絵本ナビホーム  >  スペシャルコンテンツ  >  インタビュー  >  おめでとう10周年! 「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズ ひらぎみつえさん・中央大学 山口真美先生・磯崎編集長

「赤ちゃん×しかけ絵本」という今までにないジャンルを確立し、『お、かお?』『ころりん・ぱ』といったベストセラー赤ちゃん絵本を生み出した絵本作家のひらぎみつえさん。あかちゃんの視覚を通した脳の発達を研究されている、中央大学文学部教授/日本赤ちゃん学会理事長の山口真美先生。そして絵本ナビの磯崎園子編集長。
3人の出会いは2018年、「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」30万部突破を記念したインタビューでした。

そしてこの度、「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズ10周年を記念して、再び3人による鼎談が実現! この10年で31冊、累計390万部という驚異的なヒットとなったシリーズを出版し続けるひらぎさんの原動力とは?
ひらぎさんも驚く山口真美流「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」のグループ分けとは…? インタビューを是非お楽しみください。

「感覚・ころりん系」や「いないいないばあ系」? おどろき&ユニークなグループ分け

───今回、お二人と再びお会いできることになって、2018年のインタビューを読み返したのですが、前回の鼎談ではちょうど『ころりん・ぱ!』を制作されている最中で、ラフ(下絵)を見せていただいたんですよね。それから約8年の間にこんなにたくさんのシリーズが増えるなんて…と、改めてひらぎさんのアイデアの豊富さを感じています。

山口:私も今日、全作品をお持ちいただいて読ませていただきましたが、バラエティ豊富でびっくりしました。よーく見ていくと、赤ちゃんの発達や興味によってグループに分けできるなとも思いました。

───グループ分け! どういうグループになるのかすごく気になります。

山口:まずは『ころりん・ぱ!』『ころりん123』などの7作品。これは指でしかけを転がして、動く感覚や形が変わる面白さを楽しむ「感覚・ころりん系」です。

───『ころりん・ぱ!』は、以前のインタビューでは発売前だったので詳しく伺えませんでしたが、シリーズ中でも特に人気になった理由について、山口先生はどのようにお考えですか?

山口:『ころりん・ぱ!』が、ひらぎさんのそれまでのしかけ絵本と違っている点は、説明がほとんどないという所だと思います。それなのに、手にした赤ちゃんはこの絵本をどうやって楽しんだらいいか直感で分かる。それがポイントなんですよね。

ひらぎ:たしかに『ころりん・ぱ!』を作っているときくらいから、赤ちゃんの感覚って、現代アートっぽいなと思ってきて。意味を求めすぎてしまう大人の世界とはちょっと違う「感覚的に楽しい」というのを、絵本で体験してほしいなと思って作るようになった気がします。

───なるほど、その思いは赤ちゃんを通して、大人にも伝わっていますね。

山口:2つ目は『お?かお!』などの4作品。これは私が長年研究している、赤ちゃんが人の顔に注視するという点を絵本で表現する「おかお系」ですね。

ひらぎ:『お?かお!』は「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」の4冊目なのですが、ほるぷ出版さんから聞いたエピソードがすごく印象に残っています。
とある本屋さんで、書店員さんがお客さんから「赤ちゃんにいい絵本ありませんか?」と聞かれたとき、『お?かお!』をおすすめしたそうなんです。その後、書店員さんは「この絵本の面白いところは…」って説明しようとしたのですが、その前にお客さんと一緒にいた赤ちゃんが『お?かお!』を奪い取るように手に持って、遊びはじめちゃった。
書店員さんは思わず「あ、こういうことです」って言ったという……。

山口:すごい! 赤ちゃんがすぐに遊んだことで説明する必要がなくなった。まさに赤ちゃんが選んだ絵本ですね。
3つ目は「いないいないばあ系」。これは『へんしん!おばけちゃん』や『サンタさん、どこにいるの?』など、隠れたものがどこから出てくるか、予測して楽しむタイプの絵本です。

