●絵本好きの父のおかげで、いつも絵本がありました。
───西淑さんは、イラストレーターとして、本や広告など多くの媒体へイラストを提供されていますが、いつからイラストレーターになりたいと思ったのですか?
22歳くらいだと思います。大学を卒業して1年くらいは事務の仕事に就いていたのですが、全然向いていなくて……。自分が最初から最後まで責任を持ってやりきる仕事をしたいと思ったんです。それで、もともと絵を描くのが好きなこともあり、イラストレーターを目指しました。
───切り絵を使った画法は最初から使っていたのですか?
最初は全く違う画材を使って描いていました。まだ自分に合う画材を見つけられず、いろいろ試行錯誤していた時期でした。それから4,5年たったくらいだと思います。ふと、紙を切って絵を作ってみようと思ったんです。それまで、白い紙にいきなり絵を描こうとすると、失敗するのが怖かった。
でも、紙を切って貼ったら失敗しないんじゃないかと思って。そうしたら、自分でも意外なほど面白い作品ができたんです。それから、紙を切って作品を作ることを続けています。
───紙を切ることで、西さんオリジナルの表現が生まれたのですね。切り絵に使っている紙はご自分で着色されているんですか?
はい。先に彩色してから、紙を切ることが多いですね。色はクレヨンでまず下地を塗って、上からアクリル絵の具を重ねています。そうすると、独特のムラができて、完成した作品がより面白いものになるんです。
───計算できない、自然な表現を使っているから、西さんの個性が光る作品ができるんですね。ちなみに、子どもの頃は、身近に絵本がある環境でしたか?
我が家は父親が割と絵本好きで、気に入った絵本を見つけたら、いつも買って帰ってきてくれるような人でした。それは、子どもたちが大人になった今でも続いているそうで、書店に行くと絵本コーナーに立ち寄って、新刊絵本をチェックしているみたいです。
そうそう『なくなりそうな世界のことば』のお仕事をいただく前に、父が『翻訳できない世界のことば』を買ってきて、「これは、とても面白い本だ」って言っていました。だから、『なくなりそうな世界のことば』の絵を描くことになったことを知ったときは、すごく喜んでくれて「本屋さんで見かけたら買う!」って言っていました。
───お父さん、嬉しかったでしょうね。それだけ絵本に詳しいお父さんだと、読み聞かせもお父さんの担当だったんですか?
いいえ。絵本は母が読んでくれましたね。寝る前にきょうだいそれぞれが好きな本を持って、母に読んでもらうんです。でも、いつも兄の絵本から先に読むので、弟は自分の選んだ本を読んでもらう前に眠ってしまっていました。
───かわいいエピソードですね。子どもの頃は、どんな本をよく読んでもらっていましたか?
私はエリック・カールやイブ・スパング・オルセン、モーリス・センダックなど海外の作家さんの絵が好きでしたね。兄や弟は、自動車や電車が出てくる絵本をよく読んでもらっていたように思います。
───子どもの頃の絵本体験が、今のイラストのお仕事にもつながっているのかもしれませんね。
そうですね。絵本もずっと好きで、いつか絵本のお仕事もやってみたいとずっと思っているんです。でも、絵本に自分がすごく大きな影響を受けたのもあって、なかなか一歩が踏み出せずにいるのです。子どもに手渡すものだから、中途半端なものは作りたくないし……。でも、いつかは絵本を作ってみたいと思います。
───西さんがどんな絵本を作るのか、すごく興味があります。ぜひ、絵本を作ったときには、また絵本ナビで紹介させてください。今日はたくさんお話をしていただき、ありがとうざいました。最後に絵本ナビユーザーへ『なくなりそうな世界のことば』のメッセージをいただけますでしょうか。
今、まさになくなりつつある「小さな言葉」を扱った、はじめての単語帳です。ご自身も少数言語の研究をされている、吉岡乾先生をはじめ、多くの少数言語研究者の方が残したいと思った単語が一場面にひとつ入っています。
ページをパラパラとめくっていくと、きっと、心に引っかかる言葉、目を惹かれる絵があると思います。ぜひ、この本を読んで、今まで知らなった「小さな言葉」と、その言葉と共に生きている人たちのことに、思いをめぐらせていただけたら嬉しです。
───ありがとうございました。
取材協力/恵文社 一乗寺店
住所:〒606-8184 京都市左京区一乗寺払殿町10
電話:075-711-5919 / FAX: 075-706-2868
営業時間:10:00 – 21:00(2015年5月11日より)(年末年始を除く)
営業日:年中無休(元日を除く)
URL:http://www.keibunsha-store.com/

取材・文/木村春子
写真/所靖子