劇場の中に迷いこんできたのは、「自分のことがきらいだ、変わりたい」と考えている男。中に入るとすぐに幕が上がり、舞台美術の大道具、「カキワリ」だけで展開する舞台が始まった。第一幕は「月の裏側」、第二幕は「火のニワトリ」、第三幕は「シーラカンスが水から離れる日」、さらに第4幕、第5幕へと続いていく。
バラバラのようでいて、登場するものに共通しているのは、別の何かに変わろうとしていること。舞台を見ていた男は、やがて突きつけられるのだ。
「それでもあなたは、自分が自分でなくなることを望むのですね?」
男が見ているものは、現実なのか夢なのか。男は慌てて劇場から出ようと、裏口を見つけて飛び出した。後ろを振り向いた時、そこにあったのは……。
劇作家の小林賢太郎が新たな舞台として選んだのは、絵本。そして登場するのは、「カキワリ」だけ。舞台の上には、人の体温も息づかいもない。カキワリだけが、観客である私たちの方をじっと見ながら訴える。そこから、私たち読者は何を受け取ろうとしているのだろうか。変わりたいと思っていた自分は、結局どこに行ってしまうのだろうか。暗転の中、そのまま答えを探し続けていくのである。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
「自分のことがきらいだ。変わりたい」と考えている男が、まよいこんだ劇場。そこでは、舞台美術の大道具、「カキワリ」だけで展開するショーが行われていた。第一幕は月面、第二幕はニワトリ、第三幕はシーラカンス……。登場するものたちはバラバラ。しかし、別の何かに変わろうとしていることが共通していた。男が見たのは変身願望からの夢なのか、それとも……。劇作家の小林賢太郎が、絵と文を手掛けた絵本。
私はカキワリの劇場を読ませて頂いて、感動しました。これは発想がとても素晴らしいお話です。私は舞台美術の大道具であるカキワリという視点が大好きです。カキワりだけで展開する舞台はインパクトがあります。私はこの本を読みながら、ひじょうに奥深いと感じました。 (水口栄一さん 60代・その他の方 )
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