●くだらない話を時間をかけて真面目に描く
───ゴリラの体毛やカメレオンの質感などのリアリティはさすがシゲリさん、とうならされます。やはりかなり時間をかけて描かれるんでしょうか。筆はどんなものをお使いですか。
面相筆で描いています。もちろん時間はかかるんですが、こう描けばいいんだな、というのを自分なりにつかんでからは、結構早いと思います。
基本的に、筆で絵の具をとって紙に乗っけるという作業が本当に好きなんですよ。放っておかれたら、際限なく描き込みたくなってしまうんです。だから締め切りがあるというのは、すごくありがたいことで。まぁ締め切りがあっても、「もう少しかかります!」と延ばしてもらったりもしてるんですが(苦笑)。どれだけ描き込んでも、自分自身で満足できたことはないですね。
でも描いているうちにわかることや、ひらめくこともあるんです。カメレオンのセリフなんかは、ラフの段階ではなかったんですが、描きながら思い浮かんで入れることにしました。
───ラフにはなかった部分、変わった部分は他にもありますか。
いろいろありますよ。たとえば後半のおばけのページ。最初は左側におばけを1人、大きく描いていたんですが、1人にすると迫力が出すぎて、その次のページの迫力がどうしても弱くなってしまうと思ったんですね。それでおばけを3人描くことにしました。
主人公の男の子が現実の世界に戻ってくるシーンも、最初はらせん状ではなく、団地らしくワンフロアずつ描いていたんですが、途中でこれはらせんの方が面白いなと気づいて変えました。
───満を持して最後に登場する鬼たちも、さすがの迫力です。
あまり気持ち悪くならないように意識して描きました。気持ち悪いと感じる方もいるかもしれないですけどね(苦笑)。
ラストには、見た人を「あぁ!!」と驚かすようなインパクトのあるシーンを描きました。編集部の方から「この鬼は結局いい奴なのか、悪い奴なのか、どっちなんですか」と聞かれたんですが、確かにまったくもって信用できない奴ですよね。本当のところは僕自身もわからないので、読む方が自由に解釈してくれたらなと思っています。
───今後はどんな絵本を作っていきたいですか。
『だれのパンツ?』もバカみたいな話でしたけど、くだらなくて誰が見ても笑えるようなものを、時間をかけて非常に真面目に描いていきたいですね。
あとはやっぱり、自分が見たい世界を描いていければなと。これまでの経験から、アイデアさえあれば人を惹きつける、面白いものが描けるということがわかったので、絵についてはなるべく個性を出さないようにしているんです。そう思えないかもしれないですけど、自分としてはできるだけ普通に描こうという意識があるので、キャラやタッチを強調せずに、わかりやすさ重視でプレーンな表現を心がけています。
───それでもシゲリさんの絵本にはどれも個性がしっかりとにじみ出ていて、それが唯一無二の魅力になっているように思えますが……。
自分としては普通に描いているつもりでも、読者の皆さんが見て個性的と感じていただけるのでしたら、こんなに幸せなことはありませんね。
撮影:後藤 利江 / 取材・文:加治佐 志津
企画:株式会社KADOKAWA 文芸局 児童図書編集部
初出:KADOKAWA文芸WEBマガジン「カドブン」 2019.8.2