絵本が大好きな女の子とパパの、幸せであたたかいお話。
絵本紹介
2023.05.29
みどころ
ある日、茨海(ばらうみ)という野原に出かけた「私」は、お昼どきに喉が乾いて水を探しはじめます。すると……小川のようなものは見つからない代わりに、遠くの方から学校のベルの音や、子どもらのがやがや言う声が聞こえてきたのです。
面白そうに思えて、そちらの方角へ走って行ったところ、草を結んだ罠のようなものに足を引っ掛けてどたっと倒れてしまいます。立ち上がって走りはじめたら、また、ばったり。するとどっという笑い声と囃し立てる声がして、見ると、チョッキや半ズボンを着たたくさんの狐の子らがこっちを見ながら笑っているのでした……。
宮沢賢治の文に、現代絵本作家が絵を描く「ミキハウスの宮沢賢治の絵本」シリーズ。本書は『おふろやさん』(福音館書店)や『がたごとがたごと』(文・内田麟太郎、童心社)などで人気の西村繁男さんが絵を描いた作品です。
迷い込んでしまった狐小学校の校内や、狩猟術・食品科学などの授業風景に、どことなくユーモラスな空気が漂います。「私」は校長室でミルクティーをいただき、罠をしかけた狐の子が呼ばれるのですが……。そのうつむく表情を見つめていると、本当に秘密の小学校をこっそりのぞいているような気持ちになります。
“狐小学校があるといってもそれはみんな私の頭の中にあったと云うので決して嘘ではないのです。嘘ではない証拠にはちゃんと私がそれを云っているのです。もしみなさんがこれを聞いてその通り考えれば狐小学校はまたあなたにもあるのです”
授業中、空に白い雲が湧き、風は吹いてきて、葉の壁がところどころ揺れる……。そんな狐小学校のことを、読んだ子はきっとリアルに心に思い描くことでしょう。
文字数が多いですが、西村繁男さんの絵は優しく愉快で、しみじみと味わい深い絵本です。小学校中学年以上のひとり読み、または親子で一緒に読むのもおすすめです。
この書籍を作った人
1896年岩手県花巻市に生まれる。盛岡高等農林学校農芸化学科卒業。十代の頃から短歌を書き始め、その後、農業研究家、農村指導者として活動しつつ文芸の道を志ざし、詩・童話へとその領域を広げながら創作を続けた。生前に刊行された詩集に『春と修羅』、童話集『注文の多い料理店』がある。彼の作品の殆どは没後に高く評価され多数の作品が刊行された。また、何度も全集が刊行された。1933年に37歳で病没。主な作品に『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』『ポラーノの広場』『注文の多い料理店』『どんぐりと山猫』『よだかの星』『雪渡り』『やまなし』『セロひきのゴーシュ』他多数。
この書籍を作った人
1947年高知県高知市生まれ。中央大学商学部、セツモードセミナー卒業。主な作品に『おふろやさん』『やこうれっしゃ』『みんなであそぼう』『絵で見る日本の歴史』<絵本にっぽん大賞>『ぼくらの地図旅行』<絵本にっぽん大賞>『絵で読む広島の原爆』<産経児童出版文化賞>(福音館書店刊)、『がたごとがたごと』『にちよういち』<児童福祉文化賞>『はらっぱ』(童心社刊)、『ぶらぶらばあさん』シリーズ(小学館刊)、『トゲトゲぼうや』(金の星社刊)、『そんなことってある?』(サンリード刊)などの作品がある。
狐の世界
宮沢賢治さんの作品に、西村繁男さんが軽快な絵を添えています。
作者本人と思われる「私」が迷い込んだのは、狐の小学校。
一風変わったオープンスペースの小学校の授業の様子が、
現実とファンタジーのはざまで愉快に立ち昇ります。
そもそも、「茨海」という地名が、その入り口。
作者らしい導入です。
地質にも詳しかった作者の世界観が伺えます。
生徒たちのやんちゃぶりも、教育者だった作者の温かい目線がで昇華されています。
授業内容も意外に高度で、道徳にも通じる内容にドキッとさせられます。
単なるファンタジーで収まらない、独特の余韻が残ります。
意外に奥が深い作品です。
(レイラさん)
また良い作品に出会えた
少し影のある作品が多い印象の宮沢賢治氏と、明るい作品を手がけている印象の西村繁男さんの組み合わせが、最初は意外に思えましたが、読んでみるととても合っていて思わず唸ってしまいました。ミキハウスの宮沢賢治絵本シリーズは、名著が多いですね。
(miki222さん)
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