日頃、店頭に立ってさまざまなお客さまに直に接している書店員さんは「絵本選びのプロ」。そこで今回は、絵本ナビ編集長の磯崎が各有名書店の名物書店員さんにイチオシ絵本や絵本を選ぶ楽しみなどお話を伺いました。
●小さい頃に好きだった絵本
磯崎: 実はこんな風に集まることになったのは、絵本ナビと朝日新聞社との絵本特集の企画がきっかけです。読者の方から「絵本を子どもに読みたいと思っているけど、どんな絵本を選んでいいのかわからない」という悩みが寄せられると伺って、「絵本のプロのみなさんが今読んでほしいのずばりこれだ!」という内容の企画を実施しようということになりました。※朝日新聞2016年4月29日の紙面にも本日の様子が紹介されています。
兼森: それぞれにお会いしたことはあっても、こうしてみなさんが集うことはなかなかないですね。
磯崎: そうなんです。だから今回は、とても貴重な機会。お話を伺うことを楽しみにしています。まずは自己紹介を兼ねて、所属書店や絵本の販売歴、また小さい頃に好きだった絵本などを教えていただけますか?
まずは私から。絵本ナビに入社してちょうど9年目に突入します。以前はリブロで5年ほど児童書の担当をしていました。今は、インターネットだからこそできるやりとりで絵本との架け橋になれたらと思っています。小さい頃に好きだったのは『やっぱりおおかみ』。細かなストーリーなどは忘れてしまっていたのですが、大人になって再会したときに、なんとなく怖いと感じたことや独特の雰囲気をとてもよく覚えていて、絵本の魅力を再認識した一冊です。
跡邊: 紀伊國屋書店新宿南店の跡邊です。店は場所柄、ご家族で来る方が多いですね。読み聞かせのイベントなどを多くやっています。私が小さい頃に好きだったのは『たろうのおでかけ』。楽しく読み進めながら交通規則なども自然と理解していました。絵本のある仕事場は、昔から知っている本との再会が多くてとても幸せな気持ちになります。
茅野: 神保町の絵本専門店、ブックハウス神保町の茅野です。10年前、オープニングスタッフとして入りました。『まりーちゃんとひつじ』が小さい頃好きだった本。寝ても覚めてもそばにあった一冊です。動物の可愛らしさ、リズミカルな文……たくさんの魅力にあふれた絵本ですが、小さい私がのたうちまわるほど夢中になったその理由は今考えても分かりません(笑)。だからこそ、得難い一冊だと思っています。
- まりーちゃんとひつじ
- 作・絵:フランソワーズ
訳:与田 凖一 - 出版社:岩波書店
小さなマリーちゃんと羊のパタポンは,大の仲よし.パタポンが子羊をたくさん産んでくれたらと,マリーちゃんは楽しみに待っています.詩のようにリズミカルな原文の味わいを生かした,かわいい絵本.
兼森: 児童書担当になって17年目。今はサラリーマンの方が多い丸の内にある丸善丸の内本店の児童書担当をしています。絵本に興味がないような人にいかに絵本に興味を持っていただくか?が最近のテーマです。小さい頃に好きだったのは福音館書店から出ていた『大千世界のなかまたち』。残念ながら絶版になってしまっているのですが、今は『大千世界の生き物たち』というタイトルで架空社から出ています。作者のスズキコージさんの世界にどっぷりと浸れる一冊です。
- 大千世界の生き物たち
- 作・絵:スズキ コージ
- 出版社:架空社
目には見えないけれど、大千世界には多くの生き物たちがすんでいる。人間でもなく虫でもなく、知らんぷりしていると現われて、見ようとすると消えてしまう。そんな不思議な生き物たちを絵と文で紹介する楽しい本。
川向: 森をイメージしたエンターテイメント型書店、未来屋書店・幕張新都心店でコンシェルジュをしています川向です。書店での販売歴はまだ浅いですが、大学では児童文学を専攻していました。小さい頃に好きだったのは『おふろだいすき』。最後におかあさんのタオルでぎゅっと包まれるシーンを自分と重ねて読んでいました。
●2014年以降のおすすめの絵本
磯崎: 絵本は時代を超えて愛されていますが、今回は、せっかく新刊にも詳しい書店員さんが集まっていますし、今の時代にあった作品、次の時代まで受け継がれる作品も毎月、新たに生み出されているので、2014年以降の新しい絵本の中から、おすすめしたい本を紹介していただけますか?
