えがないえほん
- 著:
- B・J・ノヴァク
- 訳:
- 大友 剛
- 出版社:
- 早川書房
絵本紹介
2021.07.09
なんやかんやとありまして、2021年7月に東京オリンピックが開催されそうです。それにちなみ、近年人気の絵本から各国代表(!?)を集めてみました。朝日新聞社の本の情報サイト「好書好日」の記事よりご紹介します。(文:好書好日編集部)
「絵がない」「文字だけ」という絵本にもかかわらず、アメリカで70万部突破という異例のベストセラーになった、その名も『えがないえほん』(早川書房)。世界24カ国で翻訳され、日本でも「子どもが大笑いする絵本」として話題に。読むときのルールは一つだけ。「かかれている ことばは ぜんぶ こえに だして よむこと」。「ばぶりんこ」「ばびろんばびろん」「ちゃばら ちゃばら ぽ?!」。恥ずかしがらずに、ぜひ!
パフォーマーになる前は、北海道のフリースクールで4年間働いていましたが、そこで得たのは「大人が子どもの目線に合わせないと、真のコミュニケーションはできない」ということ。声に出して読むだけで大人が着ている鎧を自然に剥ぎ取って、子どもと対等な関係にしてくれる――そんなところがこの絵本の魅力かもしれません。親子で大笑いしながら、子どもとのコミュニケーションを考えるきっかけにしてもらえるとうれしいですね。
(訳者・大友剛さんのインタビューより)
ぼくのママはかいぞく。何カ月もの間、宝の島を目指して仲間と「カニなんてへっちゃら」号で旅をしている——。『ママはかいぞく』(光文社)は、表向きは海賊の物語。けれどやがて、ママが闘っていたのは実は「乳がん」だと分かります。2018年にフランスで出版された直後からヨーロッパ内外で大きな話題となり、今では9カ国で翻訳されています。
この絵本の良いところは「暗くない」ということですね。(がん治療を終えて)お母さんが青ざめて帰ってきて、元気がないというシーンもありますが、全体としてはどちらかというと明るいんです。そうした点も、実際に経験した方が共感してくれるところかもしれませんね。(中略)ヨーロッパには日本よりもはるかに社会的なテーマを扱っている絵本が多いということです。病気や離婚、環境問題、そうした問題を絵本で小さい子にも分かってもらおうという姿勢がある。
(訳者・山本知子さんのインタビューより)
内気な少年・ドンドンが駄菓子屋さんで見つけたのは、6つの「あめだま」。部屋に戻って一粒、口に放り込んでみると、他者の心の声がドンドンの耳に飛び込んできます。「リモコンがはさまって痛い!」と叫んでいるのはソファ。そして、いつも口うるさい父親の心の声は……。韓国で、発売から1年間で10万部を超す大ヒットになったペク・ヒナさんの絵本『あめだま』(ブロンズ新社)。あたたかなストーリー展開、緻密な制作のほか、母親がいない、いわゆる「完全な」家族を描いていないところにも作者の思いが込められています。
家族というのは、構成員が重要なのでない。血縁で結ばれていなくても良い。私が考える「完璧な家族」とは、愛情で結ばれ、繋がっている家族。愛情に満ちた家族であれば、それが完璧な家族だと思うんです。そういった姿を私も提示したいという気持ちがありました。(中略)母親が死んでいるかも知れない。生きているかも知れない。離婚したかも知れない。そうでないかも知れない。それは明確に描きません。仕事や旅行に行ったのかも知れません。そして祖母も、もしかしたら、亡くなっているかも知れません。受け手が自分の状況に置き換え、理解してもらえるような、そんな形にしたかったんです。
(ペク・ヒナさんのインタビューより)
