●デビュー作『ブラザーサンタ』ではじめて、おはなしを作りました。
───小林さんは2005年に『ブラザーサンタ』(岩崎書店)で絵本作家としてデビューされています。小さいころから、絵本作家になりたいと思っていたのですか?
もともと絵を描くのが好きだったので、絵本作家になりたいと思うよりも、絵で仕事をしたいと思っていました。ただ、洋書の絵本が大好きで、小さいころから模写をしていたこともあって、イラストの持ち込みに行った出版社さんに「絵本は描かないの?」と尋ねられることが多かったんです。転機となったのは、私の個展を見に来てくれたデザイナーさんが、「サンタクロースの1年」をテーマにカレンダー用の絵を描かないかと声をかけてくださったこと。そのカレンダーを見た、岩崎書店の編集者さんから絵本のおはなしをいただいて、サンタクロースの絵本を作ることになりました。
───直接、出版社さんへ持ち込みをしながらも、実際には人とのつながりで、絵本作家デビューが決まったのですね。
はい。ただ、それからがとても大変でした。というのも、それまで私は、絵本のおはなしを書いたことがほとんどなかったんです。
───そうなんですか? とても意外です。
イラストの持ち込みに行っても、物語のついていない、ひとつずつ異なるイラストをまとめたファイルを持っていくので、「おはなしのダミーはないの?」といつも言われていました。『ブラザーサンタ』を作るときも、編集者さんから「おはなしを別の方にお願いして、小林さんには絵だけを描いてもらうこともできるけれど、どうする?」と聞かれたんです。
───そこで、絵だけをやろうとは思わなかったんですか?
やっぱり、絵本作家としてやっていくには、絵だけでなく、おはなしも書けた方が良いだろうと、漠然とですが考えました。それまでおはなしを書いていなかったので、おはなしが作れるのかどうかも分かりませんでしたから、とりあえず、頑張ります!とお返事して、文章も絵も作ることになりました。それから、その編集者さんに一からおはなしの作り方を教えてもらって、何度も何度も書き直して作ったのが、『ブラザーサンタ』です。
───そうだったのですね。はじめておはなしを作ったとは思えないくらい、楽しいクリスマスストーリーですよね。それから10年以上絵本作家を続けてこられて、文章を書けて良かったと思うことはありましたか?
そうですね。自分で物語を作ることができると、自分の描きたい世界を自由に描くことができるので、楽しいですね。
───今、特に描いてみたいものには、どんなものがありますか?
おはなしではないのですが、最近、動物のヒップラインに凝っています。「くろくまくん」シリーズでもそうですが、プリッとしたおしりを描くのが楽しくて……(笑)。イラストでは、結構、決めポーズを描くことが多いのですが、絵本はページをめくるごとにおはなしが進むので、いろいろなポーズを描くことができます。そんなときは横向きや後ろ向きの動物を描いて、ヒップラインを描くことを楽しみます。
くろくまくんたちのお尻。とってもかわいいですね。
───歩きはじめたばかりの小さな子のおしりにも似ているなと思いました。先ほど、子どもの頃から翻訳絵本が好きだったと伺いましたが、どんな絵本作家さんの作品をよく読んでいたか、覚えていますか?
『ルピナスさん』(ほるぷ出版)や『ちいさなもみのき』(福音館書店)を描いたバーバラ・クーニーや、『算数の呪い』や『これは本』のレイン・スミス、そして「スキャリーおじさんの絵本」シリーズのリチャード・スキャリーが好きで、よく模写していました。
───繊細なタッチや、細かく描き込まれているところなど、小林さんが影響を受けたことが分かりますね。
レイン・スミスの作品は、特にデフォルメして描かれているものが多いので、私も自然と体に対して手や足が長い絵を描くようになってしまって……。普通の等身の人を描けるようになるまでずいぶん苦労しました(笑)。
───日本の絵本作家さんで、好きな人はいますか?
