絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  「あかちゃんといっしょに作ったあかちゃんのための絵本」創刊開一夫教授&作家さんインタビュー

ブーバー・キキ効果を使って描かれた絵本 『モイモイとキーリー』

───絵本『モイモイとキーリー』の中には、「モイモイ」以外にもふしぎな言葉がいっぱい出てきますね。この言葉はどのように選んでいったのですか?

みうら:絵本を作ることが決まったとき、編集者さんからいろいろな単語をまとめた資料をいただきました。その中に、「ボルボル」「キルキル」「ぴちゃんぴちゃん」など、たくさんの擬音語擬態語の音が書いてあったんです。「この言葉を使って絵本を作ってください」と編集者さんに言われたときから、ぼくの絵本作りはスタートしました。

───『モイモイとキーリー』というタイトルは最初に決まっていたのですか?

みうら:はい。これは「ブーバー・キキ」という心理学の実験が元になっているのですが、例えば、ギザギザの図形とふわふわした図形を人々に見せて、どちらが、「ブーバー」でどちらが「キキ」かを聞いたとき、多くの人がふわふわした形を「ブーバー」、トゲトゲした形を「キキ」と認識するのだという理論があるそうなのです。『モイモイとキーリー』は、ブーバー・キキ効果と同じように、「モイモイ」「キーリー」という音を聞いて、あかちゃんがイメージした図形を主人公に絵本を作ることになっていました。

───なるほど。「モイモイ」「キーリー」以外に提案された言葉は、どうやって使っても良いのですか?

みうら:そうなんです。「ボルボル」「キルキル」といった、意味が全く分からない言葉だけでなく、「ぴちゃんぴちゃん」「ざーざー」「ギザギザ」といったような、ある程度意味を持つ言葉も、使うことになっていました。たくさんある言葉を組み合わせてひとつにまとめなければならない。しかも、「モイモイ」と「キーリー」というキャラクターの魅力も引き出さなければならない……。そう考えると正解が分からなくて、何度もラフを描いては、ボツにしていました。


ラフの一部を見せていただきました。

みうら:そのうち、「無理やりつなげなくても、開いたページで印象が違っていてもいいんじゃないか」と思うようになりました。同時に、全部絵で説明せずに、読者が想像する余白も残した方がより面白くなるのではないかと思ったんです。それからですね、悩みはゼロになったわけではないですが、とにかく絵の具と筆と紙を使って、楽しく描くようになったのは。

───たしかに、『モイモイとキーリー』の絵を見ると、楽しんで描かれているのが伝わってきます。

みうら:ぼくとしては、今までとは違うタッチで描けたので、新しい発見もあり、楽しい絵本になりました。


『モイモイとキーリー』の作者・みうらし〜まるさん。

───紙の手触りがほかの作品と違っているのも、印象的でした。

みうら:中の紙を変えることは、編集者さんからの提案なんです。『モイモイとキーリー』が水彩画っぽい印象だったので、和紙のような質感のある紙の方が、より雰囲気が出るだろうと、選んでくれました。実際にあかちゃんに読み聞かせると、まず紙の質感が面白いらしく、何回も触ってくれているようなので、すごく嬉しいですね。

───「モイモイ」と「キーリー」がジグザグした場所や、ザーザーと雨が降ってくるような場所、ふわんふわんと綿毛が舞うような場所を旅していき、最後にひとつの形にまとまる場面が、とても印象的でした。このラストは最初から考えていたのですか?

みうら:はじめたときは、どうやって終わらせたらいいのか、まったくイメージがありませんでした。しかし、何回かラフを描いているうちに、だんだん「モイモイ」と「キーリー」がくっつきそうだなと思ったんです。くっつけてみたら、ハートのような形になって、これをおはなしの最後にしようと決めました。

───「パレレー パレパレ」という音の中、「モイモイ」と「キーリー」が近づいてきて、「クーマ」でひとつの形になるのは、神秘的な感じがしました。そして、たくさんのハートが浮かんでいるラスト。すごく温かい気持ちになる絵本ですね。

みうら:ありがとうございます。実際に絵本を読んでくれたお子さんで、ハートをもう知っている子は、この場面を見ると「ハートだ!」と指をさしてくれるそうです。お子さんの反応を聞かせてもらえるのは、やはり嬉しいですね。

絵本は親子のコミュニケーションツール。

───開教授の10年来の思いが実を結んだ、「あかちゃんといっしょに作ったあかちゃんのための絵本」が刊行されましたが、実際に絵本を手にされていかがですか?

