●かわいい子みんなが、さっくんです
───今回、さっくんという男の子を描いてみていかがでしたか?
今までの絵本では女の子を描くことが多かったので、「やっと男の子が描ける!」と嬉しかったです。手のひらのむちむちした感じや、立ち方、座り方をよく観察して、男の子らしさを出せるように心がけながら、タッタッと走っていっちゃうようなかわいい男の子が描けたらいいなと思いながら描きました。
───保育園にも取材に行かれたそうですね。
はい。保育園で、1歳児クラスと2歳児クラスを見学しました。ハイハイしたりおすわりしたり、「はーい!」をやっているところを見せてもらいました。お昼ごはんを食べているところ、その後のお昼寝まで見せてもらって、みんなすごくかわいかったです。そのときの気持ちをなるべく忘れないように描きました。
───中川さんからもお孫さんの写真が送られてきたとか(笑)。
はい(笑)。写真を見た瞬間、「かわいいーーー!」と私が“さっくん”のファンになっちゃうくらいかわいい子でした。『まんま まんま』で一所懸命食べているシーンがあるんですけど、いただいた写真の中に本当にこんなふうに前のめりで食べている写真があって。「がんばって食べて、えらいねー!」と褒めちぎりたくなるくらいでした。
(『まんま まんま』より)
絵本のさっくんは、私がかわいいなと思った子どもたちの、しぐさや表情を混ぜ込んで作っています。子どものどこをかわいいと思うかというと、私は手や足の感じなんですね。手の握り方、開き方、足の指の感じ、そういうところを適当に描いちゃうともったいないなと思っていて、顔の表情はもちろんですが、手足のしぐさの細かなところを大事に描きたいなと。
───実際に絵を描くときは、どんな画材で描かれているのでしょうか。
基本的にはアクリル絵の具ですが、今回、きれいににじむ色にしたいところは、水彩絵の具を使っています。たとえば、『はーい!』のさっくんの洋服の赤色、『まんま まんま』の洋服の黄緑色、『みんなで ねんね』の青色などのにじんでいるところですね。あと、ぬいぐるみっぽさを出すために部分的にクレヨンを使っています。
(『はーい!』より)
───画材を組み合わせているんですね。
たとえばさっくんの髪の毛のように、塗り重ねていったほうがいい場合は、アクリル絵の具を少しずつ重ねて濃くしていきます。ぬいぐるみのほわほわ感を出したいところは、紙のパレットにクレヨンをこすりつけて、それを綿棒ですくいとって、こするようにすると、ふんわりした感じにクレヨンでの着彩ができるのです。
くまちゃんの毛で言えば、黄色っぽいところはアクリル絵の具の感じ、茶色のグラデーションになっているもやもやしたところはクレヨンがのっているところだと思います。
今回は、小さなお子さんが対象の絵本なので、私の今までの絵本と比べると、強めの輪郭線を選び、色づかいもはっきり見せられるように工夫しました。
───さっくんの髪も印象的です。お母さんが切ってあげたような、パッツン気味の前髪がかわいくて、つい目がいってしまいます。
描いているうちにだんだん髪の毛を描くのが楽しくなっちゃって、こんな髪になりました(笑)。
───ラフを拝見すると、「はーい!」のときに上げる手が左右2通りあったようですが、どちらをあげるか迷われていたんですか?
