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インタビュー

2024.02.21

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さこももみさんの絵本『さよなら ようちえん』我が子が通った実在の幼稚園をモデルに<from 好書好日>

もうすぐ卒園シーズン。この季節になると、毎年のように増刷がかかる絵本があります。年長組の子どもたちの卒園までの日々を描いた『さよなら ようちえん』(講談社)です。朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」より、作者のさこももみさんのインタビューを紹介します。(インタビュー:加治佐志津、写真:家老芳美)

この書籍を作った人

さこ ももみ

さこ ももみ

1961年東京都生まれ。東京学芸大学美術教育学科卒業。小学校教員を経て、イラストレーター、絵本作家になる。絵本、雑誌、書籍、企業のWEB等で幅広く活躍している。主な作品に「こんなときってなんていう?」シリーズ(ひかりのくに)、「イーノとダイジョブ」シリーズ、『まんま』『ねんね』(講談社)、『へんしん!ぱんやさん』(教育画劇)、『トトとライヨ じてんしゃのれた!』(アリス館)、『ぼくはひなのおにいちゃん』(文化出版局)、「ペコルちゃん」シリーズ(くもん出版)など多数。日本児童出版美術家連盟会員。広島県在住。

多様な子どもたちがいる幼稚園

――表紙には手をつないで輪になって空を見上げる、笑顔の子どもたち。モデルとなったのは、さこさんの子どもたちがかつて通った、広島市内の幼稚園だそうですね。

卒園がテーマの絵本を作ることになって真っ先に思い浮かべたのが、息子と娘が通っていた幼稚園でした。当時、息子と娘はすでに大学生と高校生でしたが、二人とも幼稚園のことをとてもよく覚えていて、卒園して10年以上経つというのに、時折ふらりと遊びに行くくらい、幼稚園のことが大好きでした。それは、幼稚園の先生方がとても愛情深くて、子どもたちのありのままを受けとめてくれていたからだと思います。

『さよなら ようちえん』は主人公のななこちゃんだけでなく、個性豊かなお友達を紹介していくような形で、年長さんの1年を描きました。冒頭に出てくる「お弁当がそばにあると、お母さんが一緒にいるみたいで、ちっともさびしくありません」というエピソードは、うちの娘が入園当初、実際に言ったことをもとにしています。全然泣かない子だったので、私の方がさびしくなって「さびしくないの?」と聞いたら、そう言われたんですよ。毎日お弁当を作るのは大変でしたけど、そんな風に思っているならがんばらなきゃ、と感じたのを覚えています。

七夕祭りのシーンに出てくる、お話があまり上手でない男の子は、うちの子の同級生の障害を持ったお友達のつもりで描きました。その幼稚園は、障害のある子も普通に受け入れていたんです。そういう子を真ん中に据えて保育をすれば大丈夫、という園長先生の考えで、実際子どもたちも自然と仲良くしていました。他にも、プールが苦手な子がいたり、虫に詳しい子がいたり、引っ越してきたばかりのおとなしい子がいたりと、いろんなタイプの子を登場させています。

『さよなら ようちえん』扉ラフ。幼稚園の外観は、モデルとなった幼稚園をほぼそのまま描いたという

――積み木で町を作った男の子たちのエピソードも印象的です。もっと大きな町にしたいと思った男の子が「先生、このままにしておいてもいい?」と聞くと、先生は「みんなはどう思う?」と尋ねます。そうやって、子どもたちの賛同を得て、積み木の町は片付けず続行可能となります。

「今日はもうおしまい」と片付けたりはせず、どうしたいか子どもたちに考えさせるんです。作品展で作るものも、これを作りなさいと先生が指示するのではなく、何を作りたいかから考えさせる幼稚園でした。意見がまとまるまでに時間はかかるけれど、好きな材料で、自分の思うままに作ることができるので、うちの子たちもとても楽しかったようです。先生方は子どもたちの自発性を大事にしながら、いつもあたたかく見守ってくれていました。

絵本のイロハは幼稚園で教わった

――子どもたちが幼稚園に通っていた頃、さこさんは絵本作家としてはまだデビューしていません。絵本のイロハを教わったのも、幼稚園だったとか。

息子が入園してすぐの保護者会で、先生が『おおきなかぶ』(福音館書店)を読み聞かせしてくださったんです。先生は読み終えると、「お母さん方、私が今せっかく読んで差し上げたのに、字を見ていませんでしたか」と問いかけました。思い返してみたら、本当だ、絵よりも字ばかりを追っていた、と気づいて。

