●「デジタル」「アナログ」と考えるのではなく、コミュニケーションの円滑材としての「デジタルえほん」
───紙の絵本を楽しまれているユーザーさんの中には、デジタル絵本ってどういう風に遊べばいいんだろう…と悩まれている方も多いと思うのですが、デジタルとアナログ、デジタル絵本と紙の絵本との違いについてはどう思われますか?
季里:まず大前提として、デジタルえほんを作っている「みらいのえほんプロジェクト」メンバー全員が、紙の絵本が大好きで、すごく尊敬しているということからプロジェクトをスタートしているんです。なので、紙の絵本をデジタル化したいわけではなく、このデジタルえほんでしか表現できないもので、子どもの好奇心を刺激するものは何だろうという視点からチャレンジしたいというスタンスを持っています。
中津井:デジタルならではのインタラクティブ性や面白さと、アナログの持つあたたかさ、それぞれの持ち味を生かして、最大限楽しんでいただけたら嬉しいし、今後もそういったものをどんどん提供できるようにしたいです。
石戸:私は今まで、デジタルを使った子ども達向けのワークショップを10年位続けているんですが、そこに参加してくれる子ども達を見ると、「動物の絵を描いていることが楽しい」ということが重要で、そのツールが紙かデジタルかということはそれほど問題ではないんです。そういう現代の子ども達と接していくうちに、私は大切なのはツールではなく、子ども達の創造力やコミュニケーション力をはぐくむことであって、その手段としてデジタルえほんが担える部分があり、紙の絵本で担う部分もあり、公園や幼稚園、保育園での活動で担える部分もある…というように多様性があって良いんだと感じるようになりました。
なので私達はデジタルえほんを作るのと同時に、デジタルの世界だけで完結するのではなく、リアルな体験の場とつながって、コミュニケーションや創造、表現行為を誘発するワークショップができる場も作りたいと考えていました。
───今回の「デジタルえほんミュージアム」は、その思いを実現できる場所となりますね。
中津井:はい。今の子ども達の環境の中では、いつ来ても良いし、何をしても良い、自由に遊べる場って意外と少なくなってきていると思うんです。大人が遊び方にレールを敷いた場所ではなく、子どもの空想の余地を残した場所で、何時間でも遊んでほしい。「デジタルえほんミュージアム」で遊んだことを家に持って帰って、自分で作ってみたり、写真を撮ってフォトしりとりを考えてみたり、そういうきっかけが生まれる場になってくれれば良いなと思います。
───みなさんのお話を伺って、再度この「デジタルえほんミュージアム」を見ると、デジタル絵本と紙の絵本をつなぐ場としてとても期待を抱きます。今後、「みらいのえほんプロジェクト」として、どんな作品を予定しているのですか?
季里:今後は「tap*rap」シリーズ以外のデジタルえほんも作っていきたいと思っています。テーマとしては、色や音、におい、身体性など。紙の絵本とかTVの番組では出来ないけど、デジタルえほんなら出来る、という分野がきっとあるはず。においは、難しいかもしれませんが。
石戸:「デジタルえほん」の定義を絵本に限定せず、タブレット、電子書籍リーダー、電子黒板・サイネージ、スマートフォン等テレビやパソコン以外の新しい端末を含む子ども向けデジタル表現を総称して「デジタルえほん」としています。今後は、美術教材や学習教材なども開発して行きたいです。
中津井:最近作った作品の中には、ボストン美術館展のデジタルおみやげとしてリリースされた「My雲龍図」や、日本のアニメ美術の創造者 山本二三さんの作品をアプリにした「菩提樹の春夏秋冬」など、絵本以外のジャンルにもチャレンジしています。「デジタルえほん」シリーズとしての展開以外にも、美術分野への展開、デジタルから紙への展開や子ども達の集まる様々な場所へ、活動の場を広げていく予定です。
吉岡:「デジタルえほんミュージアム」は、デジタルとアナログの橋渡しの第一歩のような空間です。この場所で、両者をどのように融合させ、子ども達が楽しむのか、ぜひ一度、体験しに来ていただけると嬉しいです。スタッフ一同、お待ちしております。
●インフォメーション
Access
所在地/東京都新宿区市谷田町1-14-1 DNP市谷田町ビル
(コミュニケーションプラザ ドットDNP B1F)
開館時間/10:00−18:00
休館日/日曜日・年末年始
入場無料
URL:http://www.dnp.co.jp/dotdnp/

(編集協力:木村 春子)