まず始めは「ワクワクしたい!知的好奇心を育てる本」のジャンルから、兼森さんにお伺いしたいと思います。
兼森: 『動物の見ている世界』『くだものと木の実いっぱいの絵本』がおすすめです。どちらも、身近なものにワクワクがいっぱいつまっていることをそっと気づかせてくれます。
猫はとてもひどい近眼。牛と馬は真正面がよく見えない。鳥は人間よりもずっとよく見えていて、ヘビは動きを敏感に察知する目を持っている。最新の研究成果に基づき、動物や昆虫の目に世界はどのようにうつっているのかを同じ光景を描き分けることで表現した、世界ではじめての視覚絵本。動物の目をめくると、そこに見えている世界が広がる、驚きが一杯の仕掛。親子で楽しめ、科学の面白さを自然に体感できる、画期的な大判絵本です。
- くだものと木の実いっぱい絵本
- 作:ほりかわりまこ
監修:三輪 正幸 - 出版社:あすなろ書房
「170種の果物と木の実が、この1冊に! グレープフルーツの名前の由来は?/ビワの葉は、何に効く?/マンゴーの植え方/梅干の作り方 ネコの好きな果物の木は?など、果物選びのコツから育て方、語源まで、イラストで楽しく紹介!
磯崎: 「ばかばかしくも素晴らしい!お腹から笑える絵本」のジャンルからは、跡邊さんに選んでいただきました。
跡邊: 『だじゃれ日本一周』は、タイトルがそのまま本になったような一冊です。大人も子どもも大好きなだじゃれ。それが名所名産でたくさん出てきて、お勉強っぽくないのにお勉強ができてしまう作りです。
磯崎: 次は「どうなるの?ぼく・わたし・未来のこと」ジャンルの中から、川向さんお願いします
川向: 『ライフタイム』という絵本をおすすめします。この本は、とてもユニークな数字の絵本。生き物の一生と自分の人生をついつい置き換えてしまいます。子どもの「知りたい!」という気持ち、そして大人も「え?知らなかった」がたくさん詰まっていますよ。
一生のあいだにキツツキは木に30コの穴をあけ、イルカは100本の歯をつかって魚を食べる。キリンの体には200コのアミメもよう。タツノオトシゴがおなかでそだてる子どもは1000匹――生きものたちの一生と、そこにかくれる驚きの数をグラフィカルなイラストで紹介する科学絵本です。
磯崎: 「想像力は無限大!奇想天外な絵本の世界」のジャンルから私が選んだのは『ドングリ・ドングラ』です。何十、何百もの擬人化されたどんぐりが長い旅をするのですが、読んでいるうちにその世界に入っていき、自然と応援してしまいます。
「ドーン!グラグラグラ」。海の向こうの島が、赤い火をふきました。それをみたトチノミたろうは、ドングリたちによびかけます。「ぼくらのたびをはじめよう!」と。すると、あっちの森からもこっちの森からも、数えきれないほどのドングリがあつまり、歌いながら進みはじめます。おそいかかるリスをはねのけ、雪山や砂の丘を越え、海を渡って、ついに、島にたどりついたとき、ドングリたちは…。 『新幹線のたび』のコマヤスカンの、渾身の新作! 何百ものドングリたちの、山あり谷ありの大冒険スペクタクル! その一心不乱な姿は、個性豊かでどこかユーモラス。見ているだけで、あっという間に時間がたってしまうほど、すみずみまで描きこまれています。誰の心にも、希望と勇気がそっと芽を出すようなラストから、あなたは何を感じるでしょうか?
磯崎: 最後に「家族ってね…」のジャンルからは、茅野さんに選んでいただこうと思います。
茅野: 『おねえちゃんにあった夜』をおすすめしたいと思います。この本は大切な人を亡くした人の心にそっと寄り添うような静かなお話です。絵と文の引き合いが素晴らしく、絵本として見事です。決して同じような状況にある人への癒し、という一冊ではなく、死を営みの一部として捉え、いたずらに刺激しない形で考えさせてくれます。残された家族の寂寥感が丁寧に描かれている一冊です。
- おねえちゃんにあった夜
- 文:シェフ・アールツ
絵:マリット・テルンクヴィスト
訳:長山さき - 出版社:徳間書店
おねえちゃんはぼくが生まれる前に亡くなった。だからぼくは、おねえちゃんにあったことがない。でもある日、ぼくはふしぎな声をきいた。「ねえ、あたしのおとうと! 今晩いっしょに、自転車ででかけようよ」そして夜になると、ほんとうにおねえちゃんが現れて…? 子どもが「死」を受け入れていく過程を、詩的な文章と叙情的な絵で描き出し、ヨーロッパで大きな話題を呼んでいる絵本。オランダ・銀の石筆賞、ベルギー・ボッケンレーウ賞受賞作。