「ぼくは、ときどき ういている。」
ちょっとだけね。20センチか30センチくらい。教室で外の飛行機を見ている時や、ちがうことを考えている時、何かに夢中になっている時に浮きやすいみたい。まわりからは、ただぼんやりしているように見えるらしくて、よくしかられたり、わらわれたりする。でも、思いがけないものが見えて、得することだってあるんだ。今日だってね……。
『すてきなひとりぼっち』に登場した一平くんの、新しい出会いを描いたこのお話。「ういているって、どういうことかな」、そう思いながら読んでいくうちに、一平くんは同じように浮かんでいる山田さんを見つけたり、浮かんだままスキップする方法をあみだしたり、あるいは浮いているのに沈んでいる気持ちになったり、学校へ通う毎日の中で様々な経験をしていきます。
新学期がはじまり、学校で過ごす子どもたちの心は、風船みたいにふわふわと揺れ動いているものなのかもしれません。一平くんみたいにしょっちゅう浮いている子もいれば、わざと浮くことができる子や、自覚なんてないけれど浮いている子もいるのでしょう。「ういてる」って、いいこと? 良くないこと? はっきりと答えはわからないけれど、一平くんをみていると、不思議とじわじわ勇気がわいてくるのです。
「わたしも、よく うきます。」とおっしゃっているのは、いつも子どもたちの心の奥底にある、繊細で大切にしている部分に優しくスポットをあててくれる作者のなかがわちひろさん。心もとなくて、さびしくて。でもなぜかちょっぴり気持ちいい。そんな感覚を、大人も一緒に思い出してみてくださいね。
(磯崎園子 絵本ナビ編集長)
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