───「わがままには… ガマガエルにへんしんの刑!」や「うそつきには…つっつきキツツキの刑!」などですね。こんなにたくさんの地獄を思いつくことができるなんて、すごい発想力ですね。
子どもの頃に通っていた幼稚園が仏教系だったことが、少なからず影響しているのかもしれません。園のにいたお坊さんがよく地獄のことを話してくれたのですが、すごく怖くて、今でも印象に残っているものが何個もあります。その記憶と、新たに調べた地獄の知識を、カレー作りの工程と合わせて、新しい「カレー地獄」を作りました。
───地獄の場面は、炎が燃えたぎり、とても迫力のある場面なのですが、地獄の鬼たちがラッパを吹いていたり、万国旗が飛び出したり、クスッと笑える要素が見え隠れしているのが面白いです。
よーく見ると、閻魔さまや鬼たちが頭に巻いているのはターバンですよね。
はい。どうやら閻魔はインドの神様が起源のようで、インドと言えばカレー! と結びつけて、ターバンを巻いてもらいました。
地獄の鬼たち。よく見ると楽しそう……?
閻魔さまの頭にはターバンが巻かれています。
───閻魔さまの起源がインドの神様だったなんて、知りませんでした。さまざまな地獄を経験し、完成した地獄カレーを食べたみちひとくん。あまりの辛さと熱さに心の底までヒリヒリとしてしまいます。そんな、みちひとくんの目の前にたらされたのが一本の「チーズのいと」。みちひとくんは、これを上って、この世に戻ろうとするのですが、目の前に出てきた、嫌いなニンジンが食べられるか……という、最後の試練が待ち受けます。
みちひとくんは一度は「みんな ごめんなさい。」と謝罪の言葉を言っていますが、やはり、本当に改心したのかは、本当に嫌いな野菜を食べられるようになったという絵がないと、伝わらないと思ったんです。なので、このニンジンを食べる場面は絶対入れたいと思いました。
───ここで克服できないと、再びカレー地獄に戻ってしまう……という展開も、地獄のしくみが分かりやすく描かれていると思いました。
大人は芥川龍之介の「蜘蛛の糸」を思い出すと思います。ここは地獄でも「カレー地獄」なので、カレーっぽさを損なわないように「蜘蛛」ではなく「チーズ」に変えました。
それは「チーズのいと」でした!
───ちょっとしたパロディ要素が入っている部分は、大人の読者が読んで、クスッと楽しめそうです。そのほか、絵の中に潜ませた設定などには、どんなものがあるのでしょうか?
例えば、みちひとくんが地獄に落ちた場面、カラフルなルーの乗ったカレーを描いているんですが、あれは曼荼羅(まんだら、曼陀羅)をイメージしているのですが、元は人の出生から、成長し、死へ向かうまでの道のりを描いていたんです。
───よく見ると、タージマハルのような建物に、子どもが生まれる場面が描かれていますね。
それと、罪人をさばく鬼たち。彼らはとても力があるように見えますが、実は閻魔さまに管理されていて、あまり自由のない立場なのです。
日々の仕事で抱えているストレスを罪人に向けて発散させているという設定があります。
───鬼たちにそんな苦しみがあったなんて、知りませんでした……。お話を伺えば伺うほど、見えない部分にも設定があったり、アイディアがたくさん潜んでいるんだと感じました。
はじめての絵本ということもあり、作品に描き切れない伏線やアイディアも絵の中にたくさん盛り込んでいます。今後、『カレー地獄旅行』の特設サイトに、作品の裏話や、キャラクター設定なども順次公開していく予定です。
───それは、とても楽しみです。
『カレー地獄旅行』特設サイト(http://pie.co.jp/curry-jigoku/)より
●自分の作品を残したいと思い、独学でスタートした似顔絵師の道。
───安楽さんは2000年から、似顔絵師として活動されていますが、どのようなきっかけで、似顔絵師になったのですか?
大学時代に中国文学を専攻していたので、ずっと中国と貿易の仕事に就くと思っていました。実際、中国に何度も旅行に出かけ、仕事をするイメージも固めていたんです。しかし、二十歳になったころ、自分で作品を作って、それを売る仕事をしたいと考えが変わってきました。そのため、進路を変更して、イラストを描く仕事を始めることにしました。
───それまで、絵を学んだことはあったのですか?
絵を描くのは好きで、よくノートの隅に落描きを残したりしていたのですが、本格的に絵の勉強をしたことはなく、独学で絵を描き続けています。その後、プレジャー企画(※)という会社が「似顔絵師募集」とうたっているのを見たのをきっかけに、専属の似顔絵師として活動を開始しました。今は社員として似顔絵、看板、鳥瞰図とさまざまなイラストを描いています。絵本も会社の事業のひとつなんです。
※プレジャー企画……似顔絵師と道化師(クラウン)の育成、派遣の会社。
作品のアイディアをまとめたノートを見せてもらいました。
───特に安楽さんが得意とする画風やモチーフはありますか?
得意なのは昭和レトロな雰囲気の作品や似顔絵、そして鳥瞰図です。「鳥瞰図」とは、『カレー地獄旅行』の見返しにも載せているような、空から地上を見下ろした風景のこと。見返しの「ようこそ カレー地獄温泉郷へ」の島の絵は、長崎県の島原半島をモデルにしています。
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───島の形がそっくりですね。「カレー地獄」だけでなく、「カレー温泉」や「カレー城」があるのも面白いです。
絵本では「カレー地獄」しか出てきませんが、全体図はこうなっているんです。なので絵本のタイトルも『カレー地獄旅行』と「旅行」をつけました。