───ページをパラパラとめくっていくと、ほぼ同じ場所に文章が配置されていることに気づいたのですが、やはりここにもこだわりがあるのでしょうか?
原画を見た瞬間に、「文字は、この世界のただ中に置きたい」と思ったんですよ。
───「ただ中」...?
絵本の文章って、6〜7 割はページの左上にあって、文字の色も黒が基本だと思います。ただ、 それを『おやすみのあお』でやると、 客観的で叙述的な表現になりすぎてしまうように感じて、上下から見て真ん中、『おやすみのあお』の世界のただ中に置きました。その場合、黒い文字にしてしまうと絵の世界を分断し てしまうので、黒に青を混ぜた色を文字に使いました。よく見ていただくと、わかると思います。
───本当だ! 黒と青が確かに混ざっている様に感じられます。
絵本をめくっていくと、普通は時間が流れて行ったり、物語が進行していったりしますよね。でも、『おやすみのあお』はページをめくっていっても、物語が進んでいくとは言い切れない。時間そのものが不定形で伸縮自由な世界だと思います。だからこれまた見返しの時のように最低限の一定さを通すために左側に文字を置くようにしました。
───あるタイミングで、文字が右側に来るところもありますよね。これはどういう意味が込められているんですか?
右に置くことは、時間の速さを変えていく感覚です。後半は植田さんの文章のスピードがアップして「おやすみのあお」という一文も出ないところがあるので、そのギアチェンジの感覚で、右に置きました。

───表紙、見返し、本文と見てきて、あとは背表紙の 部分ですが、ここに描かれている鳥の尻尾がちょっとはみ出しているのがカワイイと思いました。ここにもやはり、こだわりがありますよね。
こだわりという訳ではないですが、背幅の白地をほんの少し短くして、両端から青がちょっと見えるようなデザインにしました。そうすると、書店で棚に差されたとき、青い色がちょっぴり見えてかっこいいかなと思いました。
───たしかに、白い背表紙が並んでいる中に青い色が見えたら、書店でも目立ちますよね。羽島さんのおはなしを聞いて、デザイナーさんの絵本の関わり方の深さ、読み込みの深さに感動しました。
ぼくは、植田さんの描いた『おやすみのあお』の世界を自分なりに理解して、把握したうえで、寄り添うことができれば本望だなと思っているので、絵本を手に取った読者の方たちにもその思いが届いて、この作品の素晴らしさが伝わったらうれしいです。だから、絵本のデザインがどこまで作品のお手伝いができるかは、同じものはひとつとしてない、いつも緊張かつワクワクの体験ですね。

───植田さんは、羽島さんのおはなしを聞いて、 どう思いましたか?
───本当にそうですよね。『おやすみのあお』について、作家さんとデザイナーさんのお二人からおはなしを伺えて、とても幸せでした。最後に、絵本ナビユーザーへ、『おやすみのあお』のみどころ、メッセージを頂けますか?
『おやすみのあお』はタイトルにある様に、おやすみ前に読んでいただいてもいいですし、今回、お話ししたように、意識のおやすみの時間、想像のおやすみの時間など、皆さんのお好きな時間に手に取って、楽しんでもらえたら嬉しいです。 ぼくがこの『おやすみのあお』を作った背景には、最近の情報過多とも思える世の中に対する危機感のようなものがありました。毎日、SNSやインターネットから、大量の情報が 降りかかってくる。そうすると、世の中のことを知った気持ちになってしまうんですよね。 でも、情報だけでは分からないことの方が実際は多いと思うんです。
───例えば外国などは、写真で見るよりも実際に行った方がその国の人々であったり、 状態であったり、匂いであったり、色々感じることができますよね。
そうなんです。情報がたくさん手に入ることは、豊かかもしれないけれど、辛いと感じることもあると思うんです。自分だけが知らない...という恐怖だったり孤立感だったり。でも、情報だけでは、ニュアンスまでは伝わらないし、本当の意味で「知っていること」にはならないと思うんです。そう考えると、ぼくたちが知っていることって、実は今でもすごく狭い範囲のことだけなんじゃないか...って。知らないことの方がたくさんあるということに気づくだけでも、解放される子どもがきっといると思います。『おやすみのあお』は、本来は眠りの世界に入っていて、見ることのできない外側の時間を描いています。知らないことがたくさんあるということが、希望であったり、何らかの救いになってくれればいいなと思います。
───私も普段、意識をしていない世界を感じること、空想することが救いにつながると、『おやすみのあお』を通して感じることができました。今日は本当にありがとうございました。


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