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出版社エディターズブログ

2022.03.14

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学校を離れ、少年が見出した「これから」とは? 人間関係の苦しさと優しさを描く『びわ色のドッジボール』のはなし (文研出版)

2021年11月に発刊された『びわ色のドッジボール』は小学5年生の男の子(翼)が主人公。彼は町内と学校の球技大会で行うドッジボールの試合で「ライバルの聖也に勝つ!」と闘志を燃やしています。でも練習でボールばかりもつのでクラスの子たちから嫌われ始め、友人に嫌なことをされ、喧嘩になってしまいます。

翼も最初こそ強気な態度でしたが、学校に行こうとするとお腹が痛くなり…。でも心配する母親にはうまく打ち明けられません。

まいちゃんになら話せるかもしれない。彼が会いに行ったのは、フリースクールに通う高校生の女の子でした。

この人にインタビューしました

もり なつこ

もり なつこ (モリ ナツコ)

大阪府に生まれる。鹿児島県在住。京都教育大学卒。日本児童文芸家協会会員。かごしま児童文学「あしべ」同人に所属。他の作品に『風よ!カナの島へ』(国土社)、『おじいちゃんとカッパ石』(マイナビ出版)がある。

――主人公の翼君について教えてください!

スポーツ大好きで、ドッジボールに関しては自信満々な男の子。一生懸命練習して上手になった、とても努力家でがんばりやさんです。でも「自分以外は、下手」「自分は悪くない」と思ってしまうのが玉に瑕ですね。もう少し謙虚な気持ちがあれば、リーダー的存在になれるのにな、と思います。

そんな翼ですが、お父さん・お母さんをはじめ、周りの大人たちが優しく見守ってくれているのでとても恵まれた環境で育っています。

イラストは丹地陽子さん。

児童書「あの花火は消えない」(偕成社)の表紙を見たとき、なんて素敵な絵なんだろうと思いました。いつか自分が本が出せるときがきたら、描いていただきたいと思っていたイラストレーターさんでした。その願いが叶いました!

表紙ラフがあがってきた時、びわの木の存在感、そしてまいちゃんと翼に鳥肌がたちました。わたしの頭の中でぼんやりしていたものが鮮やかに色づけられた感じです。

夕日にかざすびわのイラスト、大好きです!

by もり なつこ

――『びわ色のドッジボール』の舞台は鹿児島県。翼が住んでいるのは鹿児島市です。町内のドッジボール大会の日、翼は家族で垂水に向かいます。道中で桜島も登場します。

 

出典:3kaku-Kの鹿児島県その1の白地図データをもとに作成。

「びわ」はもちろん、「桜島」や「特攻隊の歴史」など、様々な地元の話題が出てきますが、執筆にあたって意識していたことはありますか?

今までに鹿児島県内あちこちに住んできました。甑島(こしきしま)、出水市(いずみし)、奄美大島(あまみおおしま)、霧島市(きりしまし)、鹿児島市(かごしまし)、そして鹿屋市(かのやし)。桜島をかこんだ独特な風景、離島の美しい海や山、興味深い歴史、美味しい食べ物等々、どれもが魅力的なんです。なので、物語を書くときには、どうしても鹿児島の魅力を入れたくなります。

 特攻に関しては、以前、知覧平和記念館にも鹿屋の施設にも足を運んだことがありました。いつかそのことも物語の中に入れたいと思っていたのですが、なかなか難しい事でした。今回、ふるばあとふるじいの人生の中で、切り離せない事だったので、書けたことはよかったです。

 でも、作品の中に色々なことを詰め込み過ぎているんじゃないかと思うこともあります。読者のみなさまはどう感じられているでしょうか。ちょっと心配です。

 

撮影:もり なつこ(奥に見える火山が桜島です)
撮影:もり なつこ(道の駅たるみずに並ぶ箱詰めされたびわ)

――この物語のもう一人のキーパーソンはまいちゃん!まいちゃんはどんな子でしょうか?

まいちゃんは、しっかりしていて、友達思いで、でしゃばるような性格でもないので、それなりの学校生活を楽しめていた子です。でもグループの友だち関係で「優しさと真面目さ」ゆえに、しきっていた子に意見してしまい、そこから色々なことが思うようにいかなくなってしまいました。そのときの辛さを考えると、胸が痛くなります。けれども、まいちゃんは、担任の先生のすすめや、フリースクールの人たちと出会うことで、新しい道をみつけていくことができました。

 翼にとっては「不登校の先輩」でもあります。とても頼りになるいとこだと思います。

垂水に来ても自分の気持ちに向き合えない翼。そんな彼に話をしに来てくれたのはまいちゃんでした。でもまいちゃんが話す「不登校になったわけ」は翼にとって…。

――「味方になってくれると期待したまいちゃんは、自分と反対の立場にいて、傷つけられた経験がある。」この展開は翼にとってしんどいものですよね。

そうですよね。自分が頼りにしていたまいちゃんを傷つけたのは、ある意味、翼本人だった。まさかの展開だったと思います。翼にとって、他人の気持ちを考える大きなきっかけになったと思います。

とてもしんどかったけれど、そのおかげで翼がずっとつけていた「自分は悪くない」の鎧を外すことができました。大きな成長につながったのではないでしょうか。

 

――翼が見出した「これから」は読んでいてとても気持ちが軽くなりました。このラストは最初から決まっていたのでしょうか?

ラストは、悩みました。翼が反省して学校に戻ったら、みんなが笑顔で「おかえり!」と迎えてくれるような展開もありだったかもしれません。でも実際は、本人が変わっただけでは周りはかわらないような気がするし、学校に戻ったところで、居心地の悪さはもしかしたら、前よりも増してしまうかもしれないとも思えました。

翼も自分を変えるように努力した、でも、周りは変わらないかもしれない。

悲観的にならず、次のステップを見つけられるにはどうしたらいいんだろう。

正解でなくても、いろんな可能性をもたせたラスト……。

悩んでいましたが、物語を進めているうちに、まいちゃんやふるばあたちが教えてくれた気がします。そして、最終的にこのラストは、翼自身がみつけてくれたように思います。

――続々と感想が集まってくる中、印象的だったものはありますか?

地元を舞台にした作品ということで鹿児島のテレビ局でこの本をとりあげていただきました。そのとき、地元の小学生が『「びわ色」という言葉を使ってみたい』と言ってくれたことはとても印象的でした。「前向きな気持ちになれた」「今まで小説が苦手だったけどこの本は読みやすかった」という感想もうれしかったです。

知り合いのフリースクールの主催者さまからは「心温まる物語であると同時に、多様な生き方の選択について、私たち周囲の大人も考えることのできるいい機会となる物語でもありました」とコメントいただけたのも、とてもうれしかったです。

 

撮影:もりなつこ

もり なつこさん、ありがとうございました!『びわ色のドッジボール』は、子どもにはもちろん、大人にも読んでもらいたい作品です。是非お手にとってみてください。(文研出版 編集部)

文研出版HPはこちら(ためし読みができます)

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