絵本が大好きな女の子とパパの、幸せであたたかいお話。
インタビュー
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2022.12.23
2022年11月28日に発売された、「見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本」シリーズ『茶壺』と『狐忠信』は、歌舞伎俳優の中村壱太郎(なかむら・かずたろう)さんが「子どもたちに歌舞伎の楽しさを知ってもらえたら」という想いで手がけた、初の著書です。
壱太郎さんが歌舞伎の絵本を作ろうと思ったきっかけや、絵を描いた小川かなこさん(『茶壺』絵)、くまあやこさん(『狐忠信』絵)とどんな話をしたのか、また小川さんとくまさんが絵作りでこだわったことなどを、インタビューでお伺いしました。
この人にインタビューしました
歌舞伎俳優。上方歌舞伎を中心に女方として歌舞伎の舞台に立つかたわら、ラジオやテレビなどにも活動の場を広げている。また、「春虹」の名で脚本執筆、演出も手がける。2020〜21年放送のNHK Eテレ「にっぽんの芸能」では、監督を務め、本作の原作ともなった「紙芝居歌舞伎」が放送された。絵本の文章を手がけるのは本シリーズが初めてとなる。
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イラストレーター。絵本作家。第7回TIS公募大賞受賞など受賞歴多数。絵本に『ペーとぼく』(やづきみちこ 文/くもん出版)、著書に『パンダのたこやきやさん』『パンダのソフトクリームやさん』『うさぎさんのたんじょうび』(こどものとも年少版、福音館書店)。ガラス絵の手法で描かれた絵は鮮やかな色づかいが特徴的。
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イラストレーター・版画家。愛犬ブラウニーとノアを描いたのがきっかけで、絵の世界に。絵本に 『マンゴーの絵本』(農文協)、『きみといっしょに』(タリーズコーヒージャパン)、挿絵に「ねこ町いぬ村」シリーズ(小手鞠るい 作/講談社)、「ソラタとヒナタ」シリーズ(かんのゆうこ 作/講談社)、NHK Eテレ「おはなしのくに」にて『ともだちは海のにおい』(工藤直子 作)など多数。
出版社からの内容紹介
中村壱太郎さんが文を、小川かなこさんが絵を、そして尾上右近さんが朗読を担当された豪華歌舞伎絵本!
歌舞伎俳優の中村壱太郎さんが子どもたちに向けてわかりやすく書きなおしたお話に、人気イラストレーター小川かなこさんが歌舞伎の美しさを表現したイラストをつけました。アプリからは歌舞伎俳優尾上右近さんの読み聞かせも聞くことができ、文と絵、音の3つの面白さを楽しめる内容になっています。
歌舞伎の解説・豆知識も収録しています。
『茶壺』は能楽をもとにしてつくられたコメディー舞踊劇。どろぼうの熊鷹とまぬけな田舎者のユーモラスなやりとりが魅力のおはなしです。
出版社からの内容紹介
『狐忠信』は歌舞伎の三大名作のひとつ『義経千本桜』をもとにしたおはなしです。兄・頼朝に追われた源義経は、恋人の静に佐藤忠信というおともをつけ、ふたりはべつべつに逃げていくこととなります。忠信の奮闘もあり、数年後、義経と静はぶじに再会をはたしますが、旅の途中、忠信にふしぎなことがあったといいます。そのふしぎなこととは……。
───「見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本」シリーズの絵本の企画が生まれたきっかけはなんでしたか?