───『ぴったんこ!』は離れているものがくっつくというイメージかなと思ったのですが「いないいないばあ」系なんですね。

山口:これが大人の視点と子どもの視点の面白いところで、赤ちゃんはくっついているものはひとつのものと認識する傾向にあります。なので、パッと離れてはじめて「あ、もうひとついた」と気づく。なので、赤ちゃんからすると『ぴったん・こ!』はかくれんぼしているみたいな感覚。だから「いないいないばあ系」にしました。

ひらぎ:なるほど。

山口:4つ目は「機械・乗り物系」。タイヤが回る、ロードローラーが動くといった、機械的な動きに注目して楽しむ『ブルブルブルドーザー』や『でんしゃガタゴト』など5作品がこのグループです。

───「機械・乗り物系」はシリーズの中でも、少し対象とする年齢が上のような気がしています。

山口:たしかに、私たち大人は自動車や電車を「乗り物」として無意識に理解しているので、「乗り物が分かるのは、1歳からとかもう少し年齢が上がってからじゃないか」と思いがちですが、赤ちゃんの目線は違うんです。
私の研究室で7、8カ月の赤ちゃんにアイカメラをつけて外に出て、何を見ているか調べたことがありました。すると、車全体を見ているわけではなく、タイヤがぐるぐる回ってるところをじーっと見ていたんです。
赤ちゃんは、タイヤの動きやショベルカーの動きなどそれぞれのパーツの機械的な動きに注視するということが分かりました。

ひらぎ:全体ではなく、パーツを見ているんですよね。以前お話を伺ったときに教えていただいて、びっくりしたことを覚えています。

山口:なので「機械・乗り物系」が好きな子は、年齢に関係なく、機械的な動きが好きな子が多いと思います。

最後は「カラダ・ダンス系」。手足が動いたり、くねくねしたりする動きが楽しく、身体の動きそのものへの興味を持つお子さんにおすすめの6作品です。ここには食べ物がテーマの本も入っています。子どもは絵本に出てきた食べ物を食べたくなったり食べる真似をしたりします。その意味で、食べることはとても身体的なことなのです。

───こうしてみると、グループ分けした作品は、出版された時系列がバラバラですね。シリーズ作品というと、一般的にひとつの方向性で固まりがちに思えるのですが、これだけ多様なアイデアを10年変わらず出し続けられることが、本当にすごい。

山口:そうですね。もう少し詳しく分類すると「感覚・ころりん系」も作品によって少し年齢層が変わっていっていることが分かります。例えば『ころりん、ぽい!』は『ころりん・ぱ!』より、しかけに意味が出ています。文章もすこし多くなって、大きい子でも楽しめるようになります。
重要なことは、ひらぎさんが1冊の絵本を制作される中での年齢の感覚がブレないってことだと思うんです。絵本制作中に、対象月齢が5ヶ月から1歳に成長したりしない。そのベースが一貫しているからこそ、赤ちゃんにぴったりと受け入れられるんですね。

2018年の鼎談後のおふたりの変化は…?

───先ほどのグループ分けもそうですが、2018年の鼎談でも、赤ちゃんの視力の話や、「0歳は、大人とは別世界を持っている人。まあ宇宙人と思ったほうがいいかもしれないです」というアドバイスが私の中でとても衝撃で……。ひらぎさんは鼎談後、絵本作りで山口先生のアドバイスを意識されたことなどあったのでしょうか?

ひらぎ:私も8年前のお話しはとても興味深くて、その後の創作にとても影響を受けていると思っています。その反面、「あまり影響を受けすぎてはいけないな……」とせめぎ合うこともあり……(苦笑)。
基本的には、自分の中の興味関心を深めていくというスタンスは変わっていません。まずは自分がワクワクしないといけないと思っていて。

でも、あの鼎談以降「この動きは赤ちゃんの目からはどう見えているのかな?」「この色は見えやすいかな?」など、制作途中で山口先生に教えていただいた観点から眺め直すようになりました。それまではある意味手探りだったのが、すこーし赤ちゃんが分かってきた気がしています。8年前の鼎談のおかげだと、ありがたく思っています。

ひらぎみつえさん

───なるほど。山口先生は、鼎談以降、ご自身の回りで変化を感じることはありましたか?