先生のお話では、『おおきなかぶ』を子どもたちに読み聞かせすると、ねずみが最後尾に加わって「うんとこしょ どっこいしょ」と引っ張るラストで、子どもたちは、かぶが少し上がっていることに気づくのだそうです。そして、それは字を知らないからだ、と。字がまだ読めないから、絵だけに注目していられるんです。「だから、字を知らない時間というのは、長ければ長いほどいいんですよ」と先生はおっしゃっていました。なるほど、絵本ってそういうものなんだ、とその幼稚園で教わりました。

絵本の仕事を始めて15年ほど経ちますが、今も私は絵本を作るとき、ラフの段階で編集者さんとお互いに読み合うようにしているんです。読んでもらっているときは字を見ずに、絵だけを隅々までじっくり見ます。お話を耳で聞きながら、子どもの気持ちになって絵を見る、というのは、絵本作りの中では結構大事なことだという気がしますね。読んでもらって初めて発見できることもいろいろとありますから。

――『さよなら ようちえん』の制作にあたっては、取材のために久しぶりに幼稚園を訪れ、さこさんの子どもたちが通っていた頃の記憶と、改めて取材で得たエピソードを織り交ぜて作り上げていったそうですね。

うちの子たちが卒園してからしばらく経っていたし、幼稚園児ってどういう感じだったかな、というのもあったので、まずは日常の様子を取材させてもらいました。参観日に行くといつもの姿が見られないので、こっそり見させてくださいとお願いして、子どもたちには気づかれないような場所でスケッチさせてもらったんです。子どもたちの仕草や動きがかわいくて、椅子にちょこんと座っている姿とか、泣いてしまった子とか、いろいろとスケッチブックに描き留めました。

『さよなら ようちえん』の取材スケッチとラフ。隅々まで幾度となく推敲を重ねて作り上げた

卒園式には、編集者さんと二人で取材に伺ったんですが、保護者さんよりも私たちの方が泣いてしまって……(笑)。よその子の卒園式なのに、思わずわが子を見守る母親の気分になってしまったんでしょうね。

卒園式のあとは、子どもたちが先生方と言葉を交わしてから帰ります。その時間、親は園庭で待っていて、教室の中は先生と子どもたちだけ。取材のときは、その様子も見させていただきました。そのときの園長先生のメッセージがとてもあたたかくて……。他の先生は「みんな幼稚園でこんなに楽しく過ごせたんだから、小学校に行っても大丈夫だよ」というようなメッセージを送るんですが、園長先生だけが「私は心配です」っておっしゃるんです。「あなたたちは弱虫だし、泣き虫だし、甘えんぼだし、怒りんぼだし……でも、先生はそんなみんなの全部が大好きだから、これからも恥ずかしがらずに幼稚園に遊びに来てね」と。子どもたち一人ひとりを理解し、愛してくださった先生方に、改めて感謝の気持ちが湧きました。この幼稚園での経験がなければ、『さよなら ようちえん』は描けなかったと思います。

「好書好日」で読む

  • さよなら ようちえん

    出版社からの内容紹介

    卒園、おめでとう! 幼稚園を巣立つ子どもたちを描きます。
    卒園を迎える幼稚園の子どもたちを、1人1人の個性を大切に、だれもが主役になれるんだよ、
    というメッセージをこめて描きます。お名前を書き入れて、卒園の記念に贈りたい絵本です。

この書籍を作った人

さこ ももみ

さこ ももみ

1961年東京都生まれ。東京学芸大学美術教育学科卒業。小学校教員を経て、イラストレーター、絵本作家になる。絵本、雑誌、書籍、企業のWEB等で幅広く活躍している。主な作品に「こんなときってなんていう?」シリーズ(ひかりのくに)、「イーノとダイジョブ」シリーズ、『まんま』『ねんね』(講談社)、『へんしん!ぱんやさん』(教育画劇)、『トトとライヨ じてんしゃのれた!』(アリス館)、『ぼくはひなのおにいちゃん』(文化出版局)、「ペコルちゃん」シリーズ(くもん出版)など多数。日本児童出版美術家連盟会員。広島県在住。

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