壱太郎:2020年のコロナ流行初期に、歌舞伎の舞台がまったく公演できなくなった時期がありました。その中で、なにかできることはないかと考え、紙芝居で歌舞伎を楽しもうという企画が生まれました。それが、2020〜21年にNHK Eテレ「にっぽんの芸能」で放送された「紙芝居歌舞伎」です。僕はそこで監督を務めさせていただき、歌舞伎に関わる関係各所のみなさまといっしょに、どんな作品にするか、構成をどうしていくかを探りながら、1年間で4作品を作りました。その時から「この企画が発展して、次のことができたらいいね」と話しており、絵本を出版することに繋がりましたので、足かけ2年間くらいかけてようやく出版が実現できて、本当にうれしいです。
小川:「紙芝居歌舞伎」は、再放送も含めてたくさんの方が観てくださって、『茶壺』を初めて観たという人もすごくおもしろかったという声を聞いていました。
くま:「絵本になったらいいね」というのは、「紙芝居歌舞伎」の放送時から言っていたので、私も実現して本当にうれしいです。
───『茶壺』の絵を描いた小川あやこさんと、『狐忠信』の絵を描いたくまあやこさんは、「紙芝居歌舞伎」からのご参加ですが、参加したきっかけはなんでしたか。
くま:私は昔、TIS(東京イラストレーターズ・ソサエティ)で歌舞伎の絵をテーマにした展覧会に、大好きな『狐忠信』の絵を描いて出だしことがあったのです。それを壱太郎さんが見て、「紙芝居歌舞伎」でお声がけしていただきました。その「紙芝居歌舞伎」から絵本になって、お子さまにも楽しんでいただける形になってうれしいですし、夢が叶ったような気持ちでいます。
壱太郎:ちょうど絵の描き手さんを探しているときに、くまさんや小川さんが出品なさっていた、歌舞伎の絵をテーマにした展覧会の話を聞いたんです。くまさんは『四の切』という、『狐忠信』と同じ『義経千本桜』のワンシーンを題材にした作品を描いていらっしゃったので、お声がけしました。小川さんの絵を見て、『茶壺』のテイストに合うのではと思い、なんのコネクションもないままお願いをさせていただきましたが、おふたりに快く引き受けていただき、本当にありがたかったです。
小川:私はTISの展覧会でコクーン歌舞伎の『夏祭浪花鑑』を描きました。そのとき初めて歌舞伎を見て、「なんておもしろいんだろう」と思ったことがきっかけで、歌舞伎座に足を運ぶようになりました。この「見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本」シリーズも、私と同じようになにかのきっかけで子どもたちが見ておもしろいと思い、歌舞伎の舞台を観に行くようになってくれるといいなと思いました。
紙芝居絵本のときも、小学生や幼児の子どもたちといっしょに観ましたが、『茶壺』で大笑いしてくれたんですね。絵本でも笑ってもらえるとうれしいです。
───壱太郎さんにお伺いします。歌舞伎の演目はたくさんありますが、子どもたちに向けてということで、どんな基準で作品を選びましたか?
壱太郎:小川さんのおはなしに出て来た『夏祭浪花鑑』のように、歌舞伎には本当に数多の有名作品があります。最初に『茶壺』を選んだのは、小川さんがおっしゃっていたように「おもしろい」ことと、「子どもにも笑ってもらえるおはなし」というポイントがありました。
二作目に『狐忠信』を選んだのは、動物が登場することです。くまさんの本当にかわいらしい絵のテイストが、動物と子どもの心をつないでくれるのではという想いがありました。また『狐忠信』には「親子の情愛」も入っていますので、親子で読み聞かせするのにもいいなと思って選びました。
───絵は新たに描き下ろしたそうですが、紙芝居から絵本にする際に工夫したところはなんですか?
小川:「紙芝居歌舞伎」の場合は、酔っ払ったいなか者が登場する音楽や驚いたときの効果音など、音に頼る部分も大きかったので、音なしでその雰囲気をどう伝え、表現するのがよいかなどを企画会議の中で話し合いました。熊鷹が登場するときにタカが飛んでいて、いなか者にはスズメをとまらせておこうとか、熊鷹の衣裳に唐草模様を入れるというアイデアも、会議の中で出て来たものです。
───ほかに、どんなことを話し合いましたか?
小川:くもん出版の編集者さんと、絵本のデザインをしてくださったデザイナーの佐藤亜沙美さんからは、「風景を描きこんで、絵に奥行きを持たせたい」というリクエストがありました。そこで、浜松にお茶を買いに行く春の雰囲気を出せたらいいなと思って描きました。江戸時代の旅でいくら人通りの少ない街道であっても、真ん中で寝ていると邪魔だなという場所に見えるように描きました。
───くまさんは『狐忠信』の絵を描くときに、どんな工夫しましたか?
くま:小川さんもおっしゃっていましたが、「紙芝居歌舞伎」では映像の動きもあったので、動かない絵でどう表現するかというところです。実際に歌舞伎舞台の『狐忠信』を見て、仕草や言葉の変化、鼓を打ったときにキツネのようなしゃべり方になるところなどは、キツネっぽくて楽しい動きになったらと思ってこだわって描きました。背景は、舞台の楽しさを伝えたいという想いがあり、歌舞伎の舞台をそのまま描きつつ、舞台にはない空想のシーンは、自分なりに少し遊んでみるという変化をつけました。
───絵のお願いをするときに、壱太郎さんからなにかアドバイスを送りましたか?