柿本幸造さんが好きですね。去年発売された『ひだまりをつくるひと 柿本幸造 絵本画集』(学研)を買って、銀座の教文館で開催されていた原画展に行ってますます好きになりました。柿本さんってとても細かい部分まで描き込んでいる作品があるかと思うと、ビックリするくらい大胆な構図の絵を描いたりするんですよ。特に船とか自動車とか乗り物の絵はとても緻密ですよね。あんな風に絵を描くことができたらステキだろうなって思います。
───「くろくまくん」シリーズは今回で3作目ですが、4作目、5作目と書きたいテーマは決まっているのですか?
そうですね……。キャラクターは、グッズでたくさん描いてきたので、おはなしの種はすでに用意されていると思っています。あとは、どんなおはなしを作るかだけで……(笑)。今回冬のおはなしを書かせてもらったので、次は、夏や秋など、季節を一巡させておはなしを作ってみたいと思いますね。
「出席カード」のイラストを見ていると、いろいろなおはなしが生まれそうです。
───海水浴にやってきたくろくまくんの水着姿とか見てみたいです。秋はやっぱり「食欲の秋」? 美味しい食べ物が山ほど登場するのでしょうか?
考えるだけでワクワクしてきますね。クーイ、クーフの2匹にスポットを当てたおはなしもまだ作っていないですし、ジンさんやモグリーヌさんも謎だらけ(笑)。たぬきさん親子が発明と失敗を繰り返すおはなしも作ってみたいですね。
───「くろくまくん」シリーズはこれからまだまだ広がっていくんですね。
そうなんです。絵本って本当に、やることがたくさんあって楽しいと思っています。
───今日は「くろくまくん」シリーズの絵本になる前のおはなしなど、貴重なおはなしを聞けて、とても楽しかったです。
私も、グッズのキャラクターのときから数えると、5年以上もくろくまくんたちを描き続けてきたのですが、今回のようにひとりひとりのキャラクターについて話す機会があまりなかったので、今回お話をさせていただいて、これからも、くろくまくんの絵本を描き続けていこうと改めて思いました。ありがとうございます。
───最後に、絵本ナビユーザーへメッセージをお願いできますか?
くくろくまくんは3匹一緒に行動していることが多いですが、それぞれ個性があって、よく見ると、仕草や言葉などで、どの子かを見分けることができると思います。私は小さいころ、絵本に描かれているものを隅から隅まで眺めることが好きな子どもでした。なので、大人になった今、お子さんは細かい所までじっと見てくれるだろうと思って、絵を描き、おはなしを作っています。ぜひ、お子さんと1ページ1ページ、隅々まで見て、「ここに花が咲いているね」「オーロラの色はこんな色をしているんだね」と声をかけていただけたら嬉しいです。それと、くろくまくん以外にも、おおかみのジンさんやはりねずみの夫婦、『くろくまくんと しろくまくん』に出てきたしろくまくんなど、個性豊かな仲間たちも出てきます。お気に入りのキャラクターを探して見ていただくのも面白いと思います。ぜひ、「くろくまくん」シリーズを長く楽しんでいただけたら嬉しいです。
───ありがとうございました。
●もっと知りたい! 小林ゆき子さんに一問一答
Q.好きな色は?
A.白やグレーなどモノクロ系の落ち着く色が好きです。でも、絵を描くときは、オレンジやグリーン、ピンクなど明るい色を使うことが多いですね。
Q.好きな食べ物は何ですか?
A.お米が大好きです。
Q.絵を描くとき、どんな音楽を聴きますか?
A.文章を考えるとき以外はいつもラジオを流しています。CDなどで音楽を聴くときはもっぱら洋楽を聴いています。映画のサウンドトラックを聴くのも好きです。
Q.好きな季節は?
A.秋の終わりです。過ごしやすくて、空気がきれいなところが好きです。
とってもかわいいサインを描いていただきました。
