●優秀な王様は、ちょっぴり過保護な父親だった?
───『みんなの くまくまパン』は、カバの王様の依頼で、くまくんとしろくまくんがお城にやってくるおはなし。いつ頃から続編のことを考えていたのですか?
ありがたいことに、『くまくまパン』の評判が良かったので、編集者さんから「2冊目も描いてもらえませんか?」と連絡をいただきました。でも、正直1冊目でいろいろなパンを描いてしまったので、どんなおはなしにしようか、しばらく悩みました。
───どんなアイディアを考えたのですか?
例えば、くまではなく、ほかの動物でお仕事のおはなしを描くこともできるなと思いました。
───『くまくまパン』の続編ではなかったかもしれないんですね。
そうなんです。でも、いろいろ考えて、やっぱりこの二匹のクマをもっと登場させたいなと思って、『くまくまパン』の続編を描くことにしました。でも、最初はパン屋にお客さんが来るおはなしにしようかと思ったのですが、それだと1冊目と似たイメージになってしまいそうだったので、思い切ってくまたちを店の外に出すことにしたんです。
───では、カバの王様を登場させることは、そのあとに決まったんですか?
王様のキャラクターが気に入っていて、1回しか登場しないのは残念だと思っていました。でも、王様はすでにくまさんたちのパンを食べているから、お城に呼ぶための理由を何か考えなければな……と。そこで、思いついたのが、息子を喜ばせるために、くまさんたちにパンを作ってほしいと依頼することでした。
───『くまくまパン』で、くまさんたちのケンカを見事に仲裁した王様が、子どもに翻弄されるお父さんというのがとても面白かったです。
国を治めることは優秀だけど、息子に対する愛情がちょっといき過ぎてしまっていて、わが子以外が見えていない王様なんです。
───西村さんも息子さんがいらっしゃいますが、カバの王様のようなお父さんですか?
うちは結構、放任主義ですよ。でも、王様の子どもを王子にしたのは、ぼくに息子がいるからかもしれませんね。編集者さんの子どもも男の子だったからか、打ち合わせをした時にもお姫様を登場させようという案は出なかったと思います。
───カバの王女様、見てみたかったです(笑)。王様も手伝って、王子様が喜ぶ「とくべつなパン」を作る、くまさんとしろくまさん。でも、王子さまは「たべたくないよ!」と断ります。そのとき、お城の外で見ていた動物たちが、「パンパン たべたい たべたいな〜」と言ったため、王子は王様に頼んで、みんなをお城に入れてもらい、それぞれ食べたいパンをリクエストします。このやりとりがとても温かい気持ちになるのと、くまさんとしろくまさんが作ったパンが本当においしそうなんですよね。
『くまくまパン』で出てくるパンが、王道だとしたら、『みんなの くまくまパン』は結構、変化球のパンが登場します。本を読んだ子どもたちが、どのパンが好きだったか、自分だったらどんなパンを作ってほしいか、親御さんと会話が弾むと良いなと思って描きました。
───「じゃんけんパン」や「ロケットロール」それに王子が食べたいといった「ロボットパン」みんな個性的で面白いです。
読者の人から「王様は自分で作ったパンを食べているんですね」って感想をいただいたこともあるのですが、やっぱり、みんなで食べるのは楽しいですよね。絵本を読んだ子どもたちが、いろいろ想像して、自分で作ってみたいパンや、オリジナルのパンを考えてもらえたら嬉しいです。
───『みんなのくまくまパン』を作るときに、難しかったところや悩んだことなどはありましたか?
うーん。基本的に「文章は読みやすく、絵は見やすく」を考える以外はあまり悩まないのですが、王様の家族を出そうと思ったとき、奥さんはどうしようかな……と、ちょっと考えました。でも、このおはなしに奥さんを出してしまうと、「あなた、うちの子の機嫌が悪いのは、あなたがえこひいきしているからよ!」って言うだろうな。そうしたら、それでおはなしが終わってしまうな……と思いました。
───たしかに、お母さんならそう言いそうですね(笑)。
でも、奥さんがいないのではなく、今回はどこかに出かけているってことにして、息子と父親のはなしでまとめる方が、シンプルで面白くなると思い、今のストーリーになりました。
───最後は王子の機嫌も直って、おいしいパンも食べられて、みんなハッピーエンドなのが楽しいおはなし。絵本を読んだ後は、パンを食べたくなっちゃいます。