ネコのパイパーは、思春期まっただなか!
先生にはイタズラ、友だちとは殴り合いのケンカ。歯磨きもしないし、顔も洗わない。
そしてやっぱりお母さんには、イライラ、ムシャクシャ、もううんざり!
「ぼうや、ぼうやって いうなよ、たべるきが しなくなっちまう。
ついでに いうと パイちゃんてのも ごめんだ」
とくにイヤなのが、なにかにつけてキスをしてくること。
ある日友だちとはげしいケンカをして、ケガをしたパイパー。それを見たお母さんはオロオロしてしまって、思わずキスぜめ!
「ひとまえでキスするなよ。
キス。なんでも キス。
いやなんだ。きらいなんだ」
ついに爆発したパイパーの不満に、傷ついたお母さんも怒り出してしまって、大げんかに!
著者は『すてきな三にんぐみ』で知られるトミー・ウンゲラー。1974年に発売されたロングセラーの復刊です。
表紙でムスーっと腕を組んでいるのがかわらいらしいパイパーですが、これがトラブルメーカーどころじゃない、超問題児! クラスメートの服の中に工作ノリをぶちまけ、先生のカバンに生きた巨大グモを忍ばせ、自作のイタズラ道具で大暴れ。それでいて成績優秀だというのだから、わからないものです(家ではお母さんのことを「ママちゃん」と呼んでいるのがかわいいところ)。
いっぽうパイパーのお母さんも、やっぱりなかなか強烈なキャラクターです。
おはようのキス、おやすみなさいのキス、は序の口。あついからキス、さむいからキス、ベタベタのキスに、びしょびしょのキスまで!? なにかにつけてキス、キス、キス! これではパイパーがキスぎらいになるのも、しかたないかも?
なんだかみょうにブラックな味わいも、この作品のみどころ。
ママの作るつぶしネズミ≠ネる朝食に、レストランの丸ごとカラス料理。ケンカをしたパイパーが保健室でケガをチクチク縫ってもらえば、ぬいぐるみみたいな縫い目がデカデカと耳に……。それがモノクロのイラストと相まって、かわいいけれどときどきギョッとする、なんともクセになる世界観となっています。
親ばなれしたい不良息子と、子ばなれしたくない過保護ママの衝突。怒鳴りあって、傷つけあって、さいごにはふたりともしょんぼりしてしまったこのケンカは、どんな顛末を迎えることになるのでしょう。
すこしブラックな世界観にのせて、親ばなれ、子ばなれを描いた、心温まる一冊です。
(堀井拓馬 小説家)
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