
半作じいさんの畑は、峠の一番高い場所にあるうえ、大きな岩がゴロゴロとしていて、村人たちから見放されています。しかしじいさんは文句ひとつ言うどころか笑顔で、ひとつの岩を10日もかけて掘り出し、ひとりで荒地を耕す毎日でした。 畑のそばには東から西へと続く道があり、いろいろな人が往来します。ある日、長吉少年と家族が、新しい畑を探すためにやむを得ず村を出ることに。その道すがら、朝早くからいきいきと畑の手入れをする半作じいさんの姿が目に入り……。
大正から昭和にかけて230を超える著作を残した、佐賀県神埼市出身の文学者・吉田絃二郎の童話絵本シリーズ。本作は、一見面倒な仕事に対して文句をこぼすことなく、ひたむきに謙虚に精を出す半作じいさんのおはなし。じいさんの手入れにより畑から「引っこして」もらった岩が、困難にくじけそうな村人や強欲な金貸しの人生に、ちょっとした奇跡をもたらします。お天道様の下、一生懸命に働くこと。夕方、お寺の鐘の音を聞いて手を合わせること。かわいいイタチが顔を見せること、お月様に照らされること。当然のようにめぐる日々の尊さに感謝したくなる一冊です。
(竹原雅子 絵本ナビライター)

半作じいさんの畑は、とうげのいちばん高いところにありました。大きな石が、ごろごろして、村の人たちはだれも見向きもしません。大きな岩を一つほり出すのに、十日もかかるのでした。畑のそばには東から西に道が続いていましたので、いろいろな人が畑のそばを歩いていきました。半作じいさんは、わき目もふらず、くわをふり上げて岩のようにかたい畑をたがやし続けました。
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