山口:そうですね。前回の鼎談でもお話ししましたが、以前の赤ちゃん絵本は1歳から3歳までを総称して「赤ちゃん絵本」と呼ぶような傾向があったように感じています。本屋さんでも赤ちゃん絵本のコーナーが大々的に取り上げられていることも少なかったですし……。
鼎談後、ひらぎさんの「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズが次々と出版され、赤ちゃん絵本の定義が再構築されていくにしたがって、今までなかった「感覚的に楽しむ」赤ちゃん絵本が増えて、書店でしっかりコーナーとして並んでいるのをよく目にするようになりました。

山口真美さん

山口真美さん注目の『おや?ころりん!』『ぐるぐるさん』。そして最新作『からだンス』!

───今回、8年ぶりにお会いして「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズ全作品を山口先生に見ていただきましたが、改めて山口先生の気になる作品を教えていただけますか。

山口:この8年間で新たに出版された中ではやはり最新作の『おや?ころりん!』ですね。真ん中に大きい形が「親」、その周りの小さい形が「子」というアイデアが楽しいです。丸、三角、長丸と動きが異なるのも「この親子だったらどんな遊びをするのかな?」と動かす楽しみがあります。星型がギザギザに動くのもとてもかわいい!

ひらぎ:ありがとうございます。形によって動きが変わるところは、細かいところまで考えたので、気づいてもらえてうれしいです。

山口:ギザギザさんだと触感もギザギザしていて、触感遊びにつながるのも赤ちゃんの発達としてとても重要だと思います。あと個人的に驚いた作品は『ぐるぐるさん』です。この最後のページ、2つのぐるぐるさんが一方は拡大しているように見えて、もう一方は縮小しているように見えるというしかけ。実は私の研究室でも同じような実験をしたことがあるんです。

ひらぎ:え、本当に?

山口:モニターに、らせん状の円が拡大する動画と縮小する動画を映して、赤ちゃんはどちらの円を注視するかという実験です。結果は、拡大する方に注視することが分かりました。これは遠近法が分かっているというより、近づいてくるものを感知するという理由からなのですが。その実験と同じ構成が『ぐるぐるさん』に登場していて、びっくり!

ひらぎ:『ぐるぐるさん』を作った時は、何かふしぎな動きをする「ぐるぐるさん」がたくさん出てくると面白いなと思って作っていました。最後のページもあふれ出てくる感じと、吸い込まれる感じが同時に見えたら、どんな反応をするかな?と思っていたので、まさか山口先生の研究に合致しているものがあるなんて、私もびっくりです。

山口:見開きのページに左右で、拡大と縮小を提示してるところも「すごい!こういう見せ方があるんだ」って思いました。ぜひ0歳のお子さんがいらっしゃるご家庭でこのページを見せて、どちらに注視するか、やってみてほしいですね。

───ほかにも新しいチャレンジといえば、『ぴかぴか ころりん・ぱ!』や『ぴかぴか へんしん!おばけちゃん』など、キラキラ輝く紙を使ったしかけ絵本を作られたことだと思います。これは、以前山口先生から伺った「赤ちゃんはキラキラやホログラムなど刺激が強いものが好き」というアイデアが元になっているのかな?と思ったのですが……。

ひらぎ:そうですね。山口先生のお話を伺う前は、赤ちゃんが刺激の強いものが好きということを知らなかったので、それも新しい気付きでした。この2冊を作る時は、ただキラキラにするのではなく、キラキラの中でも、どこにどんなキラキラを入れたら、より効果が出るのか、いろいろ試して制作しました。

───全部、キラキラにするのでなく、しかけの良さを生かしたキラキラを研究されたのですね。ひらぎさんが1冊を制作する中で、何度もしかけを作り、試行錯誤を繰り返しているというのが、本当に大変なことだと思います。今、まさに新作の制作中なんですよね。

ひらぎ:そうなんです。今日、山口先生にグループ分けしていただいた中でいうと「カラダ・ダンス系」になると思います。タイトルもズバリ『からだンス』。

───『からだンス!』。タイトルからもう動きたくなっちゃいますね。そしてしかけがまたかわいい!