壱太郎:忠実に歌舞伎のシーンを再現するのではなく、おふたりが作品に触れて感じた世界観で描いてくださいとお伝えしました。また『狐忠信』の静御前は、歌舞伎役者で言う女形ですので、参考までに足の動きはこうなっていますとお伝えしましたが、その通りでなくとも大丈夫ですと。
僕自身も、絵本のおはなしとして書くときに、元々の歌舞伎を作り替えて作っているんです。歌舞伎はどうしても難しい言葉が出てくるので、やさしい言葉に置き換えたり、登場人物を絞ったり、少し話の内容をアレンジしたりして、よりわかりやすくしています。そういう意味で、絵を描いているおふたりの遊び心も加わった新しい作品のように思っていただけるとうれしいですね。
───文字に大小があったり、漫画のように文字が躍っていたりしているのを見ると、歌舞伎特有の言い回しや音程が伝わってくる文字の置き方だなと感じました。そのアイデアも、同じように企画会議で出たものですか?
小川:それは、デザイナーの佐藤さんのアイデアだと思います。
くま:動きがあって、楽しいですよね。
壱太郎:普通の絵本を読むときも、登場人物のセリフのときは、人がしゃべっているように読むこともありますよね。それをより歌舞伎っぽく読んでもらえるようにと、文字の置き方を工夫していただいたんです。ただ歌舞伎の舞台を知らない方のために、『茶壺』は尾上右近くん、『狐忠信』は尾上松也さんに朗読していただいた音声を、音声アプリ「きくもん」で聞けるようにしていただいて、歌舞伎役者がこの絵本を読むとこうやって聞こえるんだ、こうやって読むと絵本がより楽しめるんだということを知っていただけるようにしました。
───朗読音声の聞きどころを教えてください。
壱太郎:おふたりが快く朗読を引き受けてくれてうれしかったですし、収録もほぼ一発OKでしたので、歌舞伎以外の場で様々なお仕事をされているおふたりの役者としてのすごさ、こちらの意を汲みとる速さに感動しました。聞きどころはなんといっても演じ分け、語り口調になるところです。音楽は使われていませんが、耳心地の良い流れの中で、声だけでもひとつの作品として楽しめるものになっていると思います。
───これから絵本を読み聞かせして楽しむという方に向けて、メッセージをお願いします。
くま:私は『狐信忠』の絵を描くときに、子ギツネの気持ちになって、子ギツネを演じるつもりで絵を描きました。みなさんも絵本を読みながら、好きなものになりきって読んで楽しんで欲しいです。昔の言葉づかいなので最初は聞き慣れないかもしれませんが、朗読音声を繰り返し聞いているうちに耳に馴じんで聞き慣れて、劇のように楽しめると思います。ぜひいっぱい聞いて、読んでください。
小川:私は朗読の収録現場に立ち会ったのですが、壱太郎さんの「こんな風に読んで欲しい」という指示と、1、2回でOKがでるほど、おふたりの読みっぷりが本当にすばらしかったです。親御さんだけでなく、おじいちゃんやおばあちゃん、さらにお子さんが読んでくれるといっそうおもしろくなると思いますので、ぜひアプリをダウンロードして聞いてみてください。
壱太郎:おふたりがおっしゃる通り、親子で読み聞かせたり、セリフを分けて家族やお友だちと読んで遊んだりしてもらえるとうれしいですね。そして最終的には、子どもたちが歌舞伎の舞台を観に来てくれるところにまで繋がるのが本望です。
───ありがとうございました。
「見て 聞いて まねして 楽しむ 歌舞伎絵本」シリーズは、今後も2作品のリリースを予定しており、シリーズ全4冊となる予定です。お子さんだけでなく、歌舞伎に触れたことのないすべての方に向けた読みやすく楽しい入門書ですので、お正月など日本の伝統文化に触れる機会にぜひ、読んでみてください。
取材・文/中村美奈子(絵本ナビ)
たくさんの人に愛されている絵本ですが、僕もそのひとり。絵本のページをめくるのが楽しかった思い出があります。
てんぐの世界に行ったときの、見開きの絵の開放感が大好きです。
飼っていた犬を見送った経験があるので、すごく思い入れが強くて心に残っています。