●動物も人間みたいにパンツをはきたいかも!?
───完成までに描き直したラフを見ると、途中までは人間で、そのあと動物に代わっているんですね。
苅田:最初のラフ画の時は、女性や女の子は普通のパンツではなく、胸の上まである、長いかぼちゃのような形のパンツをはいていました。ところが出版社さんから「これはパンツに見えないので、普通のパンツにしてください」と言われたんです。何とかしなければと思って、保育園の先生や近所のお母さんがたなどに、かぼちゃパンツと普通のパンツ、両方のラフを見せてご意見を伺った結果のレポートを作ってお見せしたりしました。それでもなかなか着地点が見えなくて、大変なやり取りが続きました。
貴重なラフを見せていただきました。
やぎ:普通のパンツで描いたラフをお渡しした後、なかなかお返事がいただけなくて困りました。絵を描く時間がどんどん減っていくので……。そして、ずいぶん後になって、まだ揉めている報告と苅田さんが作ったレポート(保育園の先生や近所のお母さんの意見)を受け取りました。
レポートを読んで、苅田さんは本気でこの作品を守ろうとしているんだな……と感動しました。そして力になれることがないかと考え、苅田さんのレポートの「動物だったら、普通のパンツでもおかしくないと思う」と「“すっぽっんぽん”に子どもが一番喜んだ」という意見をヒントに「登場人物をすべてタヌキにしてはどうか」と考えました。
ただ、絵を描くことを依頼されている私が、作品の内容に口出すのはどうなのかなあ…と悩みました。
でも、時間はどんどん過ぎていくし、誰かがどうにかしなければ進まないと思い、差し出がましいとは思いましたが、編集者さんに伝えました。
苅田:編集者さんから、「動物の世界にしたらどうでしょう?」と言われて、できるかどうか不安でしたが、書き直してみて、何とかなるかもしれないと思いました。その後、やぎさんが新しく描いてくださったラフが素晴らしくて、「動物は普通はパンツをはいていないから、人間みたいにパンツをはきたいと思っているかもしれないなあ」と思いました。
───そんなことがあったなんて、驚きです。
苅田:出版社さんからも了解をいただきました。でも、やぎさんは、人間を全部動物に変えて描かなくてはいけないのですから、大変でしたよね……。
やぎ:大変でした……。ざっくり人間を動物になんて…。スーパーマーケットの中にはあふれるように人間がいましたから、知っている種類の動物を描くだけでは間に合わないなと思いました。最初、擬人化でいいのかな?と人間の体に動物の頭をつけるように描いたら、ちゃんと動物の骨格にするよう直しを言われ、結局、2足歩行の動物に直しました。
───たしかにそうですね。
やぎ:図鑑を見ながら描こうとしても2足歩行じゃないですし、インターネットで図鑑から選んだ動物のいろんな角度の画像を見ながら描きました。、もう自分で選ぶのにも疲れて、家族に「何でもいいから動物言って」とリクエスト方式にしたり。
───よーく見ると、パンツにいろいろな模様や色があったり、動物たちが面白い格好をしていたり、見ごたえがありました。
やぎ:そうですね。例えば、羊は毛糸のもこもこパンツをはいていますが、それは娘のアイディアです。あと、クジラは地球規模で移動するイメージから地球柄のパンツ履かせたり、終盤だんだん慣れてきてパンツの柄で遊べるようにもなりました。
苅田:本当だ! 私は、遊園地の場面でコーヒーカップを回すリスたちが、回転するスピードが強すぎて飛んで行ってしまいそうな姿や、アライグマがアヒルボートにぎゅうぎゅうに詰まっているところなども好きです。
個性豊かなパンツをはいた動物たち。どの場面にいるか、探してみてください。
───パンツいっちょうめを満喫しているだいくんのところへ、パンツを奪う大風が現れます。「パンツを とられたら パンツいっちょうめに いられない」と言われ、必死に大風からパンツを守る、だいくん。でも大風はそんなだいくんのパンツを脱がそうと、襲い掛かります。このクライマックスの場面は細かい構図から一転して、大胆に描かれていて迫力満点ですね。
やぎ:この場面は思い切って背景をなくして、色でピンチを表せるようにしました。パンツを脱がされそうなのが黄色信号で、次が赤信号なんです。