:そうですね。私があかちゃんの成長・発達に興味を持ち「あかちゃん学」を研究し始めてから20年くらいたつのですが、今回、あかちゃんの好きな色、音、形を研究し、3冊の絵本を出せたことは、とても意味のあることだと思います。この「あかちゃん学絵本プロジェクト」は、あかちゃんの立場を尊重して、あかちゃんが本当に「好きな」絵本を作ることを目標にしています。この3冊が、多くのあかちゃんの手に渡り、親御さんだけでなく、あかちゃんの周りにいるすべての大人の、あかちゃんに対する「常識」を覆した、あかちゃんが「好きな」絵本がこれから増えていってくれることを願っています。

───ありがとうございます。最後に、絵本作家の皆さんから、絵本ナビユーザーへメッセージをいただけますでしょうか。

市原:そうですね……。『もいもい』を、あかちゃんとお父さん、お母さんのコミュニケーションツールとして、ぜひたくさん使ってほしいです。

ロロン:ぼくも同じです。今回は特に文章もとても少ないので、絵を見て楽しんでもらえる絵本だと思います。ぜひ、絵を見て、「うるしーは、次は何を出してくれるかな?」とお母さん、お父さんに声をかけてもらえたら、お子さんもすごく楽しめると思います。

みうら:ぼくの絵本は、いろいろな色と形が出てくるので、絵本に出てくる文章以外のオノマトペを、お父さんお母さんに自由に考えてもらって、全然違うおはなしを作ってもらうのも面白いと思います。ぜひ、お子さんにもいろいろな言葉を考えてもらって、絵本で遊んでもらいたいですね。

───ありがとうございました。

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取材・文/木村春子
写真/所靖子

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開一夫(ヒラキカズオ)

  • 東京大学大学院総合文化研究科広域システム科学系教授。「あかちゃん学」を専門とし、東京大学あかちゃんラボを運営。あかちゃんが本当に好きな絵本を作りたいと「あかちゃん学絵本プロジェクト」を立ち上げる。
    乳幼児にも「正義の味方」を応援することを明らかにするなど、ユニークな研究を行っている。著書に『日曜ピアジェ 赤ちゃん学のすすめ』(岩波書店)、『赤ちゃんの不思議』(岩波書店)などがある。

市原淳(イチハラジュン)

  • 愛知県出身 大阪芸術大学デザイン科卒業 横浜在住。
    絵本の他にグッズ、書籍、広告のイラストレーションも制作。
    2009年 オリジナルキャラクター「Popper Town」がカナダのDECODE社よりアニメ化され、日本のディズニーチャンネルをはじめ世界約100カ国のテレビで放送される。
    日本児童出版美術連盟 会員。『ホッペツタウン』(小学館)、『トンネルねるくんくるままにかな?』(くもん出版)、『にっこりにこにこ』(講談社)他多数。

ロロン

  • イラストレーター。1972年東京生まれ。日本デザイナー学院、セツ・モードセミナー卒業。主な仕事は書籍、雑誌、広告等のイラストレーション。

みうらし〜まる

  • イラストレーター・絵本作家。著書に絵本『うんぽっとん』(金の星社)、『ウポポウポポポポタージュスープ』『かぶとん』(鈴木出版)、『うみのえほん ぼく、うまれたよ』(教育画劇)などがある。

作品紹介

もいもい (あかちゃん学絵本) 0歳、1歳、2歳児向け 絵本
もいもい  (あかちゃん学絵本) 0歳、1歳、2歳児向け 絵本の試し読みができます!
絵:市原 淳
監修:開一夫
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
うるしー (あかちゃん学絵本) 0歳 1歳 2歳児向け 絵本
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絵:ロロン
監修:開一夫
出版社:ディスカヴァー・トゥエンティワン
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