「今のうちに話しておきたいのです。今のうちに話しておかなければならないのです。」
北海道利尻島生まれ、96歳の現役の漁師・吉田欽哉さんには、伝えたい記憶があります。
1945年9月、終戦を迎えたはずの樺太に侵略してきたのは、ソ連軍。吉田さんをはじめとする現地の衛生兵500名は監視兵に銃を突きつけられながら、収容所へ歩かされました。世に言う、シベリア抑留です。
極寒の大地で強いられる過酷極まる肉体労働。食事は一日に硬い黒パン1枚と汁だけのスープのみで、カエルや虫すらご馳走に思えるほどの極限状態。出生地も知らない80人の兵士の遺体に「必ず迎えに来るから」と手を合わせ埋葬しました。捕虜となった吉田さんがやっとの思いで故郷の地を踏むことができたのは1949年8月、終戦から4年の月日が経っていたのです。
歴史の教科書に載っているできごと、渦中にいた人たちの日々とその苦しみを、私たちはどれだけ知っているでしょうか。疲労と飢えで思考も停止していくなか、満点の星空を見上げるシーンに、胸が張り裂けそうになります。翻弄される運命を呪っても変わらない現実。もし自分や大切な人たちに、同じことが起こったら??。
吉田さんは今、名も知らぬ仲間の遺骨を日本に連れて帰る活動を続けています。
本作の文章と絵を担当した作者の黒澤フクさんの父親もまた、吉田さんと同じ体験をした一人だそうです。
「ダモイ」とは、ロシア語で「家へ」「故郷へ」の意味。
大切な故郷へ帰る権利が奪われるようなことが、二度と起きてはならない。語り継いでいくために、読み続けなくてはならない一冊だと思います。
(竹原雅子 絵本ナビライター)
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