●子どもたちの遊びはダイナミック!
───公園についたどんぐりえんの子どもたちはさっそく遊びはじめます。とつぜんの強い風で落ち葉が吹き上がり、ゆっくり舞い降りてきたかと思うと・・・年長さんのこーたが「ぶぁ〜! きたかぜだあ〜!」と枯れ葉を両手いっぱいかかえて空に投げ上げます! 「きたかぜごっこ」は素敵なシーンですね。
これは実話(笑)。取材のときに同じことがあったんですよ。みんな公園につくとさーっと散って好きな遊びをはじめるんですが、とつぜん風がびゅーっと吹いて落ち葉がわあっと舞い上がった。
するとそれまで思い思いに遊んでいた子どもたちが「きゃあーーーっ!!」と一斉に歓声をあげて落ち葉を宙に投げ上げたんです。しばらくして風が落ち着くと、さーっと潮が引くみたいにそれぞれ散らばって好きな遊びをして・・・また突風が吹くと「きゃあーーーー!きゃ〜〜っ!」と枯れ葉をほうり投げて大盛り上がり。
───楽しそう〜〜(笑)。
このあと、砂場でおみせやさんごっこがはじまります。「いらっしゃい! いらっしゃい! とくせい おちばぷりんは いかがですか?」と、年少さんのくっぺ。
しっかり砂をかためてひっくりかえすと、いい形のプリンができるんですよね。自分も息子もよくやっていましたが、あれって、どうしてあんなに楽しいんでしょうね(笑)。
───落ち葉を乗せるのは、なかやさんの思いつきですか?
実際に公園で女の子が、砂場のふちに端っこからずーっとプリンを並べて、てっぺんに葉っぱを置いていたんですよ!延々と一人で作っているのを、面白いなあと思って見ていました。
こんなふうにお話しているとわかると思いますが、絵本前半は取材そのまんまです(笑)。
絵本には描いていないのですが、公園でひとしきり遊んだところで、先生がお茶をついだコップを並べはじめると、子どもは自然に飲みにきて、飲んだらまた遊びに戻っていました。「あうんの呼吸」と言うんでしょうか。子どもたちと先生たちのさりげない信頼関係に感心してしまいました。
とにかく子どもたちが自立していて、園の空気がとても自然で落ち着いていましたねえ。
───おみせやさんごっこも、取材からの発想ですか?
資料として目を通した保育雑誌に、おみせやさんごっこの事例や、おみせを決めるときのトラブル解決エピソードが載っていて、参考にさせてもらいました。
こういう本を読むと現場の先生方はえらいなとあらためて思います。エネルギーいっぱいの子どもたちの間に入って、そのつど仲裁したり導いたり、苦労もおありでしょうけど、よく現場を支えていらっしゃいますよね。

なかやさんが参考にされた保育雑誌や書籍。左から『愛される保育者になる40のヒミツ』(佐藤綾子 著)、『0歳〜6歳心の育ちと対話する保育の本』(加藤繁美 著)、雑誌「こどもと」2012年3月号(休刊)。いずれも学研刊。
───取材のとき、現場を見て感じたことはありますか。

これは私が取材した保育園独特なのかもしれないですけど、おやつのりんごを一皿にどーんと盛って、テーブルごとに置いてあったんです。ケンカにならないのかなと思って見ていたら、子ども同士「○こずつだね」「○こあまるから、さきにたべたひとでじゃんけんしよう」と、ちゃんと会話して決めている。
これは教育の一環なのかと思ってお聞きすると、先生は「えーっ、ぜんぜん考えてなかった!」と笑っておっしゃる。ここでも先生と子どもたちの信頼関係を強く感じました。
取材で一日一緒にいましたが「○○○しなさい」と指示する先生方の声がほとんど聞こえてこない。聞こえるのは子ども同士の会話ばかり。小さな子が自分たちで考え、行動しているのを見て、すごく考えさせられました。ああ、あまり子どもにうるさく言っちゃいけないのかもしれないな、と。
日頃の家での自分の態度を反省させられましたね。うちでは皿を置くなり「ハイ、2こずつ!」と言い放っていますので(笑)。
───そんな現場の先生方のこと、尊敬してしまいますよね。毎日いろんなことが起こるはずなのに、冷静に一人一人の子どもに寄り添って明るく見守ってくれる。
『どんぐりむらのどんぐりえん』後半は、そうした先生方の活躍がわかる展開になっていますね。
当初はお昼寝やおやつのシーンを入れたり、新米で失敗ばかりの男のどんぐり先生が子どもたちに助けられながら成長するお話を入れようかなと、あれこれラフを描いたのですが、やめました。
どんぐりえんの一日の流れと、新米先生の成長物語を両立させるのは難しかったのです。それに「名脇役」であり「影の主役」である先生方のお仕事ぶりを第一に描きたかったので、後半は「おみせやさんまつり」を描くことに焦点を絞りました。

ラフの表紙

描かれなかった「お昼寝」と「おやつ」

4つぶのどんぐり先生案もありましたが・・・
残念ながらボツになってしまった新つぶ、みずならの「みずべえ」

登場どんぐりが多いので常に相関図を確認しながら描いたそう