動植物や産業、建築物、食文化、有名な人物などのさまざまなイラストを盛り込んだ絵地図で42カ国を紹介する『マップス』(徳間書店)。世界で33言語以上に翻訳され、300万部を売り上げた大ベストセラーとなっていますが、さらに20カ国をプラスした“愛蔵版”も出版されています。作者はともにイラストレーターのアレクサンドラ・ミジェリンスカさんとダニエル・ミジェリンスキさん夫妻。子どもの頃から日本のアニメや漫画に親しみ、『マップス』では故郷ポーランドの次に日本のページに取りかかったほど日本が好き、という夫妻の人柄にも親しみが持てます。
日本とアメリカというのは、憧れの国なんです。いろいろな「いいもの」がこの2つの遠い国からやってきたというイメージがあります。必ずしもそうではないということも分かっていますが、憧れの、不思議な国でした。小さい頃から、日本のアニメ、漫画、そして黒澤明の映画、ビデオゲームに夢中でした。「ドラゴンボール」や「セーラームーン」がヒットしていましたし、私自身は「攻殻機動隊」、「AKIRA」などが好きでした。それからジブリ作品が大好きになって……というように、日本のポップカルチャーに囲まれた少年時代でした。
(ダニエル・ミジェリンスキさんのインタビューより)
子どもへの思いをシンプルな言葉でつづったアリスン・マギーさんの『ちいさなあなたへ』(主婦の友社)。原書『Someday』は米ニューヨークタイムズのベストセラーとなり、さらに20言語以上で翻訳され、世界中で愛される絵本となっています。人気の秘密は、親でいることの喜びだけでなく、不安や切なさまでもが率直に描かれているからかもしれません。
出版社からの内容紹介
「あのひ、わたしは あなたの ちいさな ゆびを かぞえ、 その いっぽん いっぽんに キスを した」ではじまるこの絵本には、母であることのすべてがつまっています。親でいることの喜び、不安、苦しみ、つらさ、寂しさ、子どもへの思い――普遍の真実が、あたたかな絵とシンプルな言葉で語りつくされ、読む人たちの涙をさそいます。だれもが一生の宝物にしたくなるような絵本です。
2007年、アメリカで発売されるや、アメリカじゅうの母親を号泣させ、NYタイムズやAMAZONの児童書分野で、ハリー・ポッターをおしのけて1位の座を獲得しました。
母親や、これから母になろうとしている女性、巣立とうとしている子どもたち……それぞれの立場で読むことができて、それぞれの感動を味わえる一冊として、たくさんの方に愛されています。
母親としてはもちろん、愛しいわが子には幸福な人生を送ってほしいというのが本音です。子どもが苦悩したり悲しんだり傷ついたりするのを見るのは、親としてとてもつらいことですからね。でもそんなときに忘れてはいけないのは、親が思う以上に子どもたちは強いということ。子どもも一人の人間で、苦しみや悲しみを乗り越える強さを持って生まれてきているのです。
(アリスン・マギーさんのインタビューより)
ユニセフ(国連児童基金)の2020年報告書によると、先進国の子どもの幸福度はオランダが総合1位だったそうです(ちなみに日本は38カ国中20位)。そんなオランダの子どもたちが育つ環境がうかがえるのが、『ぼくといっしょに』(ブロンズ新社)。主人公は、お母さんにお使いを頼まれた「ぼく」。でも家から八百屋までは危険がいっぱい! 森にはドラゴンや巨人がひそみ、海には人喰いザメやかいぞくが……。読者も「ぼく」といっしょに、思わずアドベンチャーの世界に誘われます。
もしかしたら、オランダの絵本の方が、少し距離をおいたような形で話すというか、子どもの「個」を尊重する表現になっているのかもしれません。(中略)日本だとどうしても、子どもの行動を親が先回りして決めてしまい、「あなたの言いたいことはわかっている」という風になりがちです。そこをいったん切って、「私は私だけれども、あなたはどうなの?」と聞くのがオランダ風、「個」を大切にする価値観なのです。冷たいように聞こえるかもしれませんが、小さいうちから自分で選択することの積み重ねが、自分の生き方は自分で決めるという大事なことにつながっていく。私自身はそう捉えています。
(訳者・野坂悦子さんのインタビューより)