───まだうまくおしゃべりできなくても、1歳くらいの子って、大人のことをよく見ているし、色々わかっていますよね。
1歳児ってすごくコミュニケーションもとれるよ。「どんなふうに?」と聞かれると困っちゃうけど。「はい、どうぞ」と相手に物を渡すのもコミュニケーションですね。
───1歳児クラスを受け持って、印象に残っていることは、何かありますか?
保育園で給食に納豆ごはんが出るときがあってね。もう大変。みんなくわんくわん。口のまわりべたべたで、しかも食べながら寝ちゃう子がいるのよ。「ともくん!」って声をかけると、ふにゃふにゃって一度起きるけどまた寝ちゃう。納豆ごはんは、1歳は早いよね。2歳からでいいと思った(笑)。
あとはおむつだね。その保育園では1歳児からトイレトレーニングをするんだけど、あるとき、いっぺんに2人の子のウンチが出ちゃったときがあって。1人に「ちょっと待っててね!」と言って、もう1人の子のおむつをとりかえて、「はい、きれいになったー」と言ってふりかえったら、待ってる間にその子は木馬に乗ってた(笑)。
もう、にっこにこで木馬に乗ってるんだよ。ウンチもぺったんこですよ。そんな日々ですね(笑)。1歳児が10人いますからね!
───大変(笑)。その頃、中川さんは……?
24、25歳ですね。1歳児クラスのときは。
保育園で1、2歳を担当したのはすごくいい経験だったと思います。食べるシーンでも、「はいどうぞ」と渡すシーンでも、「はーい!」と手を上げたりねんねするシーンを書くときも、一緒にいた感覚がよみがえる。体に染み込んでるんですよ。そのくらいの子の世界にふっと入れるんですね。
保育園の先生を経験したことがすべてではないけれど、想像だけではない毎日があって……。あのときの経験はやっぱり大きいですね。
───1歳くらいの子の親御さんは、子どもの成長を感じられて嬉しいと同時に、大変な時期でもありますよね。
そうですね。
───でもこの3冊を読んで、あらためて、これくらいの子ってかわいいんだなあ……としみじみ再確認しました。
かわいいですよー。すぐ大きくなっちゃうからね! さっくんも、2歳すぎた今はもうこんな感じじゃないもの。体つきも違うし、あっという間です。
───最後に、お気に入りの場面があったら教えてください。
やっぱり『はーい!』の手をあげるところかな。あと『みんなで ねんね』の、くまちゃんの歯をみがくところもいいよね。くまちゃんにやってあげてから、自分もお母さんにみがいてもらうんだけど。うちの子も歯をみがくのいやがってたなあ。
そうそう、寝かしつけは難しくて、保育園でぼくがトントンすると、みんななぜか起きちゃうんだよ。トントンしたらわざと「いてっ いてっ」と言う子もいた。強くしてないんですよ! みんな起きちゃうから、相方の先生に「もう休憩室、行ってていいわ」って言われましたね(笑)。
不思議だけど、子どもによってトントンするのがいい子と、さすってほしい子と、みんなそれぞれ違うんだよねえ。うちの息子は眉間をすすっとさするとすぐ寝た。触ってもらって安心する場所がそれぞれあるんですね。
───お話を伺っていたら、ちっちゃい子に会いたくなりました。
でしょう(笑)。絵本に限らず、なるべく一緒に過ごせる時間があるといいよね。お互い一緒にいれば、何をしようとしているのか、何を欲しているのか、何となくわかるし。そういうときに絵本を通じて、親子がちょっとだけ一緒に楽しい時間を過ごせたら、いいんじゃないかなと思います。
───中川ひろたかさん、ありがとうございました!
**********************
★まるやまあやこさんにお話を伺いました。
●ぬいぐるみらしさを大事に
───どのようないきさつで、「はじめてのことば」シリーズの絵を描かれることになったのですか?
編集者さんに「中川ひろたかさんの素敵な原稿があるのですが、絵を描いてみませんか?」と声をかけていただいたのがきっかけです。
以前、保育補助のお仕事をしていたんですが、私が行っていた園にも中川ひろたかさんの絵本がたくさんありました。『さつまのおいも』(童心社)はみんな大好きで、読むといつも子どもたちが大喜びでした。中川さんと絵本作りをご一緒させていただけるなんて、とても光栄だなと思いました。
───『はーい!』『まんま まんま』『みんなで ねんね』と3冊ありますが、どのような順番で絵を描いていったのですか?
中川さんにお会いしたとき、「まず『みんなで ねんね』のラフから描いてみたら?」とアドバイスいただいたので、『みんなで ねんね』から取りかかりました。中川さんがおっしゃったとおり、さっくんとくまちゃんの関係性や、絵本の世界観が自然に感じられました。おはなしにすっと入って『まんま まんま』も『はーい!』も描くことができました。
───絵を描くとき、難しかった絵本はありますか?
そうですね……、やっぱり『はーい!』の構成が一番シンプルなので、どうやって描こうかなとあれこれ考えて、ラフを描いた回数が一番多かったと思います。全部で10冊くらい描きました。
まずは中川さんのテキストを読んでイメージをふくらませて、思いつくままにどんどん描いて、何度も描いて、ようやくこれで見せられそうかなというところまで回数を重ねてから、中川さんと編集者さんにお見せしました。
───具体的にはどんなところの描き方を迷われたんですか?
「くまさんには りんごを あげましょう。はい どうぞ」のところを、2枚の絵にわけて描いていたりとか……。できあがった絵本では1枚になっていますが、「りんごをあげましょう」と、りんごを持って行くシーンを最初は描いていました。でもここはいらないんじゃないかとか。
あと『まんま まんま』で、こぼしちゃって「あーあ」というシーンをどんなふうに描こうか悩みました。くまちゃんの口が開いていたほうがいいのか、閉じていたほうがいいのか。
───中川さんから、ぬいぐるみの動物たちの表情については、少しアドバイスがあったと伺いました。
そうですね。最初の頃に描いたラフでは、動物たちの口元が開いていて、うさぎもキャラクターっぽいようなかわいさがあったのかなと思います。中川さんと「もうちょっとぬいぐるみの感じを出すにはどうしたらいいだろうね」「口は開いてなくてもいいんじゃないかなあ」といったやりとりが編集者さんを介してありました。
子どもって、ぬいぐるみとお友だちになってしゃべったりしますけど、大人から見たら口が動くわけでもない、ふつうのぬいぐるみですよね。でも子どもには、本当にしゃべってるように見えるし、しゃべってると思ってる。そうか、中川さんはそういう感じを大事にしたかったのかな……と私も思って、ぬいぐるみの表情をどうしたらいいかな、どんなしぐさがいいかなと考えました。
うさぎの鼻や耳のほわほわしたところや、ぞうの体の縫い目は、ぬいぐるみらしさを大切にしたいなと、後から付け加えていったところです。
いろいろ考えた結果、途中からはぬいぐるみの口元を閉じた形で描いたので、「あーあ」のところも、口を閉じたままで描くことを試みました。「失敗しちゃった」というふうに、頭に手をあててみたり、いろいろ試したのですが、どうしても「あーあ」という空気にならなくて、結局ここではくまちゃんの口を開けることにしました。