●ネジのことをもっとたくさんの人に知ってほしい! その思いから絵本が生まれました。
───絵本『にじいろのネジ』は、「にじいろのネジ」プロジェクトから、はじめて生まれた絵本ですね。絵本を作る企画はどのようにスタートしたのですか?
KONOE 河野:私共は、この東大阪でネジ全般と測量機械を扱う卸商社を営んでいます。ネジって、地味な部品だと思いますよね。でも、ものづくりの世界では、ネジは「産業の塩」と言われているんです。
───「産業の塩」ですか?
KONOE 河野:人間にとって必要不可欠な塩のように、ネジがないと、自動車も建物も機械も、すべて形をとどめることができなくなり、産業が成り立たなくなってしまうんです。私共は本来、そういう大変重要なものを扱っている商社なはずなのですが、日々の業務の中で、「安価で、短期間の納品」を強いられることも少なくありません。私は、常日頃から、ネジに付加価値をつけられないかとの思っていました。そんな中、古くから工業地域として栄えたこの東大阪で、日本中の子どもたちへものづくりの楽しさと大切さを伝える「にじいろものづくり」プロジェクトを企画しているメンバーと知り合いになったのです。
株式会社KONOE 河野裕社長
───そこから、「にじいろのネジ」プロジェクトがスタートしたのですね。
KONOE 河野:はい。普段はネジを使ったオリジナル教育プログラムの開発や、ワークショップの実施を主な活動としています。今回の絵本は「にじいろのネジ」プロジェクトから派生した、新たなコンテンツ開発のひとつなんです。
───なぜ、絵本だったのですか?
KONOE 河野:それは、文章を担当していただいた映画監督の安田真奈さんが、「にじいろのネジ」というおはなしの構想をすでにお持ちだったからなんです。
───そうなんですか?
安田:はい。私は以前、パナソニックに勤めていたのですが、当時から、ものづくりに対して深い思いを抱いていました。約10年で脱サラし、ドラマや映画の監督・脚本家になりました。「ものづくり」は描きたいテーマの一つでした。「にじいろのネジ」の原案を考えたのは10年ほど前、私が初の監督作品「幸福のスイッチ」を発表してすぐのことです。「幸福のスイッチ」は、町の電気屋さんを舞台に、電気屋の頑固おやじと彼の子どもたちの人間模様を描いた映画なのですが、この作品を作り上げて、ものづくりの現場にスポットライトを当てたいという思いがさらに強くなりました。そこで、2作目の映画の舞台に選んだのが町のネジ工場だったのです。
───ネジ工場のどんなところに魅力を感じたのですか?
安田:先ほど河野社長もおっしゃっていましたが、今注目を集めているAI技術や宇宙産業、もっと身近なところでいうと、スマホやパソコンなどもネジがないと部品が止まらず、バラバラになってしまいますよね。そんな縁の下の力持ち的なところが、とても魅力に感じました。今はまだ、企画中なのですが、映画もネジをひとつの象徴として、バラバラだった家族がまとまる人間模様を描けたらと思っています。『にじいろのネジ』は映画の中に登場する絵本のタイトルになる予定です。
文を担当した安田真奈さん
KONOE 河野:私共と一緒に「にじいろのネジ」プロジェクトを行っている、エンジンズの方から、安田さんがネジ工場を舞台にした映画を作りたいと思っていること、映画の中に『にじいろのネジ』という絵本が登場することを教えてもらい、「それだ! 絵本だ!」と思い、今回の絵本制作はスタートしたのです。
───河野さんと安田さんの思いが、見事に一致したのですね。『にじいろのネジ』では安田さんが文章を担当し、絵をイラストレーターのはりたつおさんが描いています。はりさんはどのようなご縁で、このプロジェクトを知ったのですか?
