───おはなしの展開で、難しかったことや悩んだことはありますか?
後半の「あっぷっぷ」の展開のなかで、「ぷ」だけのページが続くのですが、おふくさんたち、それぞれの表情の匙加減が難しかったです。
いったん本画が仕上がった後も、子どもたちに読み聞かせをして、反応を見ながら描き直しました。
結局、仕上がったのは締め切りギリギリ。子どもを絵本にひきこむのは本当に難しいと痛感しました。
───「にらめっこ」をする場面ですね。「あっぷっぷ」の顔の繰り返しはとてもインパクトがあります。この展開は、はじめからあったアイディアだったのですか?
おふくさんたちが、福笑いのように変な顔をして鬼を笑わせるというオチは、最初から変わりません。でも、この部分に、今のようにページ数を多く取っていたわけではありませんでした。
當田さんとおはなしを作りこんでいくうちに、この変な顔をして鬼を笑わせるという部分を、ページをめくる動作と合わせて繰り返し、リズムを持たせたら…ということになって、子どもたちに馴染みのある「あっぷっぷ」になりました。
───画面いっぱいに並ぶおふくさんたちの顔! 子どもたちは絶対笑ってしまうと思います。たくさんの「あっぷっぷ」の表情を描くのには、相当「変顔」を研究されたのではないですか…?
最初は、鏡とにらめっこしながら、自分の顔を描いていましたが、10人もおふくさんがいるので、身の回りの人に「あっぷっぷの顔をして〜」と頼んで描くようになりました。すると、友だちの子どもや、知り合いの子どもたちの変顔が、写メールで届くようになりました。大人は、表情だけで笑わそうとします。でも、子どもは、大人とはレベルが違い、手まで使って、顔を引っ張ったり抑えたり…とっても助かりました。
───たくさんの方の渾身の変顔が活きているのですね!(笑)
服部さんは、三重県四日市市の絵本書店「メリーゴーランド」の主宰する絵本塾に参加されていたそうですが、絵本作家を目指すきっかけなどがあったら教えてください。
四日市の山画廊での個展をよく見に来てくれるお客さんに歯医者さんがいて、その方に「歯医者に来る子どもが怖がってばかりなので、歯医者が怖くなくなるような絵本を作ってくれないか」という依頼を受けたのが最初の仕事です。
その後、その絵本は「もりのちいさな はいしゃさん」(文・上平川侑里)というタイトルで山画廊からシリーズで3冊出ています。
「もりのちいさな はいしゃさん」シリーズ
『もりのちいさなはいしゃさん2 やくそくのおはなみ』より
───明るく美しい色彩と、やさしいフォルム、キャラクターの生き生きとした表情。絵の全体が幸せな空気を発しているような魅力があります。「百福図」と『おふくさん』の絵は、タッチが違いますが、服部さんは、どんな技法で絵を描かれているのですか?
もともと、デッサンは苦手で、筆で絵を描くことに抵抗がありました。10代のころに「伊勢型紙」※を習ったことがあり、その型紙を使ってステンシルをすれば、私でも絵が描けるんじゃないかと思い立ち、自己流で描き始めたのが以前から描いている型染の技法です。
「百福図」や、「もりのちいさな はいしゃさん」シリーズはこの技法で描かれています。
※伊勢型紙・・・着物の柄や文様を着物の生地を染めるのに用いる伝統工芸品
絵本『おふくさん』の絵も最初はその技法で描いたのですが、當田さんに見てもらったところ、おふくさんの、のびのび、生き生きとした雰囲気を出すには、ステンシルのきれいな線よりも手描きがいいのでは、と言われて…。それから、「おふくさん」に合う画材選びをはじめました。
───絵本の『おふくさん』では新しい技法に挑戦されたのですね。技法を変えたことで、大変だったことはありますか?
當田さんと打ち合わせをして、型染の技法は使わないでやってみよう…と決めた日の帰り道、早速、画材屋で筆を何種類かとパステルを購入しました。絵本作りをはじめてから15年以上同じ画法で描いていましたが、もう、「やるしかない」という心境でした。 まずは、意識改革から。「筆でも描ける」と自分に言い聞かせるところからはじめました。その頃、ちょうど、近所で「水墨画」の教室を見つけ、藁にもすがる思いで習いにも行きました。
───『おふくさん』を、描いていて楽しかった部分はどんなところですか?
実際に筆で描いてみたら、動きや表情を描くとき、イメージが脳から腕に通じてそのまま、のびのびと描けるような感覚で、「下手」が「味」と思えるようになっていきました。夢中になって描き、今まで見たこともない自分の絵ができていくのが新鮮で楽しかったです。
40代後半になって、新しいことができるようになるなんて思ってもみなかったので、背中を押してくれた當田さんには本当に感謝しています。
原画を見せていただきました! ステンシルで描いたおふくさん(上)と、筆で描いたおふくさん(下)
───絵からもとても楽しく描かれた雰囲気が伝わってきます!