表紙の、黄金のように輝く麦畑の中を行く一頭のクマとその肩にのるピエロの姿を見て、一瞬でぎゅっと心をつかまされる。まだ本も開いていないのに、彼らが明日に向っているのを感じさせる絵だ。
 この絵本のことを作家で子どもの本の専門店「クレヨンハウス」を主宰する落合恵子さんは、「誰かの心の奥深くにひっそりと生き続ける一冊」と、『明るい覚悟』という本に書いています。
 主人公はサーカス団にいるピエロのデュークと、クマのオレゴン。
 ある時、オレゴンがデュークにこう話しかけます。
 「ぼくを大きな森まで連れてっておくれ」
 彼らはピッツバーグという大きな街を出て、アメリカ横断の旅に出ます。
 クマとの旅も変わっていますが、デュークの姿も変わっています。
 何故なら、白い顔に赤い鼻というピエロの姿のままなんですから。
 麦畑の中を行く二人、雨の中を行く二人、トラックに乗せてもらう二人、貨車に乗り込む二人、そしてついに彼らはオレゴンのいっていた「大きな森」に着きます。
 その時、この絵本にこんな文がついています。
 「あの長いとらわれの日々を、すべてわすれられるのです」。
 サーカス団にいた日々はクマのオレゴンにとって、自由のないとらわれの時間だったのです。
 オレゴンは自分をとりもどすために森をめざす旅に出たのです。
 そして、ピエロのデュークもやっと気づくのです。
 ピエロの衣装を脱ぎ捨てることに。
 ラスト。雪の中を今度は自分のために一人旅立つデュークの後ろ姿。その後に、彼が捨てたピエロの赤い鼻がポツンと転がっています。