絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  言葉を通して、世界とつながる『翻訳できない世界のことば』『誰も知らない世界のことわざ』 翻訳者・前田まゆみさんインタビュー

原書とほぼ同時期に発売となった『誰も知らない世界のことわざ』

───『翻訳できない世界のことば』は日本でも発売してすぐに、ベストセラーとなりました。翻訳をされていたときは、この状況を予想されていましたか?

最初に手にしたとき、長く残る本になるんじゃないかという予感はしていましたが、これほど早く、注目を集めるとは思ってもいませんでした。

───続編となる『誰も知らない世界のことわざ』もすぐに出版が決まったのですか?

『翻訳できない世界のことば』が2016年4月に出版され、夏前には続編の出版も決まっていたと思います。ただ、原書の発売が10月初旬だったので、翻訳作業をするときはまだ本そのものが出来上がっていませんでした。

───そういうときは、どのように翻訳作業を進めるのですか?

エージェントを通して、本になる前のデータをもらって翻訳作業を進めました。

───本を見ると、解説部分が1冊目より長くなっているように思いました。

そうですね。翻訳作業としても時間がかかったのは2冊目の方でした。1冊目の『翻訳できない世界のことば』は彼女にとって、はじめての作品だったこともあり、エラさんがその言葉に対して純粋に感じたことを、とても自然な言葉で表現されていると感じる部分がありました。今回の『誰も知らない世界のことわざ』は、話題となった1冊目の続編ということもあり、とても時間をかけ、丁寧にリサーチを重ねてまとめられています。ただ、言葉の言い回しなどが日本語に訳すとき難しくなってしまう所も多くあったので、ひとつひとつ分かりやすい表現を選んで訳する必要がありました。

───例えばどんなところが難しかったのですか?

「ラディッシュを下から見る(DIE RADIESCHEN VON UNTEN ANSEHEN)」ということわざの解説に、イギリスのコメディグループ「モンティ・パイソン」のコントのことが書かれています。日本人にはすぐにそのコントの内容を想像することは難しいと思ったので、訳注をつけました。


「ラディッシュを下から見る。」

───たしかに、訳注を読まないと意味を理解するのはちょっと難しいかもしれません。

そのほかにも、「さて、羊に戻るとしようか(JE RETOURNE AMES MOUTONS)」ということわざの起源になる15世紀のフランス喜劇を編集部で調べてくださったのですが、解説には明確に書かれていなかったので、こちらも訳注で説明を加える必要がありました。

───エラさんがそのような表現を使っているのは、ことわざという題材だったからなのでしょうか? それとも、エラさん自身の表現方法が変わったからなのでしょうか?

おそらく両方理由があるのではないかと思います。エラさんは若いアーティストなので、自分の表現をひとつに定めず、いろいろチャレンジしているのだと思います。1冊目が自身の感性に従って言葉と絵を紡いだとしたら、2冊目はしっかりリサーチをして、ひとつひとつのことわざの意味を深めていく作業をされたんだと思います。

───『誰も知らない世界のことわざ』の方がより読み応えを感じたのは、エラさんご自身の、作品に対するアプローチの仕方に変化があったからかもしれないですね。絵も1冊目よりもさらにキュートになったように感じました。

そうですね。1冊目は背景が描いていませんでしたが、2冊目は背景がぬられていて、よりカラフルに感じました。

───エラさんご自身がメッセージの中でも語っていらっしゃいましたが、絵の描き方がとても独特だと思いました。

背景と文字、メインのイラストをそれぞれ別の紙に描いて、最後にパソコン上でデータを合わせるというやり方ですね。私もとても面白い描き方をされるんだなと感じました。

───『誰も知らない世界のことわざ』では、手描きの文字のデザインが、絵によって変わっていますよね。これは原書がそのように描かれていたのでしょうか?

そうです。なので、原書の描き文字に合わせて、私も文字の描き方を変えました。その方が、絵とのバランスが崩れずに良いと思ったのですが、唯一、筆記体に似せて文章を描かなければいけなかったことは大変でしたね。


原書ページ


翻訳ページ

───日本語には筆記体がないですものね。こんなにたくさんの文字のデザインにも対応できるのは、前田さんがエラさんと同じ、画家さんだからなんだと納得しました。

実は、2冊目の翻訳の依頼をいただいて、データを見せていただいたとき、内容の難しさにしり込みして「描き文字だけ描かせてください」と言おうかと思ったんです。でも、絵の中に字を入れるなら、自分で翻訳しないと文字数が多くなったり、少なくなったりして、もっと大変になると思い、すべてお引き受けすることを決めました。実際に翻訳作業を進めていくと、描き文字のバランスを自分で考えて調整することができたので、良かったですね。

