丘の上の木のじいさんのところに、行き場をなくした一羽の鳥がやってきて言います。
「ここで くらしちゃ だめかしら」
「ああ、どうぞ ごじゆうに。」
安心してぐっすり眠りについた鳥ですが、夜明けに聞こえてきたのは誰かの泣き声。
「べそべそ べそべそ」
そこにいたのは、いつも泣いてばかりいるべそべそむし。あいさつもそこそこにべそべそ、雨が降ってもお日さまがカンカン照りでもべそべそ。秋になるともっとべそべそするようになり、とうとう鳥が怒りだすと、べそべそむしは逃げだしてしまい……。
おとなりさんに意地悪をされて逃げてきた鳥でしたが、今度は泣いてばかりのべそべそむしに悩まされ。でも、べそべそむしと木のじいさんはうまい具合に暮らしていたのです。今、木のじいさんはどんな気持ちでいるのでしょう。べそべそむしの気持ちは? そして鳥の気持ちは? それぞれが考えた末に出した答えは。
誰もが強く生きていけるわけではないこの世界の中で、弱きものの居場所はいったいどこにあるのでしょう。自分の気持ちを曲げるわけでもなく、それでも相手に心を寄せていこうとする鳥の毅然とした表情や、泣かずにはいられないべそべそむし、全てを受け入れていく木のじいさんの姿がそれぞれ魅力的で印象に残るこの絵本。決して他人事ではいられない心に刺さるテーマも含んでいながら、クセのある「おとなりさん」にだって愛着がわいてくるような、優しく愛らしいお話なのです。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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