はり:ぼくは、以前から安田監督と知り合いでした。今回、監督から「『にじいろのネジ』の絵本化をするから、絵を描いてほしい」とご連絡いただき、このプロジェクトのことを知りました。
安田:はりさんは普段、イラストレーターとして様々な企業の方々とお仕事をされています。ベネッセの「こどもちゃれんじ ぷち よみかたり絵本 こどもちゃれんじぽけっと English」では、「しまじろう」をはじめとするキャラクター絵本の作画などをされているんですよ。今回、私がどうしてもはりさんに『にじいろのネジ』の絵を描いてほしいと思ったのは、はりさんの「ロボット」という作品を観たからなんです。それは男の子がロボットに乗って操縦している絵。この絵の男の子とロボットを『にじいろのネジ』でも登場させたいとお願いしました。
───とてもあたたかい雰囲気を感じる絵ですね。はりさんは普段、どんな画材を使って作品を作っているのですか?
はり:最初に手描きで、テキスタイルを作っておきます。それを使って、イラストはデジタルで描いています。
───手描きの要素も加えているから、こんなに温かみのあるイラストになるのですね。
KONOE 河野:私も、作品を拝見したのですが、色がすごくきれいで印象的でした。『にじいろのネジ』は所々にネジの専門的な表現が出てくるので、文章だけでは理解するのが少し難しいと感じるかもしれません。でも、はりさんのイラストがとてもカラフルでかわいいので、小さいお子さんも楽しんで読んでいただけると思います。
───世界中のネジたちを集める「ネジ王子」やネジ王子の暴走を止めようと奔走する「ハグルマ姫」など、登場人物がとてもユニークだと思いました。登場人物はどなたかモデルがいるのですか?
はり:特定の人物はいないですね。ぼくの中の「王子」や「姫」のイメージを描いたら、こんなキャラクターになりました。ただ、出てくるネジはちゃんと現実にある形をモデルにしているんですよ。
───そうなんですか? かなり個性的な形もあるので、はりさんのオリジナルの形なのかと思いました。
はり:絵本を描く前に、河野社長にKONOEさんのネジ倉庫を見せていただきました。そこには何百種類ものネジが保管されていて、そのどれもがとても個性的な形をしていました。せっかくネジの絵本を作るなら、できるだけ多くの面白い形のネジを絵本の中に登場させたいと思い、絵を描きました。
───目鼻があるように見えるネジが登場するのも面白いと思いました。
はり:小さい子は絵本の隅々まで読んでくれるので、絵の中に楽しめるしかけをちょっと入れてみました。顔みたいなネジもそうですが、ネコがたくさん登場するページもあります。絵本を読む子が「あ、このネジ顔みたい」「ここにネコがいるよ」といろいろ発見してくれたら嬉しいですね。
よく見ると顔のように見えるネジ……。
───表紙を広げると、ネジたちがハートの形になっているのも、しかけのひとつですよね。
はり:そうですね。これは倉庫見学をさせていただいた後、すぐに描いた絵なんです。
KONOE 河野:倉庫でお見せしたネジたちが、こんなキュートな形になって登場するなんて……と感無量でした。
表紙を広げてみると、ネジたちがハート形になっています。
───河野さんと安田さんは特にどのシーンがお気に入りなんですか?
KONOE 河野:表紙ももちろん好きですが、私は意外と、ネジたちが油のお風呂に入っている場面が好きなんです。……というのも、ネジは水分厳禁、水につかると寂びてしまうんです。なので、このお風呂が油というのが、プロから見ても考えられているな〜と感心しました。
はり:嬉しいですね(笑)。
安田:はりさんが、細かいディテールにこだわって、読者を楽しませるポイントを色々提案してくださったんです。それは私たちにとっても、とても楽しいやり取りでした。「ネジの本」と聞くと、すごく専門的なものに感じる方もいると思います。でも、これだけカラフルで楽しい雰囲気が溢れていると、きっと手に取っていただいた方にも、私たちの思いが伝わるんじゃないかなと思っています。
絵を担当した、はりたつおさん