───マルタ語やガー語など、今まで知らなかった国や言語の中にもことわざがあることが、新鮮に感じました。解説を読むと、日本語にも似た意味を持つことわざがあるんですよね。

オランダ語の「テーブルクロスには小さすぎ、ナプキンには大きすぎる。(TE KLEINVOOR EEN TAFELLAKEN EN TE GROOT VOR EEN SERVET)」は「帯に短し、襷に長し」ですね。ポルトガル語の「ロバにスポンジケーキ(ALIMETAR UM BURRO A PAO DE LO)」は「猫に小判」と似ています。


「ロバにスポンジケーキ。」

───海外と日本のことわざの共通点に気づくと、外国がとても身近に感じるようになりました。エラさんがどうしてその言葉を選んだのか、とても知りたくなりますね。

たしかに。翻訳していて何となく感じるのは、エラさんはアーティストですから、ことわざを見たときにビジュアルがパッと浮かんだもの、自分が絵にしたいと思ったものを選んでいるのかもしれませんね。

───なるほど。前田さんも、描きたいと思うものが浮かんできてから、絵を描くことは多いですか?

はい。本を作るときに、描きたい1ページが浮かんでくることはよくあります。あくまで私の想像ですが、エラさんもガレージにいるタコや、ピラニアの川で背泳ぎをするワニを描きたかったから、選んだのかも……と思うと、楽しくなります。

───前田さんが特にお気に入りのことわざはありますか?

そうですね、例えば「一輪の花だけが春をつくるのではない。(Primuveara nu s-adutsi mash c-ura lilici)」。ことわざだけ読むと分かりませんが、警告をしている意味なんです。絵もとても美しかったので意味とのギャップが印象に残っています。「水を持ってきてくれる人は、そのいれものをこわす人でもある。(Faa yalo dzwee gbe)」は、とても深い意味を持つことわざだと思いました。それと、私には大学生や高校生の甥、姪がいるのですが、彼らは「あごひげが 郵便受けに挟まってしまう(BLI STAENDE MED SKJEEGGET I POSTKASSEN)」などで大爆笑していたようです。


「あごひげが 郵便受けに はさまってしまう。」

───不思議なシチュエーションのことわざですものね。

ことわざの方が、絵をパッと見たときの面白さが集められているように感じますね。

───日本からは「猿も木から落ちる」と「猫をかぶる」が紹介されています。エラさんの「日本人は、ネコとなるとちょっと夢中になってしまうようです。」というコメントがとても的を射ているなと思いました。

猫を頭の上にかぶっているイラストもかわいいですよね。ことわざの意味をそのまま表現したようなイラストも、エラさんならではのユーモアが溢れていると思いました。


「猫をかぶる。」

───エラさんは2冊目の制作に2年ほど時間をかけられていると伺いました。もし3冊目があるようなら、やはりまた翻訳を担当したいと思いますか?

そうですね。エラさんが新しい作品を出版した暁には、ぜひ、翻訳を担当させていただけたら嬉しいですね。

───3冊目がどんな作品になるか、前田さんは予想されているのではないですか?

まさか。2冊目もことわざになるとは思っていませんでしたから。エラさんが次に何に興味を持たれて私たちに見せていただけるのか、イチ読者として、今からワクワクしています。

───いろいろお話を伺い、ありがとうございました。最後に絵本ナビユーザーに向けて、メッセージをお願いします。

エラさんが生み出したこの2冊、『翻訳できない世界のことば』と『誰も知らない世界のことわざ』は、ゆったりとくつろぐときに、かたわらに用意したお茶を飲みながら、ひとつひとつ味わうように読んでいただくと楽しい本だと思います。家族みんなで本を囲むと、それぞれ好きな言葉、イラストが見つかり、コミュニケーションをとることもできます。ぜひ、絵と一緒に楽しんでいただければ嬉しいです。

───ありがとうございました。

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前田まゆみ(まえだまゆみ)

  • 絵本作家。神戸市生まれ。神戸女学院大学英文科卒。 著書に「野の花えほん」「いきもの図鑑えほん」(あすなろ書房)「野の花ごはん」(白泉社)など、翻訳絵本に「ポーリーおはなのたねをまく」(PHP研究所)がある。京都市 在住。

作品紹介

翻訳できない世界のことば
著:エラ・フランシス・サンダース
訳:前田 まゆみ
出版社:創元社
誰も知らない世界のことわざ
誰も知らない世界のことわざの試し読みができます!
著者・イラスト:エラ・フランシス・サンダース
訳:前田 まゆみ
出版社:創元社
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