山口:これはまた、新しいタイプの動きですね。しかも3人トリオというところがよりダンスしている感じがあって楽しい。ちょっとずつキャラクターが違うのも目を引きますね。これは、赤ちゃんだけでなくもう少し上の年齢の子にもうけると思いました。
何月に出版される予定ですか?

ひらぎ:今、8月に書店に並ぶことを目指して、絶賛制作中です。

10周年のキャッチコピーは「めくるたび、はじめての笑顔」

───今回、「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズ10周年を記念して、新たにシリーズのキャッチコピーが決まったんですよね。

ひらぎ:はい。「めくるたび、はじめての笑顔」です。これは、私が以前から伝え続けている「自分で動かしたら世界が動いた」という体験を通して、赤ちゃんにこの世界を好きになってほしいという気持ちを込めています。

山口:先ほど伺った、書店で赤ちゃんが『お?かお!』ですぐに遊んだというエピソードからも、このシリーズが赤ちゃんの心に直接届いていることが実感として感じられますね。私自身、これからの「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズの発展をとても楽しみにしています。

ひらぎ:ありがとうございます。

───「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」シリーズはこれからもますます、新しい世界を見せてくれることと思います。 今日は本当にありがとうございました。

「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」特設サイト

編集後記

インタビューでは、絵本ナビオリジナルグッズ「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」を山口先生にプレゼントする一幕も。とてもかわいいグッズに山口先生もにっこり。

山口先生大絶賛の「あかちゃんがよろこぶしかけえほん」グッズは絵本ナビショップで購入できます!

出版社おすすめ

  • はるかと森のなかま
    はるかと森のなかま
    出版社:銀の鈴社
    この作品は、銀の鈴社の年刊短編童話集『ものがたりの小径』(テーマ:届く)に収載された作品です。


年齢別で絵本を探す いくつのえほん
【絵本ナビ厳選】特別な絵本・児童書セット
  • ひらぎ みつえ

    ひらぎ みつえ(ひらぎみつえ)

    1977年石川県金沢市生まれ。東京大学文学部卒業後、広告制作会社勤務を経て絵本作家に。 あかちゃんがよろこぶしかけえほんシリーズ『お? かお!』『あー おいしい!』『でんしゃ ガタゴト』『サンタさん どこにいるの?』(ほるぷ出版)など。絵本に『せんたくばさみの サミー』(鈴木出版)『ねぞうプロレス』(教育画劇)などがある。

  • 山口 真美

    山口 真美(やまぐちまさみ)

    お茶の水女子大学大学院人間文化研究科人間発達学専攻修了後、ATR 人間情報通信研究所・福島大学生涯学習教育研究センターを経て、中央大学文学部心理学研究室教授。博士(人文科学)。日本顔学会、日本心理学会理事。新学術領域「トランスカルチャー状況下における顔身体学の構築―他文化をつなぐ顔と身体表現―」領域長。著書に、「赤ちゃんの視覚と心の発達」(東京大学出版会)、「赤ちゃんは顔をよむ」(紀伊国屋書店)、「自分の顔が好きですか?――「顔」の心理学」(岩波ジュニア新書)、「発達障害の素顔 脳の発達と視覚形成からのアプローチ」(講談社ブルーバックス)など。
    http://c-faculty.chuo-u.ac.jp/~ymasa/http://kao-shintai.jp/index.html

全ページためしよみ
年齢別絵本セット