企業と掛け合って、色盲・色弱・色覚異常と呼ばれる人たちにも分かりやすい色づかいにしてもらえるように提案と交渉を行います。同じような形で、電車の案内表示や小中学校に配られる教科書を改善したり、そのほか印刷物やWEBデザインの認証や制作コンサルティングを行っています。
───なるほど……。絵本ナビでは多くの絵本を紹介させていただいていますが、絵本もカラーユニバーサルデザインについて考慮してもいい人工物に当てはまりますね。
岡部:まさにそうですね。色弱に関して言えば、40人に1人が該当していることになりますから。親子で絵本を読んでいても、わが子が見ている色はもしかしたらお母さんと違うということもあると思います。
監修者の岡部正隆さん
───40人に1人と聞くと、とても身近に感じますね。
岡部:学校で例えると、1クラスに1人いることになります。ただ、色弱の児童に対して学校でどのように指導したらいいかという話は、基本的に眼科の先生が指導していることが多いのです。もちろん、しっかりとした経験の元、指導が行われているのですが、そこには我々のような当事者の希望などが十分に反映されてはいないことも多いのです。
───そうなんですね。
岡部:はい。色弱者に関する書籍も多く出版されていますが、やはり眼科医の方が書かれていることが多くて……。我々のような色弱者が書いている本はとても少ないんです。あったとしても、実際にどうやって対応したり、配慮したらいいか……という具体的な話が出てきていません。そのことを知ったときに、今回のようなQ&A形式で、色弱者への対応を我々色弱者がアドバイスする構成の本を作りたいと思いました。
───つまり、この本は色弱者の声をとらえて、さらに、色弱の子を持つ親御さんが対応しやすいように考えられた内容なんですね。
岡部:そうですね。そういう意味ではこの『色弱の子どもがわかる本』は、「色弱の子の持つ問題を知ってもらうこと」と「色弱の子どもに対して、どういった配慮をしたらいいか」を取り上げた、はじめての試みだったのではないかと思います。
───それはすごいですね! 本の中には色弱の子を持つ親御さんから寄せられた37問の質問が掲載されていますが、これらはみんなカラーユニバーサルデザイン機構に寄せられた声なのですか?
岡部:その中でもごくごく一部になります。日々、寄せられる質問の中から、特に多数の人が答えを求めている質問を厳選して37問にまとめました。
───実際に岡部さんご自身が経験されたことも、エピソードとして登場しているのですか?
岡部:Q&AのQ10 のおやつの包装紙のエピソードは私も経験がありますね。それと、Q26 の焼肉のエピソードも。食べ物に関するエピソードは共感される方も多いかもしれません(笑)。
───焼肉をしているとき、ちゃんと焼けているか、色の変化では視覚で判断できないから、時間をはかったり、みんなが食べてから取ろうとしたりなど工夫するところですね。
岡部:私は、人が取るまで待つのが嫌だったので、焼けたかどうかを肉の上に上がる油の跳ね方をよーく見て、だれよりも早く焼けた肉をゲットしようとしていました(笑)。
───カラーユニバーサルデザイン機構に寄せられる質問以外にも、本に掲載するために新たに質問を集めたこともあったのでしょうか?
伊賀:実際に色弱のお子さんがいるお母さん方の集まりに参加して、お母さんたちが日々感じている不安や悩みなどを聞いたりしました。そのとき、岡部さんがお母さんたちの質問に答えている姿を見て、この本をQ&A形式にすることを決めたんです。2015年の夏ごろでした。
───そこから約1年かけて、『色弱の子どもがわかる本』は完成したのですね。
伊賀:それまでにも本を作る話は進んでいたのですが、もっと理論的というか、抽象的な説明が多かったんです。でも、実際のお母さんたちの話を聞いて、もっと身近なことを知りたいと思っていることに気づきました。なので、色弱者であるわが子が、今の世の中で苦労せずに暮らすにはどのように接してゆけばよいかを、具体的にお答えすることだと感じたんです。
伊賀公一さん
───実際に、色弱の子を持つお母さんたちと話したとき、どんなことを感じましたか?
岡部:岡部:まず感じたのは、きちんとわが子に何が起こっているのかを
───本にも色弱の遺伝子はX染色体が運んでくると書かれていましたが、「後悔」……重い言葉ですね。
岡部:岡部:お母さん方の中には、周りの誰にも……旦那さんにさえも相
自然界の中では色弱を持つサルの方が、エサをたくさん取れるという研究報告もされています。色弱だからと言って、見分ける能力が劣っているわけではないという証明も、本に紹介されています。
───つまり、色弱の子は性質や能力に劣るところが一切ないということですね。
岡部:そうです。ただ、今の色弱じゃない人たちに最適化された人工産物の中では、色弱の子が生きていくには、自分自身の知恵と、周りの人の協力が必要不可欠なんです。だからこそ、色弱とはどういうものか、多くの人に知っていただきたいと思っています。
───多くの人というのは、色弱の子とその家族、身近にいる友人だけではなく、私たちのことも含まれるのでしょうか?
岡部:もちろんそうです。例えば小学校のクラスに1人色弱の子がいるとして、1学年3クラスあった場合、一校で18人、色弱の子がいると統計上は考えられます。1000人規模の企業なら25人、50万人の自治体の中には10500人……。これらの人々には、地図の色分けが分からないこともありますし、企業で作成する資料や、自治体の案内などで色が判別できないものがあるかもしれません。色弱とは、本人とその周辺だけが関係するのではなく、誰にでも関わるものなんです。なので、多くの人に読んでもらいたいですし、誰にも相談できないというお母さんを一人でも減らすことができればと思います。