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絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  祝! 50周年だ ニャゴニャゴニャゴニャゴ「11ぴきのねこ」シリーズ 佐藤英和さんインタビュー

11ぴきのねこたちは、人間そのものの姿なのです。

───「11ぴきのねこ」シリーズは6冊目の『11ぴきのねこ どろんこ』が最終巻となりました。最後は11ぴきのねこと、恐竜ジャブが仲良く泥だらけになっている場面。ラストにぴったりなとてもハッピーになれる絵だと思いました。

最初はどろんこになることを嫌がっていた11ぴきのねこが、ジャブと出会って、ちょっといたずらしたことで疎遠になり、その後、子どもを連れたジャブと再会して、ジャブと一緒にどろんこになることが喜びに代わっているんです。実は、「11ぴきのねこ」シリーズの中でハッピーエンドになるのは、1作目とこの作品だけなんですよ。

───そういわれれば、2作目から5作目は、けしてハッピーエンドにはなっていなくて、結構ひどい目に遭っていますね。

そうなんです。なので、『11ぴきのねこ どろんこ』のラフを見せていただいたとき、私は「これで、終わりなんだな」と思いました。

───馬場さんがそうおっしゃっていたのですか?

私も馬場先生も、この作品が最後だとは一言も言わないんです。しかし、これほど長く馬場先生といると、自ずと分かるものです。絵本ができたとき、お互いに「次はいよいよ7作目ですね」って言うんですけど、もう終わりだというのは通じ合っているんですよ。馬場先生が描いてくれた『11ぴきのねこ どろんこ』のサインには「やっと出ました6冊目。みんな みんな うれしい うれしい」と書いてありました。それを見て、改めて「ああ、これで6冊完結だな」と思いました。

───自由気ままで、いたずら好き、時々、ずるいこともするけれど、人情味もあってどこか憎めない11ぴきのねこ。馬場さんは「11ぴきのねこ」にどんな思いをもって描いていたのでしょうか?

先生はきっと、11ぴきのねこに我々、人間を重ねていたのだと思います。『11ぴきのねこと ぶた』では、他人のために一生懸命家を建ててやろうとするけれど、途中で与えるのがもったいなくなって、自分のものにしてしまうという人間のずるさ。『11ぴきのねこと へんなねこ』では、相手を出し抜こうとして、反対にはめられてしまう間抜けな面。『11ぴきのねこ どろんこ』では、苦手だったものを克服するということ。「11ぴきのねこ」シリーズはすべて、「人生」や「人」というものを描いているんです。ですから、おはなしのラストでねこたちが挫折することもあります。そこから立ち直って希望を持つという展開もあります。でも、11ぴきのねこたちはくじけません。だからこそ、どろんこになって「みんな みんな うれしい うれしい」というハッピーエンドが迎えられたんです。

───馬場さんも、佐藤さんと一緒に「11ぴきのねこ」を作れたことが、きっと、とても嬉しかったのはないでしょうか。佐藤さんから見た、普段の馬場先生はどんな方でしたか?

とにかく、先生は漫画家でしたから、とてもユーモラスな人でした。そして、大変な読書家で、努力家でもありました。また、非常に温かい人でしたよ。ご家族を特に大事にしていてね。私の家族と馬場先生の奥様とみんなで、旅行に行ったことも何度もありました。私は今まで一度も馬場先生に絵をくださいとお願いしたことはないのだけれど、旅行のお礼にと先生からいただいたドン・キホーテの絵は、今でも宝物です。

───馬場さんは子どもたちに対して、どんな思いを持たれていたのでしょうか?

「11ぴきのねこ」を通して、人間を描いてきた先生ですから、子どもに対しても、「可愛らしい」とか「純粋だ」とかというばかりでなく、ずるい面もあるし、相手を出し抜こうという面もあるし、複雑だと考えられていたと思います。ただ、先生がいつもおっしゃっていたのは「子どもは騙せない」ということ。それなのに、大人は子どもをだまそうとして、「こどもだまし」をするんだと。子どもの本の世界も、非常に子どもだましだと、嘆いていたこともありました。なので馬場先生は、「子どもをだますのではなく、子どもを楽しませることをやりたいんだ」とおっしゃっていました。それは「子どもだまし」よりもずっと難しいことだったと思います。でも、馬場先生の描いた作品を見る限り、先生は亡くなるまでずっと、子どもを楽しませるための作品を描き続けられたのだと私は確信しています。

───2001年、馬場さんは『ぶどう畑のアオさん』を描き上げて亡くなられました。『ぶどう畑のアオさん』のラストには、佐藤さんへのメッセージが込められていると伺ったのですが……。

馬場先生は絵本の奥付の部分にいつも絵を描かれていました。しかし『ぶどう畑のアオさん』描いているとき、先生はご病気で、とてもじゃないけれど奥付を描く体力は残っていませんでした。なので私は、「奥付は本文の絵を上手に使って作りますから、描かなくても大丈夫ですよ」とお伝えしました。けれど、先生は奥付までしっかりと描き上げて、印刷所から出てきた、色校(※印刷されたものの色などを確認する作業で使われる紙)を丁寧にご覧になってから、息を引き取られたんです。
私はそのころ、すでに馬場先生の担当は若い者に任せていましたから、『ぶどう畑のアオさん』の奥付を見たのは、馬場先生が亡くなられた後でした。奥付には、アオさんが空を見上げている場面が描かれていました。その空に浮かんだ雲は、『11ぴきのねこ』の表紙で、ねこたちが見ていた雲でした。これは私だけに向けた馬場先生からのメッセージだと思いました。きっと馬場さんは万感の思いでこれを描いたのだと思います。
私はその絵を見たとき、馬場さんと出会って絵本を作っていくことができた自分は、何て幸せな編集者なんだろうと心から思いました。

ぶどう畑のアオさん
作:馬場 のぼる
出版社:こぐま社

夢の中で見たぶどう畑を本当に見つけたアオさん。けれどもおいしそうなぶどうを、オオカミが一人占めしようとして。遺作となった、作者そのままの優しいアオさんのお話。

───「11ぴきのねこ」のおはなしから、馬場先生のお人柄のことまで、たくさんお話を伺いました。本当にありがとうございました。

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佐藤 英和(さとう ひでかず)

  • 1928年生まれ。長崎県の島原で幼少時代を送る。1953年、大学卒業と同時に、児童書編集者を志して河出書房に入社、編集者となる。
    1966年、日本の画家と作家による日本の子どものための創作絵本を作るため、株式会社こぐま社を設立。「11ぴきのねこ」シリーズ、『しろくまちゃんのほっとけーき』をはじめとする「こぐまちゃんえほん」シリーズ、『わたしのワンピース』など、数々のロングセラー絵本を作家と共に生みだした。
    また、肉声で読み、語ることを大切に考えた「子どもに語る」シリーズは、図書館、学校、ストーリーテリングの語り手から定評を得ている。
    現在、株式会社こぐま社相談役、公益財団法人東京子ども図書館監事。

作品紹介

11ぴきのねこ
作:馬場 のぼる
出版社:こぐま社
11ぴきのねことあほうどり
11ぴきのねことあほうどりの試し読みができます!
作:馬場 のぼる
出版社:こぐま社
11ぴきのねことぶた
作:馬場 のぼる
出版社:こぐま社
11ぴきのねこふくろのなか
作:馬場 のぼる
出版社:こぐま社
11ぴきのねことへんなねこ
11ぴきのねことへんなねこの試し読みができます!
作:馬場 のぼる
出版社:こぐま社
11ぴきのねこどろんこ
作:馬場 のぼる
出版社:こぐま社
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