そうですね。「さっくん」と呼ばれたとき、さっくんは片手を口元に持っていっているのですが、こちらの手をあげるか、それとも反対の手かなと、本番の絵の着彩をするぎりぎりまで迷いました。編集者さんや中川さんにもご相談しました。
他にも、『はーい!』の最後のシーンで、中川さんには、楽器を持ってみんなで行進する感じにしたら楽しいんじゃないかなとか、いろんなところでアイディアをいただきました。
左手をあげる、さっくんのラフ画
右手をあげる、さっくんのラフ画
●子どもって、一所懸命に生きていて、本当に素敵です
───お話を伺うと、丁寧な取材をされて、制作中も様々な工夫を重ねたことが伝わってきます。それにしても、なぜこんなにかわいい子が描けるんでしょうか(笑)。
そう言っていただけると嬉しいです(笑)。絵を描いて色を塗るとき、まず肌色を塗って、その後、頬、耳、指先と紅色をさしていくんですが、そのときがいつも幸せです。あー、やっぱり子どもを描くの好きだなあ、といつも思います。
(『みんなで ねんね』より)
───まるやまさんご自身も、きっと子どものことが好きなんですね。
私が保育補助に入るのは午後で、3歳児クラスが多かったのですが、たまに小さな子のクラスにお手伝いに行くと「いつもいない人が来た!」という感じで、ちっちゃな子たちがわらわらと寄ってきてくれて楽しかった思い出があります。
夕方の補食の、おにぎりを食べるお手伝いをしたときは、ちっちゃい手の指と指の間に、お米のつぶが入っちゃって、「なんでこんなにぴったり挟まっちゃったの!?」というくらい、すごく取るのが大変だったりして(笑)。
みんなそれぞれプラスチックのコップを持っているのですが、飲むと小さな顔が隠れちゃうんですね。それで隠れたところからこっちを見ていたりする(笑)。なんてかわいいんだろうと思っていました。
(『まんま まんま』より)
保育園では、絵本のさっくんくらいの、本当にちっちゃい子たちが、ほとんど自分で食べているんですよね。自分が生きていくためのこと、大きくなるために必要なことを、毎日一所懸命がんばっている子どもたちを見ているとえらいなぁと感動します。
食事の後は着替えるんですが、それもすごく時間がかかるけど、自分でちゃんと着替えるんです。着替える途中で、ぼーっとお友だちを見たりもしますけど、ああやって着替えるんだなと、見てるんだと思います。がんばってズボンはいたのに片方に両足入っちゃってるよ、とか(笑)。またにこにこしながらぬいだりして、いつも「がんばれー!」と応援したくなりました。
───ご自身を振り返ってみて、小さい頃のまるやまさんはどんなお子さんでしたか。さっくんのようにぬいぐるみと仲良くなる気持ちはわかりますか?
私自身にも、子どもの頃に「まりこ」と名付けて可愛がっている白いねこのぬいぐるみがいました。自分のよだれのにおいなのか、落ち着く、安心するいいにおいだなあと思っていたんですが、ときどきそのにおいがなくなって。そういうときは親に洗われちゃっていたみたいです(笑)。あまりにボロボロだったので、何回か同じぬいぐるみを母が買い直したらしいのですが、私自身は覚えていません。
(『みんなで ねんね』より)
3歳か4歳くらいまで一緒にいたんじゃないかなあ……と思いますが、自分にとってはちっちゃい頃から、抱きしめるのも一緒に寝るのもちょうどいい、しっくりくる大きさでした。
たぶん、本当に人間のお友だちができたり、妹が生まれて一緒に遊ぶようになってぬいぐるみの世界を卒業するまでは、「まりこ」が一番自分を理解してくれる大事な友だちだったんだと思います。
さっくんにとってのくまちゃんも同じで、その子のいちばんのお友だちである感じが出せたらいいな、生きているように描けたらいいなと思いながら描きました。
───まるやまさんの思い出もぴったり重なる絵本だったのですね! 描き終えて、今の気持ちはいかがですか?
中川ひろたかさんの、ファンタジーみたいな世界とふだんの生活とが、うまく交じり合っている感じがすばらしいなと。素敵な文に絵を描かせていただいて、本当に幸せでした。
───最後に、絵本ナビ読者にメッセージをお願いします。
小さいお子さんをお持ちのお母さん、お父さんは、本当に毎日バタバタして大変だと思うんですけど、そんなときに、もしもこの本を読んでいただけたら、私も家族の大事な時間に一緒にいられたような気持ちになります。この3冊が、みなさんと一緒に過ごせたらとても幸せです。
───まるやまあやこさん、ありがとうございました!
【取材後に】
3年前から長野県の安曇野市にお住まいのまるやまさん。ちょっと行くと森があって、どんぐりを拾ってみたり、自然の形ってきれいだなと思うことが増え、散歩が楽しくなったそうです。オンライン取材だったため、後日アトリエの写真を送っていただきました!
アトリエはご実家が営むお店の2階。お店は、レジを打つお母さん、注文を電話できくおばあちゃんなど、家族が働く姿を身近に感じながら育った場所だそう。土日の決まったお休みはなかったけれど、お客さんにも可愛がってもらい、店の中で妹とごっこ遊びをした楽しい記憶が残っているそうです。まるやまさんの絵からにじみ出るあたたかさには、そんなたくさんの思い出が息づいているのかもしれませんね。
(編集部)

写真:中川ひろたかさん、まるやまあやこさん ご提供
文・構成: 大和田佳世(絵本ナビ ライター)