1歳すぎの子どもの、言葉もできることもどんどん増えていく、そんな成長の喜びを描いた「はじめてのことば」シリーズ(光村教育図書)。『はーい!』『まんま まんま』につづき『みんなで ねんね』が2020年4月に出版されました!
主人公のさっくんと、登場するぬいぐるみたちのしぐさや表情が、とってもかわいい3冊シリーズです。
文章を書いた中川ひろたかさん、絵を描いたまるやまあやこさん、それぞれに、制作の裏側や、作品への気持ちを伺いました。
(*取材は2020年3月31日に、感染症の拡大を配慮し、おふたりそれぞれにオンラインで行いました)
★まずは中川ひろたかさんにお話を伺いました。
中川ひろたかさん
●はじめての言葉とぬいぐるみのお友だち
───1歳くらいの子のかわいさがぎゅっと詰まった3冊ですね。この絵本はどのように誕生したのですか?
小さい子がぬいぐるみとふだん遊ぶじゃない? ごっこ遊びのはじまりだと思うんだけど、お人形がお人形じゃなく、もう、生きものとしてつきあっている感じが小さな子にはあって。最初はただのぬいぐるみなのに、一緒に行動するうちに、だんだん命を持って動きだしちゃう感じがあるでしょ。そういうのを書きたいなと思って書きました。
(『はーい!』より)
───以前からそのようなテーマの作品を書きたかったのですか?
ぬいぐるみと子どもを書いてみたい、とずっと思っていたんだろうな。今回、あかちゃん絵本を作りましょうという話が来たとき、それが国語教材関連を出版している光村教育図書さんだったから、言葉の本がいいなあと思って、「“はじめて話す言葉”の絵本にしましょう」と提案したんですね。
それで、ぼくの中で“ぬいぐるみ”と“言葉”の2つの要素が合わさってこの絵本が生まれました。
……まぁ、“ぬいぐるみ”が登場する絵本は、よく考えたら『こんとあき』(福音館書店)というすばらしい作品があるじゃないか!と、書いた後に気がついたんですが(笑)。
───本シリーズの主人公「さっくん」はあかちゃんらしさが残っていて、「はい、どうぞ」とか「はーい!」と手をあげるしぐさが、とってもかわいいです。
『はーい!』が1冊目ですが、『まんま まんま』『みんなで ねんね』の出版もすぐに決まったのですか?
最初から3冊作ろうという予定だったと思います。制作中に編集者さんが調べてくれた、あかちゃんのはじめての言葉のランキングが手元にあるんだけど、1位が「まんま」で、5位に「はーい」が入ってるの。
───わ〜、そうなんですね! 他にはどんな言葉が入っていたんでしょう。
他には「まま」とか「おっぱい」、「いないいないばあ」も入っているね。あと、調べてもらった一覧表では、6位が「わんわん」、7位が「ねんね」。この中で「まんま」と「はーい」と「ねんね」がいいんじゃないかなあ、と。
───そのランキングをヒントにされたのですね。3冊の中では、どの作品から取りかかったんですか?
『まんま まんま』が最初ですね。4日後に『はーい!』を書き上げて、こんな感じでどうかな?と、2つそろえて編集の方に確認しました。それでOKが出てから『みんなで ねんね』の原稿を送ったのが約2か月後。ちょうど順番どおりじゃない? 律儀だね(笑)。
(『まんま まんま』より)
───中川ひろたかさんにはお孫さんが何人かいらっしゃるんですよね。
孫は4人、みんな男の子です。この絵本を作っているとき、一番下の子がちょうど1歳くらいで、本にぴったりの年齢でね。どうせなら、うちの“さっくん”を見てもらおうかと思って、まるやまさんに写真を送ったのよ(笑)。
───お孫さんの名前が“さっくん”なんですね! できあがってみて、お孫さんに似ていますか?
この「はーい!」っていう片手をあげたポーズなんか、そっくりです。両方のおばあちゃんが大喜び(笑)。
(『はーい!』より)
───かわいいですよね(笑)。
親しみやすくてあたたかい感じがして、描かれた絵から、幸せや愛情を感じますよね。うん、すごくいいんじゃないかな。
───制作中にまるやまさんとお会いになりましたか?
テキストがまるやまさんのところに渡ったくらいのタイミングで、一度会いました。まるやまさんが編集者さんと一緒に、保育園へ取材に行ったらしくて、その帰りに鎌倉に寄ってくれたの。一緒に飲みながら話しました。
───まるやまさんに絵を描いてもらうにあたって、中川さんから何かお願いをしたりしましたか?
ほとんど絵には注文していないです。唯一、ラフがあがってきたときに、「動物をあまりかわいくしすぎないでほしい」というのは言ったかな。最初、ぬいぐるみの口がにっこり開いた感じで、何となく気になったんですよね。あまり絵が甘すぎないようにというか……言葉にするのは難しいんだけど、ぬいぐるみらしさは残してほしいとお願いしました。
●保育士として1歳の子たちとすごした日々
───中川ひろたかさんが男性保育士の先駆け的な存在だったことはよく知られていますが、最初の頃、保育園で乳児クラスを担当されていたとか。
そう。ばっちりこの絵本の対象年齢です。最初の2年間は2歳児クラス担当だったの。2歳から3歳って、ごっこ遊びもどんどん世界が広がっていく年齢でしょう。それは楽しかったし、園長先生はぼくに、持ち上がりで3歳児クラスを担当させたかったみたいなのね。でもぼくは、2歳の子たちのその前が見たくなったんだ。だから、自分から志願して1歳児クラスに行ったの。
───2歳の子たちの「その前」を見たいというのは、つまりどのような意味でしょうか。
2歳になった子たちはもう歩いているけど、1歳児クラスってはじめて歩くでしょう。はじめてしゃべるでしょう。他にもはじめてトイレでおしっこができるようになったり、はじめてのことがいっぱいあるわけ。どうやって歩くんだろう、どうやってしゃべるんだろう、それを見てみたいなと思って、1歳児クラスを担当して、2年間一緒に過ごしました。それはやっぱりすごく楽しかったよ。
───はじめて出る言葉って、どんなものでしたか?
「あーあ」とかね。「あーあ!」と言う子が多かったな。いろんなときに「あーあ!」って言ってた。お茶を飲むふりをして「あーっ!」と言ったりね。おじいちゃんがお茶なんか飲んで「はあーっ」て言うじゃない。それを真似して(笑)。
はじめて出る言葉はみんなちがうよね。「あー」「うー」「あーあーあー」って。そういうはじめての瞬間に立ち会えたことはよかったよな。
あ、ここで書いてるじゃない、「あーあ」って(笑)。このくまの「あーあ」の顔がかわいいよね。
(『まんま まんま』より)